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第2話 アゲート領の白檀
10.アゲートの捕らわれ人
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わたしを一人にしないで
腕を絡めて、離さないで
あなたの愛がわたしの命なのです
リリアスは独り、ノアールの部屋で休んでいた。
大分落ち着いて、息も楽にできるようになってはいるが、動くのが面倒だったのだ。
アゲートの館にはいってからジャンバラヤ族の聖なる森で感じた声よりも、より強くはっきりとした声が聞こえていた。
自分の胸の声にも似た、でも異なるはっきりとした強い思念。
意識をさげていく。
大地に潜らせるとよりはっきり声は聞こえる。
たどっていくと、それは再び地上へと、アゲートの館のひとつの部屋へと続いていく。
さらに太い確かな想いとなって絡まっている。
それは、天に腕を伸ばすように高く突き上げられたサンダルウッドの根。
地下から、館の床を貫いて盛り上がる。
何かをがっちりと堅い何百本の腕で囲みこんでいた。
何かをしっかりと抱き締めて周囲から隠していた。
(なにを捉えているの?)
丁寧にサンダウッドの意識に沿わせながらなかを探る。
慎重に、奥に、奥に、分けいっていく。
奥にはやわからな体。
(人だ、、女の人、、サラだ、まさか、なんでこんなことに、生きてる?)
ジャンバラヤ族が探している守り主は、館の地下から飛び出し、床から突き出た巨大なサンダウッドの根に捕らわれていた。
「、、アス!、、リアス!!」
誰かが、誰かを呼んでいる。
そんなに必死にならなくても良いのに、なんて思う。
時間はいくらでもあり、大抵のことは風雨や太陽の温かさや夜の星の瞬きとともに、解決していくのだ。
ぐいっと意識が引っ張られた。
ぱちぱちと電撃のような、熱い小さな炎が大きなものから切りはなそうと火花を散らす。
やめて、、熱い。
ぱわっと暗闇のなかに鮮やかな加護紋様が広がった。
不浄をもやしつくそうと炎を広げる華やかな加護紋様だ。
自分の形を闇から浮かびあがらせた。
ふいに、耳にとどいていた音が意味をもった。
「リリアス、戻ってこいっっ」
ぱっちりと眼が開いた。
いままで自分に眼があるとは思っていなかったような気がしていたので、不思議な感覚だった。
「あ、、、」
声がでない。
ムハンマドが唇を厳しく引き結び、ひどく恐い顔をしていた。
「戻ってきたな、大丈夫か?ほんとうに、あなたといると退屈しない」
「あ、、もう一度キスを、、」
ムハンマドはまぶたにキスを落とした。
闇の中で己を明るく浮かび上がらせた、あの加護紋様が熱く燃え上がって消える。
「僕は、捕らわれていた。闇の中に、、」
「幾らでもしてやる」
ムハンマドはおでこに、まぶたに、ほほに、胸に、矢継早にキスの雨を降らせる。
リリアスの内側の精霊の加護が反応して、現れては消えきらないうちに新たに現れて、重なり、幻想的な場を作り出した。
リリアスは腕を伸ばして、自分を救い上げた男、ムハンマドの首に腕をまわして抱き締める。
唇が奪われ、深いキスを与え合う。
ムハンマドの後ろには、ノアールが控えていた。
慌てて、リリアスはムハンマドから距離をとる。
今更ではあったが。
バードもいる。
壁に持たれかけている。
彼も少し怒っているようだ。
