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第1部 第1話 ボリビア王国とラブラド王国の二人の王子
5-2 決起集会
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王子が一石を投じて変わりかけた潮目が再び押し戻そうとされ、あちらこちらでせめぎあった。周囲が色めきたつ。
見つかった!
政府の犬といわれラズワードは覚悟する。
「色んな意見を潰してはいけない!自分自身で考えて!」
尚も必死に訴える。口々に意見が出始めた。
黒髪の男の強い意見もそうではあるが、彼らも自分たちの国を愛していた。
熱に浮かされたような夢は醒めた。
「、、そうだ。過激なやり方でない方法もあるのではないか?今の主人には本当によくしてもらっている」
「そうね、私も何にも出来ないところから一から仕事を教えてくれたのは主人だわ、、」
彼らは今は前ではなく、隣に座る者を見る。彼らは見知った労働者仲間でもあった。
ラズワードは己の国民の一部である奴隷の心を取り戻せた。
「走るぞ!」
ジュードは王子の手を握った。
落ち着いたこのタイミングで退散しようとする。これ以上いると、ラズワードが王子だと気がつく者がでてくるかもしれなかった。
入り口を出たところで、ラズは勢いよく体ごと男とぶつかり、ジュードの手が離れる。
金の髪を押し込んでいた帽子と眼鏡がぶっ飛んだ。
薄闇の中、町で住む人々の生活の営みからこぼれる明かりと、月明りだけが彼らを照らしていた。
そこにふわっと華やかすぎる金髪が踊る。
明るい日の光が似合う、豊かな髪だった。
ぶつかった男は、慌ててラズワードを抱き止めた。
その男は闇に溶け込む黒い衣装で、血と危険と異国の香り。
ラズは嗅いだことのある香りだと思った。
その香りは、忘れられない男と結び付いていた。「シディ?」思わず顔をあげる。
彼をシディと呼ぶものは、一人を除いて誰もいない。
その男は、ラブラド国の王権簒奪の罠を周到に仕掛けにきた、東方の強国ボリビア国第一王子オブシディアンである。
彼の腕の中には王宮勤めの奴隷の、彼の恋する祭りの娘。
今は冴えない町の少年のふだん着姿の、ラブラド国ラズワード王子。
二人の王子の視線が、彼らの運命を分かちがたく結つけるかのように絡まった。
「ラズか!」
祭り以外で会うのははじめてで、シディは先程の会場の今にも点火しそうな火種を消し去ったあのまっすぐな若者がラズと知って心底驚いた。
敵国の奴隷ながら、なかなか気骨のあるやつと思っていたのだ。
「今宵は男の格好で変装か?演説、実に良かった。
それにしても、その貧相な服は似合わないな!」
ラズワードは腕を突っ張った。
「ごめん、今日はゆっくりできないんだ。これで帰らなければ、、」
ジュードが闇でじりじりと待っているのがわかっている。
奪いに戻るかラズが自力で逃れられるか、図りかねている。
ラズの心中がどうであれ、その格好が似合わないものであれ、黒い鷹は恋する娘のとの千載一遇の邂逅を逃さない。
彼がここにいるのは奴隷の立場のラズを解放するためだ。
演説を聞く限り、ラズは過激なことを望んではいないが、革命は奴隷が自由を得るために必要なことなのだ。
ラズの手首はぐいとひかれて唇が奪われる。
深く重なる。舌が性急に割り入り探る。
熱い想いを伝える接吻。
「わたしの可愛い人は、さよならのキスもなしにいくつもりか?」
ラズは心に冷たくのし掛かる事実を言わずにはいられなかった。
「壇上の黒髪の彼、あなたと同じ東方訛りだ。どうして、、、、?」
オブシディアンと壇上の男はこの決起集会を開き、ラブラド国の奴隷を煽り立てて、国内を混乱に陥らせようとしている側である。
ラズは顔を歪め、返事を聞かずに腕を突っぱり闇に紛れるジュードに合流する。
ラズワードにはシディがただ観光をするためだけに、夜の決起集会の近くにいるはずがないのがわかっていた。
シディは走り去るラズの背中に低い声をかけた。
「王宮では気を付けよ!
ここは冷静を取り戻したが、他はわからない。近々内乱が起こるぞ!身を守れ!」
ラズワードは駆け出した。
走りながら、ジュードに言う。
一刻も猶予がならないことを知ってしまった。
鷹の男はラブラドに混乱をもたらし転覆させにきた侵略者だった。
何年もかけて罠をしかけていたのだ。
「ジュード!奴隷制度の廃止をすぐさま議会にかけて!双方折り合えるところでの制度改革を!」
ラズワードの胸が、冷たく凍っていくようだった。
ほのかな恋ごころは、こなごなにくだけ散っていく。
平和だった彼らの日常が、いつ壊れてもおかしくない薄氷の上に成り立っていたことを初めて理解したのだった。
そしてラズワードが恐れたそのままに、有効な対策を取るには時既に遅かったのだった。
見つかった!
