わたしの心臓をあげる(改訂版)

藤雪花(ふじゆきはな)

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わたしの心臓をあげる

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 頬に静脈が浮く。歯を食いしばる音が聞こえてきそうだった。

「だが、あいつは遺言を残していた。自分に回復不能な何かが起こったら、クローンを自分の代わりとして生かすのではなく、代わりにそのし、心臓を花ちゃんに、お前に与えてくれ、と……。お前にとってこれ以上安全なドナーはないだろう?お前は罪悪感をいだくこともない。この遺言に俺は立ち会ったんだ。まさか、こんなことが起こるなんて思わなかった。
 花、ああ……、あ、あいつの身体は土砂の中から掘り起こされもしていないんだ。地図に墓標がつけたされただけ。空気も薄い火星で、人も時間も資源も装備も無駄にできないのだから。そんなことわかっている。わかっているが、鈴……、俺の鈴はもう……」

 ジョウは膝を落とした。
 わたしにしがみついてすすり泣く。
 ジョウの震える背中を抱いた。
 愛する女を喪失し悲しむ男を慰める言葉などこの世の中には存在しない。
 押し殺した嗚咽と涙がシーツを通して太ももをぬらし、わたしの心を凍えさせた。

 持ち主を失い分解廃棄されるはずだったクローンから、遺言が執行され心臓が取り出され、すぐさま手術が行われた。おおがかりな手術であったにも関わらず、同じ遺伝子をもつわたしとクローンに免疫反応は一度も起こらず術後の経過も順調で、半年も待たずしてわたしは退院する。
 ベッドに横たわってではなく、顔を上げ蒼天を見上げるのは初めてだった。広大な空に落ちそうで涙がでた。
 心臓はまるで母の子宮で受精した瞬間からわたしの体内にあったかのように、規則正しくそして力強く、拍動を続けている……。


 
 わたしはあの時の公開オーディションでは最下位だった。
 所詮、付け焼き刃の歌声を姉とジョウはひいき目で才能があるといったけれど、現実は予選を通過する程度のものだったのだ。
 一通だけ、音楽大学から奨学生として本格的に勉強しないかとメールが届いた。
 わたしは退院し、その大学の学生となった。プロの慰安団員を多く排出するその音楽大学は、きわめて優秀な学生を慰安団の研修生として送り出していた。わたしの目下の目標はその研修生に選ばれることである。

「そのがむしゃらさ。夢を実現しようという我の強さというか執念は、花は、学年一番よね。尊敬する」
「意思の強さっていってよ」


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