11 / 134
第2夜 探しもの
3-2,
しおりを挟む
この学校は芸能関係者を育成する芸能教育学部と、現在の清心国芸学院の前身となった国文学部の二つに大きく分かれている。
国文だけでは成り立たなくなった大学を大手芸能プロダクションの凄腕女社長が買い取り、カリキュラムを根本的に立て直した。日本全国から美男美女が集まる学院となり数年のうちに盛り返した。
素材から厳選され、美しさを磨かれた園芸品種の花と、勝手に繁殖している雑草ほどの違いがある。
そういうわけで、この大学には二種類の人種に分けられていて、わたしはいわゆる雑草の方なのだ。
雑草を自認するけれど、こうして面と向かって馬鹿にされたことは初めてだった。
ケータイのストレージを削除するのを止めた。
「俳優一年生、コマーシャルにでたからってそれが何?あんたがその他大勢でとるにたりないって思っている人たちが、あんたを推してくれる人たちなんじゃない?」
「僕に仕事をくれるのは、先輩じゃないでしょ。そんなことよりもさあ、その顔やファッションならやっぱり考古学でしょ?どう当たってる?」
彼は腰を重く下ろしている。
腹を立てわたしが席をたてば、それこそ彼の思うつぼなのかも知れない。
周囲でくすりと笑う声もする。
その中には手にコーヒーカップをもって、待っている友人がいるのだろう。
考古学は外見を気にしない人たちが多いし、己の美やと個性才能を競う芸能教育と対極にあると言える。
わたしはいたたまれなくなった。
新学期早々、不快な思いをする必要もない。
席が欲しいのならばくれてやる。
「やあ、さくら君。待ったかな。誰と相席してるんだい?」
「え?」
着流し姿の見知らぬ男が立とうとしたわたしの肩に手を掛けた。
着物姿は学院では珍しいものではないが、身体になじんだ着こなし方に名の知れた俳優かもしれないと顔を確かめてしまう。
ぼっさりと長めの髪に、急いで家をでてきましたとでもいうような無精髭が顎にまばらに生えていた。こんなときでもほんのすこし、がっかりしてしまった。
だけど、彼がわたしを助けようとしてくれているのはわかったので、調子を合わせた。
「しらない子。あなたの席だといっているのに勝手にこの一年がとったのよ」
「君の名前を聞いていいかな?」
「あ、先生ですか!僕、用事を思い出しました。すみません!」
一年男子はあわてて腰をあげた。
「いっちゃったね、あの子じゃないけどその席、君の友人がくるまでいいかなあ」
わたしがうなずいた。
着物だけを見れば風流で、無精髭をなんとかすれば非常に整った顔なのではないかと想像したくなる男だった。
「えっと、助かりました。ありがとうございます。あのままじゃあ、本気で喧嘩してしまいそうだったので。学生じゃないですよね。芸教の先生ですか?」
「芸教?」
「芸能教育学部を略して芸教って言うんです。じゃあ国文ですか?」
「ああ、どちらの学部の先生じゃありません」
「じゃあ通信教育のスクーリングとかで学校に来た社会人とか?」
「通信教育でもなくて。国文の授業とかなかなか面白そうだとはおもったんですけれど」
「先生でも生徒でもなければ、一体どういう関係ですか?」
ますます興味がわいた。
「そのう、採用面接を受けにきたんです」
「教職員の面接試験ですか?」
着流しの男は困ったように髪をなでつけた。
返事がしにくい質問だったのかもしれないので、話題を変える。なんだか質問ばかりしている。
「その、どうしてわたしをさくらって、呼ぶのですか」
国文だけでは成り立たなくなった大学を大手芸能プロダクションの凄腕女社長が買い取り、カリキュラムを根本的に立て直した。日本全国から美男美女が集まる学院となり数年のうちに盛り返した。
素材から厳選され、美しさを磨かれた園芸品種の花と、勝手に繁殖している雑草ほどの違いがある。
そういうわけで、この大学には二種類の人種に分けられていて、わたしはいわゆる雑草の方なのだ。
雑草を自認するけれど、こうして面と向かって馬鹿にされたことは初めてだった。
ケータイのストレージを削除するのを止めた。
「俳優一年生、コマーシャルにでたからってそれが何?あんたがその他大勢でとるにたりないって思っている人たちが、あんたを推してくれる人たちなんじゃない?」
「僕に仕事をくれるのは、先輩じゃないでしょ。そんなことよりもさあ、その顔やファッションならやっぱり考古学でしょ?どう当たってる?」
彼は腰を重く下ろしている。
腹を立てわたしが席をたてば、それこそ彼の思うつぼなのかも知れない。
周囲でくすりと笑う声もする。
その中には手にコーヒーカップをもって、待っている友人がいるのだろう。
考古学は外見を気にしない人たちが多いし、己の美やと個性才能を競う芸能教育と対極にあると言える。
わたしはいたたまれなくなった。
新学期早々、不快な思いをする必要もない。
席が欲しいのならばくれてやる。
「やあ、さくら君。待ったかな。誰と相席してるんだい?」
「え?」
着流し姿の見知らぬ男が立とうとしたわたしの肩に手を掛けた。
着物姿は学院では珍しいものではないが、身体になじんだ着こなし方に名の知れた俳優かもしれないと顔を確かめてしまう。
ぼっさりと長めの髪に、急いで家をでてきましたとでもいうような無精髭が顎にまばらに生えていた。こんなときでもほんのすこし、がっかりしてしまった。
だけど、彼がわたしを助けようとしてくれているのはわかったので、調子を合わせた。
「しらない子。あなたの席だといっているのに勝手にこの一年がとったのよ」
「君の名前を聞いていいかな?」
「あ、先生ですか!僕、用事を思い出しました。すみません!」
一年男子はあわてて腰をあげた。
「いっちゃったね、あの子じゃないけどその席、君の友人がくるまでいいかなあ」
わたしがうなずいた。
着物だけを見れば風流で、無精髭をなんとかすれば非常に整った顔なのではないかと想像したくなる男だった。
「えっと、助かりました。ありがとうございます。あのままじゃあ、本気で喧嘩してしまいそうだったので。学生じゃないですよね。芸教の先生ですか?」
「芸教?」
「芸能教育学部を略して芸教って言うんです。じゃあ国文ですか?」
「ああ、どちらの学部の先生じゃありません」
「じゃあ通信教育のスクーリングとかで学校に来た社会人とか?」
「通信教育でもなくて。国文の授業とかなかなか面白そうだとはおもったんですけれど」
「先生でも生徒でもなければ、一体どういう関係ですか?」
ますます興味がわいた。
「そのう、採用面接を受けにきたんです」
「教職員の面接試験ですか?」
着流しの男は困ったように髪をなでつけた。
返事がしにくい質問だったのかもしれないので、話題を変える。なんだか質問ばかりしている。
「その、どうしてわたしをさくらって、呼ぶのですか」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる