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第二十六話女王ロザリアの帰還①
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「ハリス閣下、ロザリア女王陛下が
視察先よりお戻りになりました」
内閣府の秘書官が最敬礼でそう告げると、
ハリスは書類から視線をはずした。
ハリスの伏せていたアクアブルーの瞳が、
自身を映し出すと年の若い女性秘書官が思わず赤面する。
硬質な金色の髪をワックスでゆるく流し、
黒みがかった濃い茶色のスーツに
ボルドーのタイを合わせたハリスは、誰もが振り返る美貌である。
「それで望みのものは得ることができたのか?」
すらりと長い足を組み、胸の前で手を組んだハリスが問うと、
「万事つつがなく」
秘書官は目礼し、その場を退出した。
「そうか」
ハリスは立ち上がり部屋の窓まで歩いていき、
ブラインドの隙間から、その光景を眩し気に見つめた。
◇◇◇
ライネル公国の内閣府の敷地に国王の乗る飛空艇が降り立つと、
職員一同が最敬礼をし、主の下船を待った。
「みんな~、たっだいま~♡」
にこやかに手を振りながらタラップを降りてくるのは、
プラチナブロンドの髪のショートカットの美女だ。
ニットワンピをゆるく着こなし、膝丈のブーツを合わせた、
モデルかと見紛うプロポーションと美脚の持ち主である。
いや、実際に現在も現役モデルであり、優秀なデザイナーでもある。
この女性こそがロザリア・ライネル。
ライネル公国の第272代女王だ。
その後に二人の軍服姿の少年が立つ。
右にはライネル公国の近衛隊のエース、ミッド・ブライアン、
そして左には近衛隊と力を二分する黒鳥部隊のエース、
イリオス・エルダートンだ。
近衛隊が白地に金の縫い取りが施された軍服であるのに対し、
黒鳥部隊はその名の通り黒地に銀のモチーフである。
「は~い、ミッドもイリオスもお疲れ~
これであなたたちの任務は完了よ。
今日はゆっくり休んでね」
そう言ってロザリアが気さくに二人の背を叩くと
「はっ!」
少し緊張した面持ちで二人の少年が敬礼した。
今回の任務は領内の南の島で採掘された珍しい宝石の取引だ。
女王セシリアは大国の連合相手に、この取引を見事に成功させ、
ライネル公国に莫大な利益をもたらした。
ロザリア女王の即位当初こそ、女王というものは
心もとないという意見が家臣重心、ひいては国民の中にもあったのだが、
即位から12年の月日を経て、たたき出し続けた結果がそれらの
意見を撃沈させた。
公務という激務を戦いぬくことが、愛する家族を守ることなんだと
己を奮い立たせてここまできたが、
「ここからは完全プライベートよねぇ~」
夜も更けゆくころ、
ロザリアは自身をとりまく侍女や侍従をまいて、
国王の住まう紫宸殿を抜け出した。
向かう先は、当然東宮殿である。
そして二階に位置するアレックの執務室へと
一心不乱に壁をよじ登っていった。
「は~い♡ アレックー♡」
やたらと甘ったるいその声に、アレックが戦慄を覚えた。
机の上に平積みされた書類に目を通していた
アレックの顔が、恐怖に引きつる。
窓を開け、ロザリアに震える手を差し伸べ部屋に入れてやる。
「なんでお前は玄関から入ってこない?」
恐怖に心拍数が上がっているのが分かる。
しかも体中に変な汗をかいている。
「ん? なんでだろ?
それはアレックに一刻も早く会いたかったか・ら♡」
そう言ってロザリアが人差し指を顔の前で振って見せる。
(なんだろう。イラっとする……)
アレックは自分の血圧が上昇するのを感じた。
ストレスでとんでもない速さで瞬きをしている。
「先に私の部屋に行っていろ。私もすぐに行く」
そう言ってアレックは、
執務机に並べられた書類を片付けはじめた。
「はい、は~い♡」
ロザリアは機嫌よく返事をし、窓枠に足をかけた。
その襟首をアレックが引っ掴む。
「今は夜中で、ここは二階ですよ?