政府の犬といわれラズワードは覚悟する。
「色んな意見を潰してはいけない!自分自身で考えて!」
尚も必死に訴える。口々に意見が出始めた。
黒髪の男の強い意見もそうではあるが、彼らも自分たちの国を愛していた。
熱に浮かされたような夢は醒めた。
「、、そうだ。過激なやり方でない方法もあるのではないか?今の主人には本当によくしてもらっている」
「そうね、私も何にも出来ないところから一から仕事を教えてくれたのは主人だわ、、」
彼らは今は前ではなく、隣に座る者を見る。彼らは見知った労働者仲間でもあった。
ラズワードは己の国民の一部である奴隷の心を取り戻せた。
「走るぞ!」
ジュードは王子の手を握った。
落ち着いたこのタイミングで退散しようとする。これ以上いると、ラズワードが王子だと気がつく者がでてくるかもしれなかった。
入り口を出たところで、ラズは勢いよく体ごと男とぶつかり、ジュードの手が離れる。
金の髪を押し込んでいた帽子と眼鏡がぶっ飛んだ。
薄闇の中、町で住む人々の生活の営みからこぼれる明かりと、月明りだけが彼らを照らしていた。
そこにふわっと華やかすぎる金髪が踊る。
明るい日の光が似合う、豊かな髪だった。
ぶつかった男は、慌ててラズワードを抱き止めた。
その男は闇に溶け込む黒い衣装で、血と危険と異国の香り。
ラズは嗅いだことのある香りだと思った。
その香りは、忘れられない男と結び付いていた。「シディ?」思わず顔をあげる。
彼をシディと呼ぶものは、一人を除いて誰もいない。
その男は、ラブラド国の王権簒奪の罠を周到に仕掛けにきた、東方の強国ボリビア国第一王子オブシディアンである。
彼の腕の中には王宮勤めの奴隷の、彼の恋する祭りの娘。
今は冴えない町の少年のふだん着姿の、ラブラド国ラズワード王子。
二人の王子の視線が、彼らの運命を分かちがたく結つけるかのように絡まった。
「ラズか!」
祭り以外で会うのははじめてで、シディは先程の会場の今にも点火しそうな火種を消し去ったあのまっすぐな若者がラズと知って心底驚いた。
敵国の奴隷ながら、なかなか気骨のあるやつと思っていたのだ。
「今宵は男の格好で変装か?演説、実に良かった。
それにしても、その貧相な服は似合わないな!」
ラズワードは腕を突っ張った。
「ごめん、今日はゆっくりできないんだ。これで帰らなければ、、」
ジュードが闇でじりじりと待っているのがわかっている。
奪いに戻るかラズが自力で逃れられるか、図りかねている。
ラズの心中がどうであれ、その格好が似合わないものであれ、黒い鷹は恋する娘のとの千載一遇の邂逅を逃さない。
彼がここにいるのは奴隷の立場のラズを解放するためだ。
演説を聞く限り、ラズは過激なことを望んではいないが、革命は奴隷が自由を得るために必要なことなのだ。
ラズの手首はぐいとひかれて唇が奪われる。
深く重なる。舌が性急に割り入り探る。
熱い想いを伝える接吻。
「わたしの可愛い人は、さよならのキスもなしにいくつもりか?」
ラズは心に冷たくのし掛かる事実を言わずにはいられなかった。
「壇上の黒髪の彼、あなたと同じ東方訛りだ。どうして、、、、?」
オブシディアンと壇上の男はこの決起集会を開き、ラブラド国の奴隷を煽り立てて、国内を混乱に陥らせようとしている側である。
ラズは顔を歪め、返事を聞かずに腕を突っぱり闇に紛れるジュードに合流する。
ラズワードにはシディがただ観光をするためだけに、夜の決起集会の近くにいるはずがないのがわかっていた。
シディは走り去るラズの背中に低い声をかけた。
「王宮では気を付けよ!
ここは冷静を取り戻したが、他はわからない。近々内乱が起こるぞ!身を守れ!」
ラズワードは駆け出した。
走りながら、ジュードに言う。
一刻も猶予がならないことを知ってしまった。
鷹の男はラブラドに混乱をもたらし転覆させにきた侵略者だった。
何年もかけて罠をしかけていたのだ。
「ジュード!奴隷制度の廃止をすぐさま議会にかけて!双方折り合えるところでの制度改革を!」
ラズワードの胸が、冷たく凍っていくようだった。
ほのかな恋ごころは、こなごなにくだけ散っていく。
平和だった彼らの日常が、いつ壊れてもおかしくない薄氷の上に成り立っていたことを初めて理解したのだった。
そしてラズワードが恐れたそのままに、有効な対策を取るには時既に遅かったのだった。
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