神さまの寵愛も楽じゃない

藤雪花(ふじゆきはな)

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番外編 1、大鳥大吾の憂鬱

2-2、(大鳥大吾の憂鬱 完)

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 僕の顔をみて、華蓮は眉をよせた。

「安心するのはまだ早いわよ。本題はこれからなのよ。高校のとき猛烈にアタックされてつきあったことがあったんだけど、その男はいきなり手のひらを返してミーナをこれ以上ないっていうほど傷つけた。それ以来、ミーナは恋愛関係に進むことに臆病になっている。だから、何があってもミーナを受け入れる気持ちがないのならば、あんたにふさわしいかわいい女子は他にも山ほどにちがいないからそっとしておいてほしい」

「何があっても?いったい何があって?」
「それは、わたしの口から話せることじゃないわよ」
「僕は抱いて捨てるようなひどい男じゃないよ」

 何があったかわからないなりに、すべてをさらけ出した後に手のひらを返された女側のことを思うと、ぎりっと胸が痛んだ。
 ふうっと華蓮はため息をついた。
 櫻木美奈の友人は、心より彼女のことを心配していた。

「わたしだって、ミーナがこのまま誰とも付き合わないでおばあちゃんになってほしくない。ミーナが心にどんな傷を抱えているにしろ、それごと彼女を受け止められるだけの懐の深い、彼女を深く愛する人に彼氏になってほしくて、生半可な気持ちじゃないんだということを確信したくていろいろ試させてもらった。ごめんね。これだけ情報を与えれば、心構えもできたでしょ。もういいでしょ」
「なら、慎重に距離をつめて、互いに知り合って……」

 去りかけたふわ髪が振り返った。

「ああそうそう、あんたのように自分だけがミーナを見いだした、と思っている馬鹿男は結構いる。わたしに探りにきたヤツだけでこの半年で3人ぐらい?全員告白する前に、同じ手をつかって撃沈させたけど。ミーナは一見地味に見えるけれど、そうじゃないでしょ。本人は自覚しているかどうかわからないけれど、ことさら目立たないようにしているだけ。それに気が付いた男は、自分だけがミーナを見つけたと勘違いする」
 
 それは僕のことだ。
 こわばった僕の顔をみて、華蓮は笑う。
 華蓮を彼女にした男は、彼女にいいようにもてあそばれるのだろう。

「だから、慎重にするのもいいけれど、思い切りも大事だといいたいの。ミーナのトラウマを己の愛で打ち砕くぐらいの男らしさ、強さというのかなあ?そうじゃないと、今度はとんびに油揚げをひっさらわれるわよ?寒いからわたしは帰るわ。送ってくれなくて結構。大鳥大悟くんも風邪ひくまえに帰ったほうがいいんじゃない?」

 一時間寒空に放置しておいて勝手な言いぐさである。
 その会話が冬のはじめことである。

 僕は、櫻木美奈の隣の席は僕の席だと友人たちに牽制する。
 そういうところは男どもはよくわかったもので、互いの欲しいものが重なりあわないように、競争相手と自分の気持ちの強弱、勝算の有無、貸し借りなどを瞬時に計算して譲り合う。
 だから、僕は安心して慎重に、櫻木美奈との距離を縮めることにしたのだった。

 だがしかし、春の嵐に桜の花が巻き上がるころ。
 櫻木美奈の視線が別の男に向いていることに気が付いた。
 その男は学生でも友人でもなく。
 一年の時から彼女のことを想い続けているんだといっても、それが俺と関係あるのかな、と余裕でいいそうな大人の男。

 理事長に取り入る狡猾さ。
 学生相手の仕事を要領よく確保してしまった。 
 彼女はいつも地味で、目立たず、化粧っ気もない。
 たいていの男なら見向きもしないはずなのに、バイトに雇ってしまった。
 だからといって、あの男が櫻木美奈のことが好きだとは限らない。
 神坂晴海の方は、女にだらしなさそうな、理事長の紐でもしてそうな雰囲気がある。
 見た感じ、櫻木美奈との関係は恋人関係ではなさそうだ。
 恋に積極的になれないという櫻木美奈が抱えるトラウマに、感謝するときが来るとは思わなかった。

 心を落ち着かせる。
 僕は、慎重と思い切りとのバランスを見誤ってしまったわけじゃない。
 彼女が抱える困難がどんなことであっても受け止めてみせる。

 だから、まだ遅くはないと信じるのだ。


大鳥大吾の憂鬱 完



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