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第二十三話 小さな恋の物語
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学園にあるチャペルの鐘を、
好きな人とふたりで鳴らすと、
そのふたりは永遠に結ばれるのよ。
母さんが昔話してくれた、
父さんとの馴れ初めの話だ。
学生結婚をした俺の両親も、
やっぱり一緒にその鐘を鳴らしたらしい。
今はもう朧げな記憶で、
はっきりとは思い出せない部分も多いのだけれど……。
あれは……初等部のころの……俺?
聖マリア祭の朝、
俺は天使の衣装を身につけて、
学園のチャペルを覗いた。
誰もいない礼拝堂の静謐な空気の中で、
一人の少年が、跪いて祈っていた。
天窓から差し込む陽光が、少年の髪を照らして、
それはとてもきれいだったんだ。
硬質な金色の髪は、ヒマワリのように周囲を明るく照らす。
俺は一目でその色を好きになった。
だけど少年は小さく肩を震わせて、
泣いていたんだ。
それがあまりにも痛々しくて、
俺は背後からそっと少年を抱きしめた。
「泣かないで」
そう囁くと、少年はとても驚いた顔をして
「天使…‥さま?」
と呟いた。
「ううん、
ここの学園の生徒だよ。
君は?」
俺の問いに、少年ははにかんだ様な笑みを浮かべた。
「みなづき……りょうっていうんだ」
金色の髪に、アクアブルーの瞳をした、
それは俺なんかよりよっぽど天使のような、美しい少年で……。
「初めまして、りょう」
俺は少年の頬にキスをした。
彼の悲しい涙の跡を拭ってやりたかったんだ。
「わぁっ!」
そしたら彼はなぜだか真っ赤になった。
「日本男児だるもの、初対面でそんなっ、そんなっ、接吻などっ!
破廉恥なっ!!」
この子、日本にまだ慣れてないのかな?
なんか日本語が変。
俺は思わずぷっと噴き出してしまった。
「日本男児だなんてっ……いまどきそんな言い方しないよ。
ぷくくっ……。
それにりょう君はどう見たって日本男児っていうより、
西洋の美しい王子様じゃないか」
悪気があったわけじゃなくて、
それは何気なく言った言葉だった。
だけどりょう君は、とても悲しそうな顔をして
ポロポロと涙を流した。
「やっぱり僕は立派な日本男児にはなれないのかなぁ……。
おばあ様が僕のこの容姿をひどく嫌うの。
髪の色も、瞳の色も、大嫌いだって。
お父さんをかどわかした、下賤の女の血の証だって……」
しょんぼりと肩を落とすりょう君を、
俺はきつく抱きしめた。
「日本男児になんて、ならなくていいよ。
りょう君はりょう君のままでいいんだ」
事情もよくわからないくせに、
なぜだか俺はりょう君に力説している。
「他の誰かに何を言われたって、そんなの構わない。
だけど、りょう君はりょう君のことをどうか嫌いにならないで」
涙ぐみながら熱弁を振るう俺を見て、
りょう君はきょとんとしている。
「どう……して?」
目をまんまるにしている。
「俺がりょう君を好きだからだよっ!
その髪の色も、瞳の色も、
とても、とてもきれいなんだっ!
俺の……好きな色なんだっ!!」
俺の絶叫になぜだかりょう君が撃沈している。
「君、そっ……それは……ひょっとして……愛の告白かい?」
りょう君はなぜだか、
ぽっと頬を染めて乙女のごとき眼差しで俺を見つめている。
『あいのこくはく???』
何それ、美味しいの?
俺は目を瞬かせて、首を傾げた。
「君の熱い愛の告白は、確かにこの僕の胸を強く打った。
いいだろう。僕は君の愛の告白を受け入れよう」
りょう君の目に強い光が宿った。
それを見て、俺はなんだかほっとして、
嬉しかったんだ。
「君は知っているだろうか。
このチャペルにある鐘の伝説を」
年相応の少年らしい表情を浮かべて、
りょう君は俺に囁いた。
俺たちは息せき切って、駆け出して、
ふたりで思いっきり鐘を鳴らしてやった。
リンゴーン! リンゴーン!!
