神さまの寵愛も楽じゃない

第6話 顔のない女

47-2、

「暗殺具だったら針が飛び出してきたら僕が痛いだろうし、弾みでスイッチが入ったら怖いだろう。君に何かあったら僕が絶対に対処するけど、僕に何かあったら君は対処できないからね」

　無責任な言いぐさである。

「祈祷で解毒できませんし！」
「あはは。解毒といえば、和本で和漢蘭の毒の本というのもどこかにあったような……」
「まずはこの箱から片付けましょう。いつまでたっても終わらないですから」
「それもそうだね、じゃあ……」
「……あの、盛り上がっているところ申し訳ないのですが……」

　遠慮がちに声をかけられ、顔を上げた。応接の入り口には長い髪を横で結んだ倫子が立ち、わたしと神坂にもの言いたげに視線を往復させている。

「そろそろ休憩でもしませんかと、藤原社長が」
「社長？　ああ、藤原理事長のことか。芸能プロダクションの社長でもあったな」

　神坂が誰もが知っていることを口にして、わたしから離れた。体が軽くなりわたしは神坂と肩を押し付けあっていたことに気が付いた。

　縁側に冷えたお茶と茶菓子が用意されている。
　理事長が入れたお茶を配るのは倫子だ。
　石川恵子の親友であった理事長が仕切るのはわかるが、倫子がシュウトメに従いお手伝いに来ている学生たちにお茶の世話をする姿は控えめながらも気のきく若奥様のようである。
　華連はすれ違いざまにわたしに目配せをする。

「さっき、あんたたち雰囲気よかったじゃない？　わたしの知らない間にもしかして進展してるんじゃないの？　でもね、用心しなさいよ。倫子さん、ミーナと神坂の関係をわたしに聞いてきたわよ。ダメ男って、ある種の女たちに需要があるようね。倫子さん、神坂さんのこと興味があるのかもしれないから、万が一まだなんだったら早く覚悟をきめなさいよね。それか、若奥様のような顔をさせないようにミーナが締めなさいよ」

「覚悟って……」

　わたしたちの関係は相変わらず進展していない。そんな状態でこの場を締めるなんてできそうにない。
　神坂が倫子からお茶のグラスを受け取り倫子はにっこりと笑みを返した。
　それをみて、心臓をつかまれたような痛みを感じた。