39 / 134
第3夜、憑き物落とし
15、解決?
しおりを挟む
神坂晴海の対応はこうである。
授業のない夕方からの時間帯に、寮から学校へ向かうものはいないため、遊歩道の出入口の校舎側にだけロープを張る。
それもポールを置き、ロープをひっかけるだけの簡単なものでよいそうである。
バイトのわたしが夕刻にロープを張る。早起きして遊歩道を歩き、朝一番に校舎側のロープを外すことになった。
ボールの横には黄色時に黒の斜めラインに、『不審者動物に注意』と黒々と書かれた注意喚起の看板が、学院の管理課の名前で立てられている。
理事長が渋ったため結局ホームページには掲載されなかったが、全学生への注意メール、そして学院内掲示板に、遊歩道にて犬をつれた不審者の出没が立て続けにあったため、夜間の遊歩道の利用を控えるように呼びかけた。
「結局、人間の仕業だったってことなの?怪我もなくてただ恐怖体験して疲労困憊した7人の子には何もする必要がないってこと?」
「リストの7人目は目撃者ですよ」
ひょうひょうと神坂晴海は答えた。
不満げな理事長のためにお祓いの儀式の場が設けられた。
湯立ての儀式というものらしく、早朝の森の中にあるわき水を汲み、湯を沸かす。
神坂の事務所に6人の被害者が両手を合わせて立ち、理事長の手に持たせた黒々とした素焼きの器に部屋の奥のポットで沸かした湯を注ぐ役目はわたしである。
ぐつぐつ泡立つ湯を、理事長は腕をのばしうやうやしく神坂に献げる。
白い着物を羽織った神坂晴海がひとふたみよ、と神妙につぶやきながら手に持った、これもまた校舎の森で取ってきたという笹の葉を湯にかすめてさっと6人の女子を、右に左になぎはらった。
熱い雫が神坂の後に控えていたわたしの頬に飛んできた。
理事長は頭から背中がぐっしょりと濡れている。
女子たちよりも多く湯を浴びているが、誰よりも深く儀式に感じ入っているようである。
彼はもしかして宮司さんでもしていたのかもしれない。
わたしは彼についてこころの中の彼についてわからないリストに、過去は宮司?と書きつけた。
「……あのときだけだったよね。もう、あの件で呼び出されることもないんだよね」
花蓮と女子たちは理事長のお願いを果たしてハンカチで濡れた髪や服をぬぐい、やっかいなことに巻き込まれたのもこれで終わりと、やれやれという面持ちで部屋を出ていく。
憑きもの払いの湯たての儀式を終え、たっぷりと解決報酬を事務所はもらい、いったん遊歩道の不可解な事件は解決したことになったのである。
スマートウォッチが震えて16時を告げる。
わたしは机の上の教科書とノートを片付けはじめた。
「……どうしたの?」
声を掛けたのは後の席のおなじコースの大鳥大吾である。
わたしがいつも座る席の周りにはコンタクトではなくて眼鏡派の男女が集まっている。
彼もそうした仲間の一人で、授業はたいてい近くに座り、欠席したときのノートや試験の情報を交換したりする仲の良い友人のひとりである。
「ちょっと……」
寮の方へ指させば、すぐに察っしてくれる。
頭の回転が良くて、気が利く。
彼は女子に人気があった。
彼を狙っている女子を、一年の時から何人も知っている。
「あ、あれか。櫻木くんのバイトの。僕も行こうか」
就業までたっぷり30分はある。
あまり面白くない授業だったので、大鳥大吾も早めに終えてしまいたい気分だったのかもしれない。
それを何を勘違いしてなのか、眼鏡の仲間たちは大鳥を肘でこづく。
そういうのを見てしまえば、大鳥がわたしに好意を持っているかのように勘違いしてしまいそうだった。
「そんなんじゃないよ」
迷惑そうに大鳥は友人たちを振り払った。
ただの友達なのに、誤解されてからかわれる方がかわいそうだと思う。
わたしはそっと教室をでた。