お分かりですか? 女王陛下」
そう言ってアレックが微笑むと、
ロザリアもにっこりと微笑み
アレックの頬を両手で包みこみ、
いたずらっぽくアレックの眼鏡をはずす。
「まぁ♡ このわたくしを
待たせるおつもりですか? 王配陛下」
ロザリアの澄んだアクアブルーの瞳が自分を映し出すと、
アレックの思考回路が停止する。
(私は……こいつのこの瞳が苦手だ。
この目を前にすると
私は蛇に睨まれた蛙の様になってしまう。
魔女か? コイツは魔女なんか?
だったら一体どんな魔力を使いやがったんだ?
マヌーサ? メダパニ? パルプンテか?
いや……そんな生易しいものじゃない。
コイツの発動魔法は……『ザラキ』だ)
死の呪文をその身に帯びる恐怖に、
アレックの身体の震えが止まらない。
閃光の騎士、無敵の剣豪と謳われたアレック・ブライアンは、
ただじりじりと為す術もなく後退する。
そんなアレックに微笑を浮かべたロザリアが
アレックを追い詰める。
壁際に追い詰めたアレックに、
とどめをさすかのようにロザリアが濃厚に口付けた。
唇の重なりから歯間を割って、舌が絡められると、
たまらずアレックがロザリアを横抱きにした。
「あのね、ちょっと待ってください?
女王陛下。さすがにここはまずい。
実の息子と親友から預かった娘がいるからね」
色んな事に切羽詰まったアレックは、最後の理性を振り絞り
ロザリアを抱きかかえ、窓から地面に飛び降りた。
「わたくしの気持ちがお分かりになって? 王配陛下」
ロザリアの艶めかしい唇がアレックの人差し指を啄むと、
アレックの瞳孔が開いた。
視察先よりお戻りになりました」
内閣府の秘書官が最敬礼でそう告げると、
ハリスは書類から視線をはずした。
ハリスの伏せていたアクアブルーの瞳が、
自身を映し出すと年の若い女性秘書官が思わず赤面する。
硬質な金色の髪をワックスでゆるく流し、
黒みがかった濃い茶色のスーツに
ボルドーのタイを合わせたハリスは、誰もが振り返る美貌である。
「それで望みのものは得ることができたのか?」
すらりと長い足を組み、胸の前で手を組んだハリスが問うと、
「万事つつがなく」
秘書官は目礼し、その場を退出した。
「そうか」
ハリスは立ち上がり部屋の窓まで歩いていき、
ブラインドの隙間から、その光景を眩し気に見つめた。
◇◇◇
ライネル公国の内閣府の敷地に国王の乗る飛空艇が降り立つと、
職員一同が最敬礼をし、主の下船を待った。
「みんな~、たっだいま~♡」
にこやかに手を振りながらタラップを降りてくるのは、
プラチナブロンドの髪のショートカットの美女だ。
ニットワンピをゆるく着こなし、膝丈のブーツを合わせた、
モデルかと見紛うプロポーションと美脚の持ち主である。
いや、実際に現在も現役モデルであり、優秀なデザイナーでもある。
この女性こそがロザリア・ライネル。
ライネル公国の第272代女王だ。
その後に二人の軍服姿の少年が立つ。
右にはライネル公国の近衛隊のエース、ミッド・ブライアン、
そして左には近衛隊と力を二分する黒鳥部隊のエース、
イリオス・エルダートンだ。
近衛隊が白地に金の縫い取りが施された軍服であるのに対し、
黒鳥部隊はその名の通り黒地に銀のモチーフである。
「は~い、ミッドもイリオスもお疲れ~
これであなたたちの任務は完了よ。
今日はゆっくり休んでね」
そう言ってロザリアが気さくに二人の背を叩くと
「はっ!」
少し緊張した面持ちで二人の少年が敬礼した。
今回の任務は領内の南の島で採掘された珍しい宝石の取引だ。
