神さまの寵愛も楽じゃない

藤雪花(ふじゆきはな)

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第3夜、憑き物落とし

15、解決?

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 神坂晴海の対応はこうである。

 授業のない夕方からの時間帯に、寮から学校へ向かうものはいないため、遊歩道の出入口の校舎側にだけロープを張る。
 それもポールを置き、ロープをひっかけるだけの簡単なものでよいそうである。 
 バイトのわたしが夕刻にロープを張る。早起きして遊歩道を歩き、朝一番に校舎側のロープを外すことになった。

 ボールの横には黄色時に黒の斜めラインに、『不審者動物に注意』と黒々と書かれた注意喚起の看板が、学院の管理課の名前で立てられている。
 理事長が渋ったため結局ホームページには掲載されなかったが、全学生への注意メール、そして学院内掲示板に、遊歩道にて犬をつれた不審者の出没が立て続けにあったため、夜間の遊歩道の利用を控えるように呼びかけた。

「結局、人間の仕業だったってことなの?怪我もなくてただ恐怖体験して疲労困憊した7人の子には何もする必要がないってこと?」
「リストの7人目は目撃者ですよ」
 ひょうひょうと神坂晴海は答えた。

 不満げな理事長のためにお祓いの儀式の場が設けられた。
 湯立ての儀式というものらしく、早朝の森の中にあるわき水を汲み、湯を沸かす。
 神坂の事務所に6人の被害者が両手を合わせて立ち、理事長の手に持たせた黒々とした素焼きの器に部屋の奥のポットで沸かした湯を注ぐ役目はわたしである。
 ぐつぐつ泡立つ湯を、理事長は腕をのばしうやうやしく神坂に献げる。

  白い着物を羽織った神坂晴海がひとふたみよ、と神妙につぶやきながら手に持った、これもまた校舎の森で取ってきたという笹の葉を湯にかすめてさっと6人の女子を、右に左になぎはらった。

 熱い雫が神坂の後に控えていたわたしの頬に飛んできた。
 理事長は頭から背中がぐっしょりと濡れている。
 女子たちよりも多く湯を浴びているが、誰よりも深く儀式に感じ入っているようである。
 彼はもしかして宮司さんでもしていたのかもしれない。
 わたしは彼についてこころの中の彼についてわからないリストに、過去は宮司?と書きつけた。 

「……あのときだけだったよね。もう、あの件で呼び出されることもないんだよね」

 花蓮と女子たちは理事長のお願いを果たしてハンカチで濡れた髪や服をぬぐい、やっかいなことに巻き込まれたのもこれで終わりと、やれやれという面持ちで部屋を出ていく。

 憑きもの払いの湯たての儀式を終え、たっぷりと解決報酬を事務所はもらい、いったん遊歩道の不可解な事件は解決したことになったのである。






 スマートウォッチが震えて16時を告げる。
 わたしは机の上の教科書とノートを片付けはじめた。

「……どうしたの?」

 声を掛けたのは後の席のおなじコースの大鳥大吾である。
 わたしがいつも座る席の周りにはコンタクトではなくて眼鏡派の男女が集まっている。
 彼もそうした仲間の一人で、授業はたいてい近くに座り、欠席したときのノートや試験の情報を交換したりする仲の良い友人のひとりである。

「ちょっと……」
 寮の方へ指させば、すぐに察っしてくれる。
 頭の回転が良くて、気が利く。
 彼は女子に人気があった。
 彼を狙っている女子を、一年の時から何人も知っている。
「あ、あれか。櫻木くんのバイトの。僕も行こうか」
 
 就業までたっぷり30分はある。
 あまり面白くない授業だったので、大鳥大吾も早めに終えてしまいたい気分だったのかもしれない。
 それを何を勘違いしてなのか、眼鏡の仲間たちは大鳥を肘でこづく。
 そういうのを見てしまえば、大鳥がわたしに好意を持っているかのように勘違いしてしまいそうだった。

「そんなんじゃないよ」
 迷惑そうに大鳥は友人たちを振り払った。
 ただの友達なのに、誤解されてからかわれる方がかわいそうだと思う。
 わたしはそっと教室をでた。



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