神さまの寵愛も楽じゃない

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3夜、憑き物落とし

14-2、

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「カレン先輩、あのときの話をもう一度聞きたいってここで?」

 テーブルを縫って近づいてくる機敏そうな小柄な身体、女子かと間違えそうなかわいい顔、花蓮にむけていたよそいきの笑顔が、わたしに気が付くとみるみる眉が険しくなる。
 露骨な態度変化である。

「なんだ、考古の地味女もいるのよかよ。野犬事件の被害者はみんな美女ばかりなのに、あんたが襲われたってことないだろ」

 第一印象がよみがえってくる。
 新学期早々、このカフェで勝手にわたしの向いの席にすわり、腹を立てさせてわたしの席まで奪おうとした、自分がかわいいと自覚しているジェンダーレス男子だった。同じ学校だからどこかで見かけるかもしれないと思っていたけれど、仕事の事件の関係者として会うとは思わなかった。

「あ、君が、早坂紫苑くん?」

 間に割って入ったのは神坂晴海である。
 何人目かの女子が終わって席を離れていく。
 ふんわり、お香の香りがする。
 早坂紫苑は近づく神坂をみて、ぶるりと身体を震わせた。
 意外な反応だった。
 普段の神坂は、顔立ちのきれいさやそつのない着物の着こなし方はよしとして、無精髭がちょっと残念な男ぶりを発揮する。
 彼には人を威嚇するような迫力はない。
 早坂紫苑は何をみて、怖がったのだろう。
  
「あ、体調がすぐれなかった?」
「いえ、俺は襲われていませんし、大丈夫です。ちょっと……」

 その手が所在なげに口元をさすった。
 安心させるように神坂は笑顔になる。

「そうだね、君は唯一の目撃者だからね」
「そうよ、彼が来てくれて本当に助かったわ。怖くて一歩も動けなかったから、彼にしがみついて寮までつきそってもらって帰ったのよ。シオンくん、一見女子みたいだから女子寮でもまったく違和感がなくて。だから彼は恩人なの」
「もう、あんなことはごめんですよ。こう見えて、れっきとした男子ですから俺は」
「そのギャップがいいわ」

 花蓮の態度は恩人に対するものじゃない。
 わたしたちは神坂が用意していた席についた。
 ついでにわたしも、内心意を決して神坂の隣に座る。
 花蓮がよくやったと目で合図するのが気恥ずかしい。
 花蓮が期待しているほど、わたしと神坂の距離は縮まっていないのだけれど。

「紫苑君が唯一の目撃者だから、あの時のこと、聞かせてもらえる?」
「僕が駆けつけたとき、彼女におおい被さっていた黒い何かが、さっと森の中に逃げるのを見ました。森の中にも誰かがいたように思います」
「じゃあ、君はどう思っているんだい?」
「不審者が暗がりに潜んでいて、よく飼い慣らした犬を特別きれいな女子を狙って背後から飛びつかせて驚かせて楽しんでいたんじゃあないんですか?もし必要なら、この証言、ここだけじゃなくて警察にも話しますよ。そうしたら、きちんと警察が警備もしてくれるんじゃないでしょうか」

「特別きれいな女子って、そうかもねえ!」
 紫苑の横で花蓮が妙に納得している。

「唯一の目撃者の話を聞けてよかったよ。犬をけしかける不審者の存在。うん、そうだね、それが有体だね」
「……じゃあ、要件があの話なら、僕はもういいですか?」

 紫苑は立ちあがると、神坂もすかさず立ちあがり手を差しだした。
 神坂の手を紫苑は握る。
 ふと紫苑の目が揺れた。

 

 
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