と鐘の音が周囲に響き渡ると、
「こらー! またイタズラをしよって!!」
神父さまの怒声が聞こえてくる。
「やっべー!」
俺たちは手を繋いで駆け出した。
チャペルを抜けて、
学園のエントランスの前までに走っていくと
「りょう様~! どちらにおいでです?」
りょうくんの家の運転手さんや、付き添いの人たちが、
血相を変えてりょう君のことを探していた。
「僕…‥もう行かなきゃ」
りょう君はしょんぼりと肩を落とした。
「そんな顔をしないでよ。
俺たち一緒にチャペルの鐘を鳴らしただろ?」
元気づけるようにそう言ってやると、
「うんっ!」
りょう君は嬉しそうに笑った。
「だからきっとまた会える」
そう言って……俺は……りょうくんの唇に……
口づけた……だと???
◇◇◇
そしてぱっちりと目を覚ます。
そこは水無月さん家のリビングで……。
なぜだか水無月さんの胸板に顔を埋めている。
えっ? ちょっと待って? どういう状況?? これ!
軽くパニックに陥りながら、俺は昨夜を思い出す。
そうだよ、俺、水無月さんとキスの特訓をしていて、
うっかり理性が飛んじまった水無月さんにキスされて、腰を抜かしたんだった。
情けねぇっ……。
ほいでもって、動けない俺に付き合って
水無月さんがここに寝具を運んで添い寝してくれたんだったよな。
レースのカーテンから漏れる朝の陽光が、
あの日と同じ硬質の金色の髪を照らして、
ヒマワリのように輝いている。
そういえば、この人の名前は水無月……涼だったけ?
「りょう……くん?」
俺は恐る恐る、隣で眠る人物に問いかけてみた。
「なんだぁ? 瑞樹……お前、
ついに名前呼びに目覚めたのか?」
水無月さんはまんざらでもなさそうに
愛おし気に俺を見つめている。
学園にあるチャペルの鐘を、
好きな人とふたりで鳴らすと、
そのふたりは永遠に結ばれるのよ。
今は亡き母さんの声が、
ふっと聞こえたような気がした。
好きな人とふたりで鳴らすと、
そのふたりは永遠に結ばれるのよ。
母さんが昔話してくれた、
父さんとの馴れ初めの話だ。
学生結婚をした俺の両親も、
やっぱり一緒にその鐘を鳴らしたらしい。
今はもう朧げな記憶で、
はっきりとは思い出せない部分も多いのだけれど……。
あれは……初等部のころの……俺?
聖マリア祭の朝、
俺は天使の衣装を身につけて、
学園のチャペルを覗いた。
誰もいない礼拝堂の静謐な空気の中で、
一人の少年が、跪いて祈っていた。
天窓から差し込む陽光が、少年の髪を照らして、
それはとてもきれいだったんだ。
硬質な金色の髪は、ヒマワリのように周囲を明るく照らす。
俺は一目でその色を好きになった。
だけど少年は小さく肩を震わせて、
泣いていたんだ。
それがあまりにも痛々しくて、
俺は背後からそっと少年を抱きしめた。
「泣かないで」
そう囁くと、少年はとても驚いた顔をして
「天使…‥さま?」
と呟いた。
「ううん、
ここの学園の生徒だよ。
君は?」
俺の問いに、少年ははにかんだ様な笑みを浮かべた。
「みなづき……りょうっていうんだ」
金色の髪に、アクアブルーの瞳をした、
それは俺なんかよりよっぽど天使のような、美しい少年で……。
「初めまして、りょう」
俺は少年の頬にキスをした。
彼の悲しい涙の跡を拭ってやりたかったんだ。
「わぁっ!」
そしたら彼はなぜだか真っ赤になった。
「日本男児だるもの、初対面でそんなっ、そんなっ、接吻などっ!
破廉恥なっ!!」
この子、日本にまだ慣れてないのかな?