「お風呂でのぼせたのは覚えてますか?その後、ずいぶんたっても意識が戻らなかったのです。心配しました」
「湯の入り方ならわたしが教えてやる。もう勝手にひとりで入るな。
心配して、おかしくなるかと思ったぞ」
とムハンマド。
彼が少し涙眼なのにリリアスは気がついた。
「起きたんなら服をきれば」
と後ろのバードはいう。
「あ、、」
と、薄ものの下は何も身に付けていないことにようやく気がついた。
「着替えたら、食事なのだがいけそうか?」
ノアールが用意した大きな丸襟のアゲート風の着替えを羽織りつつ、リリアスは先程の体験を思い返していた。
「うん、多分大丈夫。僕はサラがどこに囚われているかわかったよ」
「なんだって?」
と三人とも振りかえった。
「この館の広間の一室、床からサンダルウッドの根が突き上げて絡み付いて立ち上がっているはず。
その中に、サラは囚われている感じだ」
「あれか」
バードはいった。
既に館内を探索済みのようだった。
「切り離すか?」
とバードはいう。
「駄目だよ、サラはサンダルウッドの根とがっちり接続されている。
サンダルウッドの苦しみが伝わり、死んでしまうかもしれない」
「ではどうするのだ?」
ムハンマドはノアールを見た。
不思議現象の解決は医者であるノアールの得意とするところだ。
「解呪、ですか。サンダルウッドと、サラに自分から離れてもらうしかないでしょうね」
「どうやって?」
とムハンマドはいい、バードもノアールを見た。
「ここには吟遊詩人と舞姫がおります。開かない扉を謳と舞で、ひらかせましょう」
ノアールはリリアスをみて、魅惑的な笑みを浮かべて言ったのだった。
バードとリリアスが部屋を出るのを見届けて、ノアールは膝をついて頭を下げた。
「お久しぶりでございます。ムハンマド王子。ご挨拶が遅れました」
「とんだ再会になったわ。バードがいなければ、ここにはこれなかった。まさか、お前の部屋で、裸で寝ているとは思いもしなかった」
「お風呂場で助けたと申し上げました」
ジャンと音を立てて剣が抜かれ、ノアールの首にあてる。ムハンマドの目が容赦なく獰猛にノアールを見る。
「リリアスに何かがあったら、お前でも切り捨てる」
ノアールは視線を落とした。
「承知しております。我が君」
獰猛な彼の王子はぞくりとくるほどノアールの心をとらえるのだった。
腕を絡めて、離さないで
あなたの愛がわたしの命なのです
リリアスは独り、ノアールの部屋で休んでいた。
大分落ち着いて、息も楽にできるようになってはいるが、動くのが面倒だったのだ。
アゲートの館にはいってからジャンバラヤ族の聖なる森で感じた声よりも、より強くはっきりとした声が聞こえていた。
自分の胸の声にも似た、でも異なるはっきりとした強い思念。
意識をさげていく。
大地に潜らせるとよりはっきり声は聞こえる。
たどっていくと、それは再び地上へと、アゲートの館のひとつの部屋へと続いていく。
さらに太い確かな想いとなって絡まっている。
それは、天に腕を伸ばすように高く突き上げられたサンダルウッドの根。
地下から、館の床を貫いて盛り上がる。
何かをがっちりと堅い何百本の腕で囲みこんでいた。
何かをしっかりと抱き締めて周囲から隠していた。
(なにを捉えているの?)
丁寧にサンダウッドの意識に沿わせながらなかを探る。
慎重に、奥に、奥に、分けいっていく。
奥にはやわからな体。
(人だ、、女の人、、サラだ、まさか、なんでこんなことに、生きてる?)
