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第2話 アゲート領の白檀
12.解放と解呪2
しおりを挟むアゲートの東の山脈に
ジャンバラヤが守る神秘の森
美しき守り人により幾世代にも引き継がれ
秘密を守り
富を産む
サンダルウッドの聖なる森
ああ、誇り高きジャンバラヤの民よ
ベールのように香りを纏え
素晴らしきサンダルウッドよ
手を伸ばしたその先にあり
踏み出したその後ろにある
吟遊詩人はつま弾きながら謳う。
人を酔わせる魅惑的な声だった。
ジャンバラヤ族の二人は緊張する。
この詩はジャンバラヤ族の詩だったからだ。
その時、切ない声が広間に響く。
吟遊詩人ではない、頭に語りかけてくるような、不思議な響きを持った声だった。
「わたしを一人にしないで
腕を絡めて、離さないで
あなたの愛がわたしの命なのです」
サンダルウッドの大木に、一本の美しい脚が絡まった。
素足で指の先まで、ピンと張り、蠢き、くねる。
ここにいる誰もがサンダルウッド自身の脚だと思った。
その脚はすっと大木と分離して、人の形になった。
薄物を体にまとい、真白い肌は透けてみえた。ベールの顔は伏せられている。
たくさんの装飾品を重ねて着けていた。両の腕は胸の前で折り畳まれて、胸をかろうじて隠し、あとは透けるに任せる。
腰にもたくさんの装飾品を重ね、その下は布を巻いただけ。
手がすっと天に伸びてひらりと返される。
シャラン
手首の腕輪の連なった鈴がなる。
別の手がさ迷いながら追いかけてゆく。
シャラララン
媚薬となるサンダルウッドが人の形をとったのだ、ジャンバラヤ族のジャンは思った。
領主は思った。
娘も思った。
この場にいる全員がそう思った。
今この場を支配しているのは、現れ出た彼女だった。
ムハンマドは舞姫が降りてきたのを知った。
滅んだ国の、古き血をひく巫女。
巫女はサンダルウッドと絡まり、離れ、戯れる。
恋い焦がれる切ない想いを表現していく。
求めて伸ばすその腕は、むなしく空をつかむのみ、、。
神をその身に宿していく。
シャラン
シャラララン
彼女は舞のをやめて『サンダルウッド』のパートを謳う。
幾年月耳を傾けたことだろう
慈愛に満ちたその声
その腕
その体
私を求めてください
幾年月もの愛をあなたに
吟遊詩人は『娘』のパートを謳う。
娘は『サンダルウッド』に気がつかない。
白檀の香りが私の衣
強く抱く腕
絡み付く脚
強い腰のあの人を
心をとろかす媚薬の香りで
引き留めておくれ
『サンダルウッド』
慈愛に満ちた声の主よ
あなたのいくところが
暗闇を照らす道しるべ
岩も泉も越えて
あなたを抱く腕を伸ばして良いですか
幾百年の愛をあなたに
『娘』
白檀の香りが消える頃
逞しい腕も
広い胸も
わたしを置いていく
わたしの心はここにない
あの人と共に野山を駆け巡る
『サンダルウッド』
慈愛に満ちたあなたよ
別の男を呼ぶ同じ声で
わたしを呼んでくれ
それだけで
幾千年の愛をささげよう
『娘』は気がついた。
自分に伸ばされる焦がれる腕に。強い想いに。振りきるために謳う。
力強くつつみ抱くその腕は
優しくからませるその脚は
キスをするその唇は
わたしの愛しい人ではない
あなたはわたしの媚薬
わたしを包むベール
手を伸ばしたその先にあり
踏み出したその後ろにある
いつもあるようで
いつもない
あなたはサンダルウッド
聖なる森の宝物
素晴らしきサンダルウッドよ
手を伸ばしたその先にあり
踏み出したその後ろにある
巫女は謳うのをやめた。
「サラ、愛しい人に手を伸ばしなさい!
サンダルウッド、愛しい人のベールとなりなさい!」
確かに時間が止まった。
次元が別の次元に変わった。
広間のサンダルウッドの大木が生き物のようにうごめき、膨らみ、ゆらぐ。
中から一本の手が腕がゆらりと伸びーーー。
ジャンは飛び出し夢中でその手をとった。
思い切り引っ張り寄せる。
引っ張り出されたのは、血の気のない細身の女性。
声なき声が音をかたどる。
『ジャン わたしの愛しい人』
ジャンはサラをかき抱いた。
「サラ!!!!」
巫女はムハンマドを真正面から黒曜石の瞳をむけた。
「サンダルウッドを燃やすのだ。
バラモン全土をその香りのベールで包ませよ」
巫女は身に纏う薄物とベールを体から落とした。
美しい肢体が現れる。
辛うじて腰布と装飾品のみがその体を隠す砦。
女だとおもっていた者たちは、その胸がまだ膨らみきっていない乙女のものだと知った。
別の者は、まだ年若い少年だと知った。
まだ完成しきっていないのにも関わらず、妖艶な美しさを持った、その体。
乙女は首の装飾品をひとつ、またひとつ、足元に落としていく。
全て落としきると、腰の装飾品にも手をかける、、、。
ムハンマドはたまらず火の加護の力を使い、サンダルウッドの大木を内側から熱し、燻した。
煙が広間に流れだし、美しい体を隠していった。
後の話ではあるが、ムハンマドの一行はアゲートの民を苦しめて暴利を貪る領主の圧政を粛清する。
その少し前、王子によりジャンバラヤ族の娘はアゲートから助け出された。
それによりジャンバラヤ族のムハンマド第6王子への全面支持が表明される。
その時、違法に蓄えられていた高価な白檀(サンダルウッド)を、ムハンマドは惜しげもなく廃棄させる。
その量は、国庫一年分はあったのではないかと噂された。
その時の白檀の媚薬と瞑想の煙は、風に乗り空に拡がり、バラモン全土、津々浦々まで届いたという。
衣服に移り、恋人の髪に移り、一ヶ月以上たっても尚、何でもない瞬間に甘やかな気配を感じる程であった。
そして、バラモンの人々は、ほのかな白檀(サンダルウッド)の香りを感じた時、ムハンマド第六王子の香りがする、と例えるようになったのだった。
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