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第4夜 夢魔
27-2、
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これは、もしかしてただのバイトの女子から彼の特別な関係に進む可能性が開けはじめたのかもしれない。
花蓮のいう三ヶ月ルールがあるのならば、今月末までに神坂のことに好意を持っていることを伝えたり、さらに手を握ったりキスしたりといった肉体的なふれあいに進まなければならず、そのことを意識すると、とたんに緊張をしてしまう。
「神坂さんは恵子さんに拾われる前は何をしていたんですか?」
神坂はふっと息を吐いた。
古伊万里の器の温かさを手のひらで味わうように包み、視線を落とした。
わたしと神坂の間の緊張の糸が途切れ、わたしは何か大事な瞬間を逃してしまったのだと悟るけれど、むしろほっとしてしまうのは、恋愛の経験が不足しているからなのだろう。恋愛の駆け引きなどこれまで避けてきたから、男女間の機微などわかるはずがない。
「……実家は神社の神職の家系で、兄がいる。兄が家業を就いたから、僕は不要になったんだ。それで、何をしたらよいのかわからなくなって、この世界や自分のことを知ろうと思ってあちこちに放浪しているときに、貧血で倒れた女性を助けたことがあって、それが恵子さんだったって訳だよ。ちょうど旦那さんを亡くしたときだから、彼女もこの大きな家をもてあましていたところだったから、僕も彼女も都合が良かったんだ」
神坂は天井から背後の扉からぐるりと視線を巡らした。
その目はわたしを見る目と違って厳しい。
まるで、何か目に見えないものが騒いでいるのを目で威嚇しているかのようだ。
「……この館にも、もしかして不思議があるんですか?」
「わかる?いろいろあるよ。恵子さんの旦那さんも曰くありげな古い器物が好きだったし、恵子さんもそうだったからね」
背後に気配を感じて首筋がぞわりとする。
弾かれるようにして神坂に身を寄せ振り返ると、サイラスが両手に雑誌を抱えていた。
「もう、お二人だけで休憩デスか。声を掛けてくれてもイイじゃないデスか。仲間はずれはダメですよ!」
男前のサイラスが憤慨しながらも、わたしと神坂に視線を往復させた。
「もしかして、神坂さんとミナさんは……」
「ち、違います!」
大慌てに否定をしてしまった。
「そうです。僕と櫻木君は、ただの上司と部下であって決して、おつきあいしているというわけではありません!」
神坂も真っ赤になって否定している。
サイラスは冷ややかな視線を神坂にむけ、わたしの隣に腰をおとした。
すすめもしないのに湯飲みに手をのばす。
「縁があるから上司と部下になるノデしょう?こうして、ボクがここにお世話になるのも縁デスし、眼鏡のかわいい人と知り合ったのも縁デスし」
グラス越しにサイラスの青い目がわたしをのぞき込むとにっこりと笑った。
花蓮のいう三ヶ月ルールがあるのならば、今月末までに神坂のことに好意を持っていることを伝えたり、さらに手を握ったりキスしたりといった肉体的なふれあいに進まなければならず、そのことを意識すると、とたんに緊張をしてしまう。
「神坂さんは恵子さんに拾われる前は何をしていたんですか?」
神坂はふっと息を吐いた。
古伊万里の器の温かさを手のひらで味わうように包み、視線を落とした。
わたしと神坂の間の緊張の糸が途切れ、わたしは何か大事な瞬間を逃してしまったのだと悟るけれど、むしろほっとしてしまうのは、恋愛の経験が不足しているからなのだろう。恋愛の駆け引きなどこれまで避けてきたから、男女間の機微などわかるはずがない。
「……実家は神社の神職の家系で、兄がいる。兄が家業を就いたから、僕は不要になったんだ。それで、何をしたらよいのかわからなくなって、この世界や自分のことを知ろうと思ってあちこちに放浪しているときに、貧血で倒れた女性を助けたことがあって、それが恵子さんだったって訳だよ。ちょうど旦那さんを亡くしたときだから、彼女もこの大きな家をもてあましていたところだったから、僕も彼女も都合が良かったんだ」
神坂は天井から背後の扉からぐるりと視線を巡らした。
その目はわたしを見る目と違って厳しい。
まるで、何か目に見えないものが騒いでいるのを目で威嚇しているかのようだ。
「……この館にも、もしかして不思議があるんですか?」
「わかる?いろいろあるよ。恵子さんの旦那さんも曰くありげな古い器物が好きだったし、恵子さんもそうだったからね」
背後に気配を感じて首筋がぞわりとする。
弾かれるようにして神坂に身を寄せ振り返ると、サイラスが両手に雑誌を抱えていた。
「もう、お二人だけで休憩デスか。声を掛けてくれてもイイじゃないデスか。仲間はずれはダメですよ!」
男前のサイラスが憤慨しながらも、わたしと神坂に視線を往復させた。
「もしかして、神坂さんとミナさんは……」
「ち、違います!」
大慌てに否定をしてしまった。
「そうです。僕と櫻木君は、ただの上司と部下であって決して、おつきあいしているというわけではありません!」
神坂も真っ赤になって否定している。
サイラスは冷ややかな視線を神坂にむけ、わたしの隣に腰をおとした。
すすめもしないのに湯飲みに手をのばす。
「縁があるから上司と部下になるノデしょう?こうして、ボクがここにお世話になるのも縁デスし、眼鏡のかわいい人と知り合ったのも縁デスし」
グラス越しにサイラスの青い目がわたしをのぞき込むとにっこりと笑った。
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