藤本喜久雄の海軍

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電気溶接技術の向上

平賀譲造船中将

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電気溶接を多用した貨客船の建造成功は軍令部や艦政本部の上層部は歓喜した。
「これで艦艇に対しても電気溶接を行える…!そうなれば気密性がさらに増し、まさしく”不沈戦艦”の建造が行えるに違いない!」
この時期、海軍は軍縮条約明けを見越して新型戦艦の設計に取り掛かっていた。
新型戦艦は個艦優性主義の元、世界に類を見ない戦艦となる予定である。
その新型戦艦を電気溶接の技術を用いて建造すれば、安く、早く、そして頑丈な戦艦が太平洋上を闊歩するに違いなかった。
だが、この風潮にある男が異論を述べた。
「電気溶接の技術は向上したとは言え、大戦艦を建造するにはやはり技術的に未知数なところが大きい。ここは従来通りリベット工法によって建造するべきではないか?」
彼の名は平賀譲造船中将。
世界水準を大きく超える妙高型重巡洋艦などの設計を担当し、第四艦隊事件の時には耐久不足とされる艦艇の補強工事を担当した。
優秀な造船官には変わりなかったが、やはり保守的な考えが強い。
藤本から言わせてみれば天敵のような存在だった。
実際、2人の関係は良くはない。
「すでに空母にも改装できる大型貨客船の建造に成功しており、電気溶接は戦艦にも十分活用できる!」
藤本は真っ向から反論し、どちらも一歩も引く気は無かった。
ここで間に入ったのが軍令部総長であった伏見宮であった。
彼は直々に平賀の書斎を訪れてこう言った。
「どちらの意見も正論である。だが、やはり技術の革新無くして艦隊は強くはならない。下瀬火薬がそのいい例だ」
伏見宮の言う下瀬火薬と言うのは下瀬雅允が実用化した火薬であり、その材料にはピクリン酸が含まれていた。
この火薬が充当された砲弾は日露戦争において使用され、バルチック艦隊撃破、ひいては日本の勝利に大きく寄与した兵器だった。
下瀬火薬のたとえ話を持ってこられると平賀も黙ることしか出来ない。
これを見た伏見宮は諭す。
「…ここは新型重巡で電気溶接を使用してみてその結果を待とうではないか」
現在、海軍は新型重巡の建造を行おうとしていた。
だが、これに藤本が腹案を示し今だ建造は開始されていなかった。
「確かに…重巡なら失敗したときの影響も戦艦よりかは少ないでしょう」
平賀は遂に頷いたのである。
ただ、彼自身も電気溶接を完全に否定していたわけではない。
(貨客船を建造できたんだ。そりゃ、戦艦とまでは行かなくても重巡や空母等には存分に使えるだろう…)
それに平賀は”電気溶接技術は最も研究するべき技術である!”ということは自分でも思い至っていたのである。
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