授業のない夕方からの時間帯に、寮から学校へ向かうものはいないため、遊歩道の出入口の校舎側にだけロープを張る。
それもポールを置き、ロープをひっかけるだけの簡単なものでよいそうである。
バイトのわたしが夕刻にロープを張る。早起きして遊歩道を歩き、朝一番に校舎側のロープを外すことになった。
ボールの横には黄色時に黒の斜めラインに、『不審者動物に注意』と黒々と書かれた注意喚起の看板が、学院の管理課の名前で立てられている。
理事長が渋ったため結局ホームページには掲載されなかったが、全学生への注意メール、そして学院内掲示板に、遊歩道にて犬をつれた不審者の出没が立て続けにあったため、夜間の遊歩道の利用を控えるように呼びかけた。
「結局、人間の仕業だったってことなの?怪我もなくてただ恐怖体験して疲労困憊した7人の子には何もする必要がないってこと?」
「リストの7人目は目撃者ですよ」
ひょうひょうと神坂晴海は答えた。
不満げな理事長のためにお祓いの儀式の場が設けられた。
湯立ての儀式というものらしく、早朝の森の中にあるわき水を汲み、湯を沸かす。
神坂の事務所に6人の被害者が両手を合わせて立ち、理事長の手に持たせた黒々とした素焼きの器に部屋の奥のポットで沸かした湯を注ぐ役目はわたしである。
ぐつぐつ泡立つ湯を、理事長は腕をのばしうやうやしく神坂に献げる。
白い着物を羽織った神坂晴海がひとふたみよ、と神妙につぶやきながら手に持った、これもまた校舎の森で取ってきたという笹の葉を湯にかすめてさっと6人の女子を、右に左になぎはらった。
熱い雫が神坂の後に控えていたわたしの頬に飛んできた。
理事長は頭から背中がぐっしょりと濡れている。
女子たちよりも多く湯を浴びているが、誰よりも深く儀式に感じ入っているようである。
彼はもしかして宮司さんでもしていたのかもしれない。
わたしは彼についてこころの中の彼についてわからないリストに、過去は宮司?と書きつけた。
「……あのときだけだったよね。もう、あの件で呼び出されることもないんだよね」
花蓮と女子たちは理事長のお願いを果たしてハンカチで濡れた髪や服をぬぐい、やっかいなことに巻き込まれたのもこれで終わりと、やれやれという面持ちで部屋を出ていく。
憑きもの払いの湯たての儀式を終え、たっぷりと解決報酬を事務所はもらい、いったん遊歩道の不可解な事件は解決したことになったのである。
スマートウォッチが震えて16時を告げる。
わたしは机の上の教科書とノートを片付けはじめた。
「……どうしたの?」
声を掛けたのは後の席のおなじコースの大鳥大吾である。
わたしがいつも座る席の周りにはコンタクトではなくて眼鏡派の男女が集まっている。
彼もそうした仲間の一人で、授業はたいてい近くに座り、欠席したときのノートや試験の情報を交換したりする仲の良い友人のひとりである。
「ちょっと……」
寮の方へ指させば、すぐに察っしてくれる。
頭の回転が良くて、気が利く。
彼は女子に人気があった。
彼を狙っている女子を、一年の時から何人も知っている。
「あ、あれか。櫻木くんのバイトの。僕も行こうか」
就業までたっぷり30分はある。
あまり面白くない授業だったので、大鳥大吾も早めに終えてしまいたい気分だったのかもしれない。
それを何を勘違いしてなのか、眼鏡の仲間たちは大鳥を肘でこづく。
そういうのを見てしまえば、大鳥がわたしに好意を持っているかのように勘違いしてしまいそうだった。
「そんなんじゃないよ」
迷惑そうに大鳥は友人たちを振り払った。
ただの友達なのに、誤解されてからかわれる方がかわいそうだと思う。
わたしはそっと教室をでた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる