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第2夜 探しもの
3、ひとめぼれ①
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名残の梅も、染井吉野も、八重桜も一緒に咲いた。
夏日のような暑さが続く。
地球温暖化の原因はあれこれといわれているけれど、なんとか人は軌道修正を試みている。だけど人類の力が及ばないところ、たとえば地球の自転が一度分傾いただけで、太陽のフレアが燃えさかるだけで、大地がぶるっと身震いしただけで、天変地異の大惨事を引き起こし、努力およばず人類の大半を滅亡に導くのだろう。
ひとえに風の前の塵におなじ。
人は気まぐれに、翻弄されるものなのだ。
ケータイの調子が悪いのも、今朝の目覚ましをセットしていたスポーツウォッチが起こしてくれなかったのも、新年度一発目に午前中の授業に出席できなかったのも、とるにたりない存在のわたしには不可抗力にすぎないのだ。
花は桜だけでいいのに。
視界に映り込んでくるいろとりどりの百花が騒がしくて落ち着かない。
その百花には、授業が始まり校内を我が物顔で闊歩するわかさはじけるみずみずしい学生たちのことも含んでいるのであって。
元々女子大だった清心芸国大学は、芸術表現の一環として芸能コースや俳優コースなどがあり、女子だけでなく男子も、われこそはという若者たちが多かった。
「……ねえ、席があいてるのならここいいかな」
男子学生である。
午後のカフェのテラス席はいっぱいだった。コーヒーカップをテーブルの上に置き、椅子の背に手をかけて座る体勢である。
「友人が来るので席を確保してるんです。申し訳ないんですけど」
やんわりと断った。
「ねえ、それ本当?じゃあ、その友人がくるまででいいからさ。このところ暑いよね。異常気象だ。ねえ、僕は俳優コースの一年なんだけど、僕のこと知ってる?あてられたら何か君におごってあげてもいいけど」
すぐに引き下がらない。
断ったのにもう座っている。
ため息をつきたいのを我慢した。新学期一日目から不快な思いをしたくないのだけれど、問題はいつも向こう側からわたしを狙ってくる。
顔をあげ、ずり落ちそうになる眼鏡越しに調子の良い男子学生の顔を確認する。元気な女の子に見てほしいアピールのジェンダーレス男子である。
これまでの人生、周りの男からも女からもかわいがられてきたんだろう。
そうでなければ、断っているのにずうずうしく勝手に座ったりしない。
「わかりません。ごめんなさい。すみません」
自信過剰な男子学生は目に見えてがっかりする。
「ったく。清涼飲料水のコマーシャルに出てるんだよ?名前はわからなくても見覚えあるでしょ」
みるみる不機嫌になった一年生の機嫌をとる必要もない。
わたしは席を移ろうかと思ったが、もともとわたしの席なのでやめた。
「テレビあんまり見ないんです。ごめんなさい」
「あんたって、国文学部でしょ?絶対に芸能教育学部じゃないでしょ?芸教は僕たちのような芸能関係者とその卵たちだからさ。あんたは国文、考古学コースとかでしょ!?」
わたしはまさしく考古学コースだ。
顔面のかわいらしさに自信のある俳優コース一年生は、さも面白いこと言ったかのように笑う。
夏日のような暑さが続く。
地球温暖化の原因はあれこれといわれているけれど、なんとか人は軌道修正を試みている。だけど人類の力が及ばないところ、たとえば地球の自転が一度分傾いただけで、太陽のフレアが燃えさかるだけで、大地がぶるっと身震いしただけで、天変地異の大惨事を引き起こし、努力およばず人類の大半を滅亡に導くのだろう。
ひとえに風の前の塵におなじ。
人は気まぐれに、翻弄されるものなのだ。
ケータイの調子が悪いのも、今朝の目覚ましをセットしていたスポーツウォッチが起こしてくれなかったのも、新年度一発目に午前中の授業に出席できなかったのも、とるにたりない存在のわたしには不可抗力にすぎないのだ。
花は桜だけでいいのに。
視界に映り込んでくるいろとりどりの百花が騒がしくて落ち着かない。
その百花には、授業が始まり校内を我が物顔で闊歩するわかさはじけるみずみずしい学生たちのことも含んでいるのであって。
元々女子大だった清心芸国大学は、芸術表現の一環として芸能コースや俳優コースなどがあり、女子だけでなく男子も、われこそはという若者たちが多かった。
「……ねえ、席があいてるのならここいいかな」
男子学生である。
午後のカフェのテラス席はいっぱいだった。コーヒーカップをテーブルの上に置き、椅子の背に手をかけて座る体勢である。
「友人が来るので席を確保してるんです。申し訳ないんですけど」
やんわりと断った。
「ねえ、それ本当?じゃあ、その友人がくるまででいいからさ。このところ暑いよね。異常気象だ。ねえ、僕は俳優コースの一年なんだけど、僕のこと知ってる?あてられたら何か君におごってあげてもいいけど」
すぐに引き下がらない。
断ったのにもう座っている。
ため息をつきたいのを我慢した。新学期一日目から不快な思いをしたくないのだけれど、問題はいつも向こう側からわたしを狙ってくる。
顔をあげ、ずり落ちそうになる眼鏡越しに調子の良い男子学生の顔を確認する。元気な女の子に見てほしいアピールのジェンダーレス男子である。
これまでの人生、周りの男からも女からもかわいがられてきたんだろう。
そうでなければ、断っているのにずうずうしく勝手に座ったりしない。
「わかりません。ごめんなさい。すみません」
自信過剰な男子学生は目に見えてがっかりする。
「ったく。清涼飲料水のコマーシャルに出てるんだよ?名前はわからなくても見覚えあるでしょ」
みるみる不機嫌になった一年生の機嫌をとる必要もない。
わたしは席を移ろうかと思ったが、もともとわたしの席なのでやめた。
「テレビあんまり見ないんです。ごめんなさい」
「あんたって、国文学部でしょ?絶対に芸能教育学部じゃないでしょ?芸教は僕たちのような芸能関係者とその卵たちだからさ。あんたは国文、考古学コースとかでしょ!?」
わたしはまさしく考古学コースだ。
顔面のかわいらしさに自信のある俳優コース一年生は、さも面白いこと言ったかのように笑う。
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