女王セシリアは大国の連合相手に、この取引を見事に成功させ、
ライネル公国に莫大な利益をもたらした。
ロザリア女王の即位当初こそ、女王というものは
心もとないという意見が家臣重心、ひいては国民の中にもあったのだが、
即位から12年の月日を経て、たたき出し続けた結果がそれらの
意見を撃沈させた。
公務という激務を戦いぬくことが、愛する家族を守ることなんだと
己を奮い立たせてここまできたが、
「ここからは完全プライベートよねぇ~」
夜も更けゆくころ、
ロザリアは自身をとりまく侍女や侍従をまいて、
国王の住まう紫宸殿を抜け出した。
向かう先は、当然東宮殿である。
そして二階に位置するアレックの執務室へと
一心不乱に壁をよじ登っていった。
「は~い♡ アレックー♡」
やたらと甘ったるいその声に、アレックが戦慄を覚えた。
机の上に平積みされた書類に目を通していた
アレックの顔が、恐怖に引きつる。
窓を開け、ロザリアに震える手を差し伸べ部屋に入れてやる。
「なんでお前は玄関から入ってこない?」
恐怖に心拍数が上がっているのが分かる。
しかも体中に変な汗をかいている。
「ん? なんでだろ?
それはアレックに一刻も早く会いたかったか・ら♡」
そう言ってロザリアが人差し指を顔の前で振って見せる。
(なんだろう。イラっとする……)
アレックは自分の血圧が上昇するのを感じた。
ストレスでとんでもない速さで瞬きをしている。
「先に私の部屋に行っていろ。私もすぐに行く」
そう言ってアレックは、
執務机に並べられた書類を片付けはじめた。
「はい、は~い♡」
ロザリアは機嫌よく返事をし、窓枠に足をかけた。
その襟首をアレックが引っ掴む。
「今は夜中で、ここは二階ですよ?
お分かりですか? 女王陛下」
そう言ってアレックが微笑むと、
ロザリアもにっこりと微笑み
アレックの頬を両手で包みこみ、
いたずらっぽくアレックの眼鏡をはずす。
「まぁ♡ このわたくしを
待たせるおつもりですか? 王配陛下」
ロザリアの澄んだアクアブルーの瞳が自分を映し出すと、
アレックの思考回路が停止する。
(私は……こいつのこの瞳が苦手だ。
この目を前にすると
私は蛇に睨まれた蛙の様になってしまう。
魔女か? コイツは魔女なんか?
だったら一体どんな魔力を使いやがったんだ?
マヌーサ? メダパニ? パルプンテか?
いや……そんな生易しいものじゃない。
コイツの発動魔法は……『ザラキ』だ)
死の呪文をその身に帯びる恐怖に、
アレックの身体の震えが止まらない。
閃光の騎士、無敵の剣豪と謳われたアレック・ブライアンは、
ただじりじりと為す術もなく後退する。
そんなアレックに微笑を浮かべたロザリアが
アレックを追い詰める。
壁際に追い詰めたアレックに、
とどめをさすかのようにロザリアが濃厚に口付けた。
唇の重なりから歯間を割って、舌が絡められると、
たまらずアレックがロザリアを横抱きにした。
「あのね、ちょっと待ってください?
女王陛下。さすがにここはまずい。
実の息子と親友から預かった娘がいるからね」
色んな事に切羽詰まったアレックは、最後の理性を振り絞り
ロザリアを抱きかかえ、窓から地面に飛び降りた。
「わたくしの気持ちがお分かりになって? 王配陛下」
ロザリアの艶めかしい唇がアレックの人差し指を啄むと、
アレックの瞳孔が開いた。
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