なんか日本語が変。
俺は思わずぷっと噴き出してしまった。
「日本男児だなんてっ……いまどきそんな言い方しないよ。
ぷくくっ……。
それにりょう君はどう見たって日本男児っていうより、
西洋の美しい王子様じゃないか」
悪気があったわけじゃなくて、
それは何気なく言った言葉だった。
だけどりょう君は、とても悲しそうな顔をして
ポロポロと涙を流した。
「やっぱり僕は立派な日本男児にはなれないのかなぁ……。
おばあ様が僕のこの容姿をひどく嫌うの。
髪の色も、瞳の色も、大嫌いだって。
お父さんをかどわかした、下賤の女の血の証だって……」
しょんぼりと肩を落とすりょう君を、
俺はきつく抱きしめた。
「日本男児になんて、ならなくていいよ。
りょう君はりょう君のままでいいんだ」
事情もよくわからないくせに、
なぜだか俺はりょう君に力説している。
「他の誰かに何を言われたって、そんなの構わない。
だけど、りょう君はりょう君のことをどうか嫌いにならないで」
涙ぐみながら熱弁を振るう俺を見て、
りょう君はきょとんとしている。
「どう……して?」
目をまんまるにしている。
「俺がりょう君を好きだからだよっ!
その髪の色も、瞳の色も、
とても、とてもきれいなんだっ!
俺の……好きな色なんだっ!!」
俺の絶叫になぜだかりょう君が撃沈している。
「君、そっ……それは……ひょっとして……愛の告白かい?」
りょう君はなぜだか、
ぽっと頬を染めて乙女のごとき眼差しで俺を見つめている。
『あいのこくはく???』
何それ、美味しいの?
俺は目を瞬かせて、首を傾げた。
「君の熱い愛の告白は、確かにこの僕の胸を強く打った。
いいだろう。僕は君の愛の告白を受け入れよう」
りょう君の目に強い光が宿った。
それを見て、俺はなんだかほっとして、
嬉しかったんだ。
「君は知っているだろうか。
このチャペルにある鐘の伝説を」
年相応の少年らしい表情を浮かべて、
りょう君は俺に囁いた。
俺たちは息せき切って、駆け出して、
ふたりで思いっきり鐘を鳴らしてやった。
リンゴーン! リンゴーン!!
と鐘の音が周囲に響き渡ると、
「こらー! またイタズラをしよって!!」
神父さまの怒声が聞こえてくる。
「やっべー!」
俺たちは手を繋いで駆け出した。
チャペルを抜けて、
学園のエントランスの前までに走っていくと
「りょう様~! どちらにおいでです?」
りょうくんの家の運転手さんや、付き添いの人たちが、
血相を変えてりょう君のことを探していた。
「僕…‥もう行かなきゃ」
りょう君はしょんぼりと肩を落とした。
「そんな顔をしないでよ。
俺たち一緒にチャペルの鐘を鳴らしただろ?」
元気づけるようにそう言ってやると、
「うんっ!」
りょう君は嬉しそうに笑った。
「だからきっとまた会える」
そう言って……俺は……りょうくんの唇に……
口づけた……だと???
◇◇◇
そしてぱっちりと目を覚ます。
そこは水無月さん家のリビングで……。
なぜだか水無月さんの胸板に顔を埋めている。
えっ? ちょっと待って? どういう状況?? これ!
軽くパニックに陥りながら、俺は昨夜を思い出す。
そうだよ、俺、水無月さんとキスの特訓をしていて、
うっかり理性が飛んじまった水無月さんにキスされて、腰を抜かしたんだった。
情けねぇっ……。
ほいでもって、動けない俺に付き合って
水無月さんがここに寝具を運んで添い寝してくれたんだったよな。
レースのカーテンから漏れる朝の陽光が、
あの日と同じ硬質の金色の髪を照らして、
ヒマワリのように輝いている。
そういえば、この人の名前は水無月……涼だったけ?
「りょう……くん?」
俺は恐る恐る、隣で眠る人物に問いかけてみた。
「なんだぁ? 瑞樹……お前、
ついに名前呼びに目覚めたのか?」
水無月さんはまんざらでもなさそうに
愛おし気に俺を見つめている。
学園にあるチャペルの鐘を、
好きな人とふたりで鳴らすと、
そのふたりは永遠に結ばれるのよ。
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ふっと聞こえたような気がした。
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