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第四十八話悪役令嬢は祈りを捧げる。
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「セシリア様、エリオット様、
お食事の用意が整いました」
控え目なノックの後で、メイドがそう伝えた。
「では参りましょうか、エリオットお姉さま」
ゼノアはそう言って、
ベッドから降りるとスカートのプリーツを整えた。
「少し待っていただける? 私髪を梳かしたいの」
そう言ってエリオットが鏡台の前に座ると、
「まあ、ではわたくしがやって差し上げるわ」
そう言ってゼノアが鏡台の引き出しからブラシを取り出して、
エリオットの髪を梳かした。
鏡の中に映る二人の姿は、親し気な姉妹のように見える。
エリオットの背に流れる豊かな黒髪は、絹糸のような滑らかな手触りだ。
ゼノアはそのひと房を手にとって、口付けた。
「きれいな髪だな」
鏡越しにゼノアに見つめられて、エリオットが赤面する。
「あなたの髪もとてもきれいよ」
そう言って微笑んでみても、ゼノアの表情は晴れない。
「俺はこの女装が大嫌いで、セシリアも男装が大嫌いだった」
エリオットは黙って、ゼノアの話に耳を傾ける。
「だけど今は……お前が隣にいてくれるなら、
女装も悪くないなって思ってる。
お前は思い違いをしている。
男だって、全然怖くないしっ……。
お前が嫌がるなら、別に女の恰好だって……」
ゼノアはそう言って口ごもる。
「そうね、ごめんなさい、ゼノア。
私もね、国元に弟……厳密には違うのだけれど、
そういう存在がいるのよ。
彼らのことはとても愛おしいと思っていたの。
だからあなたのことも、大切な弟だと思う事にするわね」
そういってエリオットがゼノアの手を取った。
「お前、なんとか傷つけずに
俺をフル方法を模索してやがるな?」
ゼノアの眼差しが鋭くなった。
「え? そんなつもりじゃ……」
エリオットが目を瞬かせる。
「では、私はどうやってあなたを愛せばいいのかしら」
エリオットが少し困ったような顔をした。
「少なくとも、それは弟という存在じゃねぇ。
そのカテゴリーには入れるな」
ゼノアの言葉に、エリオットが戸惑う。
「妹は良くて弟はだめなの?」
そう問うと、
「妹はなんか、淫猥な響きがするから可だ」
ゼノアが真顔で答えた。
「なによ、それ……」
エリオットはがっくりと肩を落とした。
「そんなことよりお食事よ、エリオットお姉さま。
食堂にいきましょう」
そういって、ゼノアがセシリアのフリをして
エリオットの手をとった。
◇◇◇
「お前、好き嫌いはないのか?」
食堂に着き、席に着くと、ゼノアがエリオットに問うた。
「ええ、特には」
テーブルセットの真ん中に蝋燭の灯が揺らめき、
一目で高価だとわかるアンティークな調度品が体裁よく
整えられてはいるが、この食堂は二人で食事をとるには
少し広すぎると、エリオットは思った。
高い天井、豪奢なシャンデリア、
この少年には大きすぎる椅子とテーブル。
「あなたはいつもここで食事をとるの?」
エリオットが問うた。
エリオットはこの場所で
この少年が一人で食事をとる様を想像した。
それはどこか寒々とした光景だった。
「いや、あまり。俺はここがあまり好きじゃない。
セシリアがいた頃はそうでもなかったんだけどな」
蝋燭の向こうで、ゼノアが寂しそうに笑った。
「そうなの。ではどこで食事を?」
エリオットがそう問うた。
「夜は請けを行っていることが多いから、
その先での接待とか、部下と取ることが多いかな」
そのタイミングで前菜が運ばれてきた。
「あなたは何が好きなの?」
エリオットが優しくゼノアに微笑みかけた。
「お前が好き」
間髪を入れずにゼノアが真顔で答える。
「いや、だから食べ物の話」
エリオットが赤面する。
「そうだな。ハンバーグが好きかな」
少し考えてから、ゼノアが答えた。
「そう、覚えておくわね」
エリオットが嬉しそうに笑っている。
そんな他愛のない話をして、食事を終えた。
お互いの部屋に戻る直前に、エリオットが振り返ってゼノアに言った。
「あのね、ゼノア。
私を好きになってくれて、ありがとう」
エリオットの言葉に、ゼノアが目を細めた。
◇◇◇
エリオットが自室に戻ると、既に入浴の準備が整えられていた。
エリオットは衣服を脱いで、姿見に自身の裸体を映した。
ナイフを突き刺した傷跡が、きれいさっぱりときえている。
(秘薬とは、かくもすごいものなのか)
エリオットはその傷口のあった場所に触れてみた。
様々なことを思い出す。
去っていく父の背中。
最後に見たミシェルのガラス玉のような無機質な瞳。
例え胸の傷跡は一見癒えたようにみえても、この心は知っている。
この手はすでに血の色の罪に染まってしまっているということを。
(こんな罪に満ちた私が許されるわけはないのだ)
軽くシャワーを浴びて、エリオットはバスローブを羽織った。
髪を乾かして、薄くメイクを施すと、
クローゼットに吊るされていた清楚なワンピースに着替えた。
身支度を整えると、ベッドに腰をかけて、自身の胸に身に着けていたロザリオを外す。
十字架をかたどる宝石の一つを取り出すと、その口に含んだ。
「天の父なる神、子なる御子よ、
どうか今度こそ、迷うことなく天の御国に導き入れたまえ」
ロザリオに仕込まれていたのは、劇薬だ。
間もなくこの生は終わる。
エリオットは瞳を閉じて、祈りに入る。
お食事の用意が整いました」
控え目なノックの後で、メイドがそう伝えた。
「では参りましょうか、エリオットお姉さま」
ゼノアはそう言って、
ベッドから降りるとスカートのプリーツを整えた。
「少し待っていただける? 私髪を梳かしたいの」
そう言ってエリオットが鏡台の前に座ると、
「まあ、ではわたくしがやって差し上げるわ」
そう言ってゼノアが鏡台の引き出しからブラシを取り出して、
エリオットの髪を梳かした。
鏡の中に映る二人の姿は、親し気な姉妹のように見える。
エリオットの背に流れる豊かな黒髪は、絹糸のような滑らかな手触りだ。
ゼノアはそのひと房を手にとって、口付けた。
「きれいな髪だな」
鏡越しにゼノアに見つめられて、エリオットが赤面する。
「あなたの髪もとてもきれいよ」
そう言って微笑んでみても、ゼノアの表情は晴れない。
「俺はこの女装が大嫌いで、セシリアも男装が大嫌いだった」
エリオットは黙って、ゼノアの話に耳を傾ける。
「だけど今は……お前が隣にいてくれるなら、
女装も悪くないなって思ってる。
お前は思い違いをしている。
男だって、全然怖くないしっ……。
お前が嫌がるなら、別に女の恰好だって……」
ゼノアはそう言って口ごもる。
「そうね、ごめんなさい、ゼノア。
私もね、国元に弟……厳密には違うのだけれど、
そういう存在がいるのよ。
彼らのことはとても愛おしいと思っていたの。
だからあなたのことも、大切な弟だと思う事にするわね」
そういってエリオットがゼノアの手を取った。
「お前、なんとか傷つけずに
俺をフル方法を模索してやがるな?」
ゼノアの眼差しが鋭くなった。
「え? そんなつもりじゃ……」
エリオットが目を瞬かせる。
「では、私はどうやってあなたを愛せばいいのかしら」
エリオットが少し困ったような顔をした。
「少なくとも、それは弟という存在じゃねぇ。
そのカテゴリーには入れるな」
ゼノアの言葉に、エリオットが戸惑う。
「妹は良くて弟はだめなの?」
そう問うと、
「妹はなんか、淫猥な響きがするから可だ」
ゼノアが真顔で答えた。
「なによ、それ……」
エリオットはがっくりと肩を落とした。
「そんなことよりお食事よ、エリオットお姉さま。
食堂にいきましょう」
そういって、ゼノアがセシリアのフリをして
エリオットの手をとった。
◇◇◇
「お前、好き嫌いはないのか?」
食堂に着き、席に着くと、ゼノアがエリオットに問うた。
「ええ、特には」
テーブルセットの真ん中に蝋燭の灯が揺らめき、
一目で高価だとわかるアンティークな調度品が体裁よく
整えられてはいるが、この食堂は二人で食事をとるには
少し広すぎると、エリオットは思った。
高い天井、豪奢なシャンデリア、
この少年には大きすぎる椅子とテーブル。
「あなたはいつもここで食事をとるの?」
エリオットが問うた。
エリオットはこの場所で
この少年が一人で食事をとる様を想像した。
それはどこか寒々とした光景だった。
「いや、あまり。俺はここがあまり好きじゃない。
セシリアがいた頃はそうでもなかったんだけどな」
蝋燭の向こうで、ゼノアが寂しそうに笑った。
「そうなの。ではどこで食事を?」
エリオットがそう問うた。
「夜は請けを行っていることが多いから、
その先での接待とか、部下と取ることが多いかな」
そのタイミングで前菜が運ばれてきた。
「あなたは何が好きなの?」
エリオットが優しくゼノアに微笑みかけた。
「お前が好き」
間髪を入れずにゼノアが真顔で答える。
「いや、だから食べ物の話」
エリオットが赤面する。
「そうだな。ハンバーグが好きかな」
少し考えてから、ゼノアが答えた。
「そう、覚えておくわね」
エリオットが嬉しそうに笑っている。
そんな他愛のない話をして、食事を終えた。
お互いの部屋に戻る直前に、エリオットが振り返ってゼノアに言った。
「あのね、ゼノア。
私を好きになってくれて、ありがとう」
エリオットの言葉に、ゼノアが目を細めた。
◇◇◇
エリオットが自室に戻ると、既に入浴の準備が整えられていた。
エリオットは衣服を脱いで、姿見に自身の裸体を映した。
ナイフを突き刺した傷跡が、きれいさっぱりときえている。
(秘薬とは、かくもすごいものなのか)
エリオットはその傷口のあった場所に触れてみた。
様々なことを思い出す。
去っていく父の背中。
最後に見たミシェルのガラス玉のような無機質な瞳。
例え胸の傷跡は一見癒えたようにみえても、この心は知っている。
この手はすでに血の色の罪に染まってしまっているということを。
(こんな罪に満ちた私が許されるわけはないのだ)
軽くシャワーを浴びて、エリオットはバスローブを羽織った。
髪を乾かして、薄くメイクを施すと、
クローゼットに吊るされていた清楚なワンピースに着替えた。
身支度を整えると、ベッドに腰をかけて、自身の胸に身に着けていたロザリオを外す。
十字架をかたどる宝石の一つを取り出すと、その口に含んだ。
「天の父なる神、子なる御子よ、
どうか今度こそ、迷うことなく天の御国に導き入れたまえ」
ロザリオに仕込まれていたのは、劇薬だ。
間もなくこの生は終わる。
エリオットは瞳を閉じて、祈りに入る。
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