ジャンバラヤ族が探している守り主は、館の地下から飛び出し、床から突き出た巨大なサンダウッドの根に捕らわれていた。
「、、アス!、、リアス!!」
誰かが、誰かを呼んでいる。
そんなに必死にならなくても良いのに、なんて思う。
時間はいくらでもあり、大抵のことは風雨や太陽の温かさや夜の星の瞬きとともに、解決していくのだ。
ぐいっと意識が引っ張られた。
ぱちぱちと電撃のような、熱い小さな炎が大きなものから切りはなそうと火花を散らす。
やめて、、熱い。
ぱわっと暗闇のなかに鮮やかな加護紋様が広がった。
不浄をもやしつくそうと炎を広げる華やかな加護紋様だ。
自分の形を闇から浮かびあがらせた。
ふいに、耳にとどいていた音が意味をもった。
「リリアス、戻ってこいっっ」
ぱっちりと眼が開いた。
いままで自分に眼があるとは思っていなかったような気がしていたので、不思議な感覚だった。
「あ、、、」
声がでない。
ムハンマドが唇を厳しく引き結び、ひどく恐い顔をしていた。
「戻ってきたな、大丈夫か?ほんとうに、あなたといると退屈しない」
「あ、、もう一度キスを、、」
ムハンマドはまぶたにキスを落とした。
闇の中で己を明るく浮かび上がらせた、あの加護紋様が熱く燃え上がって消える。
「僕は、捕らわれていた。闇の中に、、」
「幾らでもしてやる」
ムハンマドはおでこに、まぶたに、ほほに、胸に、矢継早にキスの雨を降らせる。
リリアスの内側の精霊の加護が反応して、現れては消えきらないうちに新たに現れて、重なり、幻想的な場を作り出した。
リリアスは腕を伸ばして、自分を救い上げた男、ムハンマドの首に腕をまわして抱き締める。
唇が奪われ、深いキスを与え合う。
ムハンマドの後ろには、ノアールが控えていた。
慌てて、リリアスはムハンマドから距離をとる。
今更ではあったが。
バードもいる。
壁に持たれかけている。
彼も少し怒っているようだ。
「お風呂でのぼせたのは覚えてますか?その後、ずいぶんたっても意識が戻らなかったのです。心配しました」
「湯の入り方ならわたしが教えてやる。もう勝手にひとりで入るな。
心配して、おかしくなるかと思ったぞ」
とムハンマド。
彼が少し涙眼なのにリリアスは気がついた。
「起きたんなら服をきれば」
と後ろのバードはいう。
「あ、、」
と、薄ものの下は何も身に付けていないことにようやく気がついた。
「着替えたら、食事なのだがいけそうか?」
ノアールが用意した大きな丸襟のアゲート風の着替えを羽織りつつ、リリアスは先程の体験を思い返していた。
「うん、多分大丈夫。僕はサラがどこに囚われているかわかったよ」
「なんだって?」
と三人とも振りかえった。
「この館の広間の一室、床からサンダルウッドの根が突き上げて絡み付いて立ち上がっているはず。
その中に、サラは囚われている感じだ」
「あれか」
バードはいった。
既に館内を探索済みのようだった。
「切り離すか?」
とバードはいう。
「駄目だよ、サラはサンダルウッドの根とがっちり接続されている。
サンダルウッドの苦しみが伝わり、死んでしまうかもしれない」
「ではどうするのだ?」
ムハンマドはノアールを見た。
不思議現象の解決は医者であるノアールの得意とするところだ。
「解呪、ですか。サンダルウッドと、サラに自分から離れてもらうしかないでしょうね」
「どうやって?」
とムハンマドはいい、バードもノアールを見た。
「ここには吟遊詩人と舞姫がおります。開かない扉を謳と舞で、ひらかせましょう」
ノアールはリリアスをみて、魅惑的な笑みを浮かべて言ったのだった。
バードとリリアスが部屋を出るのを見届けて、ノアールは膝をついて頭を下げた。
「お久しぶりでございます。ムハンマド王子。ご挨拶が遅れました」
「とんだ再会になったわ。バードがいなければ、ここにはこれなかった。まさか、お前の部屋で、裸で寝ているとは思いもしなかった」
「お風呂場で助けたと申し上げました」
ジャンと音を立てて剣が抜かれ、ノアールの首にあてる。ムハンマドの目が容赦なく獰猛にノアールを見る。
「リリアスに何かがあったら、お前でも切り捨てる」
ノアールは視線を落とした。
「承知しております。我が君」
獰猛な彼の王子はぞくりとくるほどノアールの心をとらえるのだった。
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