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番外編2 一度死んだ男
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神坂晴海は、神坂神社の古くから続く神職の家柄の次男坊である。
その神社は、都会から近いにも関わらず、交通の便がきわめて悪いために何度も広げられた開発の手が及ばない、ただひたすら完全に忘れ去られていくのを待つだけの古い森の中にたたずむ神さびた神社である。
晴海は学校から帰宅すると、まずは境内の落ち葉や塵芥を掃き清めるのが物心がついたころから続く、日課であった。
このところ、ムクロジのふっくらした実が落ちはじめていたのが気になっていた。
ふっくらした小ぶりな黄金色の実は石けんがなかったころ洗濯や身体を洗うのにも使われ重宝されり、黒くてかたい種子が数珠に加工されたりしたために、子どもたちが拾いに来ることもあったというが、秋祭りできた参拝者たちに踏みにじられることはあっても、拾いあげられるのを晴海はみたことがない。
この神社には古い日本の空気感といった言葉にしようのないものも、そのまま閉じ込められているような気がした。
その日も、高校二年生の神坂晴海はいつものように、学校から直接社務所に行くと、白い袴姿に着替えた。
今日は、ムクロジの実を集めつもりである。
神坂神社ではムクロジをくみ上げた井戸水に一晩浸けて聖水をつくる。
それを、神社の出入り口に撒いたり、本殿の板間の拭き掃除の水に利用したりする。
大都会にありながらも忘れられたようなこの土地は、人目を避けたい者や、後ろ暗い気持ちをもった者たちを引き寄せる吸引力を持っているようだった。そういう何か禍々しいものを背負ったものたちを、晴海はなんとなく感じとれた。
そういう者たちが訪れたときは、俗世の穢れが残っているような気がした。ときにそれは増殖するようで、またなにか呟いているようで、また踏みつけてしまえば足裏に貼り付いてしまいそうで、気持ちが悪い。だから、神社の掃除に晴海は必ずムクロジの聖水を使うことにしている。
しかしながら祓っても清めても、追いつかない時がある……。
最近は特にそうだ。
夜中に、若者たち、とくに半グレと世間で後ろ指さされているものたちは、声や笑い声や怒鳴り声がやたら大きく、場を集団でかき乱す。
彼らが夜中、乱痴気騒ぎをしたような痕跡が残るときは、いつもは静かなしっとりとした森の朝の空気がひりひりと乱れていて、落ち着かないのである。
その神社は、都会から近いにも関わらず、交通の便がきわめて悪いために何度も広げられた開発の手が及ばない、ただひたすら完全に忘れ去られていくのを待つだけの古い森の中にたたずむ神さびた神社である。
晴海は学校から帰宅すると、まずは境内の落ち葉や塵芥を掃き清めるのが物心がついたころから続く、日課であった。
このところ、ムクロジのふっくらした実が落ちはじめていたのが気になっていた。
ふっくらした小ぶりな黄金色の実は石けんがなかったころ洗濯や身体を洗うのにも使われ重宝されり、黒くてかたい種子が数珠に加工されたりしたために、子どもたちが拾いに来ることもあったというが、秋祭りできた参拝者たちに踏みにじられることはあっても、拾いあげられるのを晴海はみたことがない。
この神社には古い日本の空気感といった言葉にしようのないものも、そのまま閉じ込められているような気がした。
その日も、高校二年生の神坂晴海はいつものように、学校から直接社務所に行くと、白い袴姿に着替えた。
今日は、ムクロジの実を集めつもりである。
神坂神社ではムクロジをくみ上げた井戸水に一晩浸けて聖水をつくる。
それを、神社の出入り口に撒いたり、本殿の板間の拭き掃除の水に利用したりする。
大都会にありながらも忘れられたようなこの土地は、人目を避けたい者や、後ろ暗い気持ちをもった者たちを引き寄せる吸引力を持っているようだった。そういう何か禍々しいものを背負ったものたちを、晴海はなんとなく感じとれた。
そういう者たちが訪れたときは、俗世の穢れが残っているような気がした。ときにそれは増殖するようで、またなにか呟いているようで、また踏みつけてしまえば足裏に貼り付いてしまいそうで、気持ちが悪い。だから、神社の掃除に晴海は必ずムクロジの聖水を使うことにしている。
しかしながら祓っても清めても、追いつかない時がある……。
最近は特にそうだ。
夜中に、若者たち、とくに半グレと世間で後ろ指さされているものたちは、声や笑い声や怒鳴り声がやたら大きく、場を集団でかき乱す。
彼らが夜中、乱痴気騒ぎをしたような痕跡が残るときは、いつもは静かなしっとりとした森の朝の空気がひりひりと乱れていて、落ち着かないのである。
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