異国の王子の花嫁選び

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
10 / 22
第二夜 人身御供

9、朝練

しおりを挟む
日も明けきらない早朝。
リシアは手短に身支度を整え、使用人に見えるような、質素な格好をする。
顔の腫も引いている。

昨晩、ベルゼラの一行が入城したことは、部屋の中にいてもわかった。
そわそわしだしたリラに様子を見に行かせると、興奮して戻ってきた。

「それはもう勇猛な赤い騎士たちでしたわ!」
「王子はどんな?」
リシアは一応聴く。
「どなたも格好良くてみんな王子さまに見えました!」

リラの興奮が移り、謹慎中のリシアも見に行きたくなったのだ。
きっと朝練などしているだろうと予想する。
扉の外には、王騎士のザッツが壁を背にしていた。一晩中、リシアの部屋の扉を守っていたようであった。
「朝早くからどちらにいかれるのですか?」
「少し、王宮の周囲を散歩なの。心配なら付いてきて!」
「その格好でですか?」
返事をせずに、リシアはザッツの横をすり抜ける。ザッツは後ろに付いた。
「わたしを部屋に戻さなくて良いの?」
「あなたをお守りするのが任務ですから。それはどこでも遂行できます」
ザッツの言うように、部屋で謹慎を守らせるのが彼の仕事ではない。

融通のきかない真面目な堅物も案外いいじゃない?
立派な壮年の王騎士をつれた使用人ってどうみえるのかな、と思いながら、リシアは目指すところに急いだ。

早朝に見に行きたいものは、ベルゼラの騎士たちの朝練である。

12人の騎士と王子に割り当てられた客室のすぐ外には、体を動かせるスペースがある。朝からなにかしら体を動かしている人がいるはず!
と思っての視察である。

案の定、ベルゼラの騎士たちは鎖帷子を脱ぎ、肌着姿で体を動かしていた。
個人の準備体操を一通り終えると、ペアになっての準備体操となる。
お互いを引っ張りあい、乗合いながらストレッチを始めていた。

リシアは、早朝のキンとした空気のなか、声をかけながら組合う褐色の肌、濃い色の髪の男たちの中から、昨日の森で会った男を探した。

良く似た鍛え上げられ、絞られたからだの男たちの中で、リシアはラリマーと名乗った男がすぐにわかる。
吸い付くように一瞬で視線が捕らえられたのだ。
ほんとうに騎士だったんだ、と思う。

視線に気がついたのか、ペアの前屈のサポートをしていた昨日の男が、リシアに気がつく。
リシアが誰かわかり驚き、すぐに笑顔になった。

「シーアじゃないか!」

リシアに大きな声がかかった。
ペアでストレッチをしていた、全員の顔が一斉にリシアに向く。
異国の王子の騎士たちの集まった視線に顔に血が登る。中には王子もいるに違いない。
返事を返す。

「ラリマー」

リシアが軽く手を振ると、ラリマーと呼ばれた昨日の男はストレッチを手伝うのを止めて、リシアのところへ走ってきた。
彼も仲間の視線を浴びている。
気温はまだ20度をこえないとはいえ、アズールは既に汗をかいている。
黒髪が頬に額に張り付いていた。

「シーアは王城で働いていたんだ!こんなところで会えるとは思っていなくて、わたしはうれしいよ」
素直に喜びを表す、ベルゼラの騎士に、リシアはどきまぎする。
「朝から早いのね!今朝は準備体操だけなの?念入りにストレッチしているけど、これから剣技の練習を?」
「いや、これから体術だ」
いたずら気にリシア見た。
「まだ時間があるようならベルゼラの体術を見ていく?」
「ないけど、少しなら見たい!」
ははっと笑う。
アズールにはリシアの輝く笑顔が楽しい。
「あなたは猟師の娘だと思っていた。お城で働いているなんて思いもしなかったよ」
「普段は城なんだけど、昨日は城を抜け出して狩りをして大目玉よ。今も謹慎中」
アズールは少し離れてリシアを見守るのように控える真面目な顔をした壮年の騎士に気がついていた。
「彼は何か?」
「さあ?」
リシアは肩をすくめる。
「ベルゼラの体術を偵察じゃないかしら?」
アズールはリシアの手をとり、近くまで連れていく。その後ろからザッツが続く。
彼は仲間の元に戻る。
「では、体術を!」
誰かが始め!の声を掛ける。
一斉に彼らは腰を落として組み合った。


本当の王子の騎士のラリマーは、戻ってきたアズールと組み合った。
「いったいどういうことです?あなたはラリマーと名乗るならば、アズール王子はどこにいるのですか?」
ベルトをお互いをつかみ合う。
「わたしの目の前に!」
がっつりベルトを取る。
「ありえません!!」
ラリマーは腰を振り、アズール王子の手を引き剥がす。
「シーアがいる時にはあなたとわたしは入れ替わる!少なくとも今は!」
隣で組み合っていた長身のノキアは会話を聞いている。
「王子、面白いことをされていますね!みんなに徹底させましょう」
「ぜったい嫌です!」
ラリマーはアズール王子に体当たりして、両ベルトをとった。その勢いで、足をかけてアズール王子を引き倒す。
「す、すみません、王子、、つい本気に」
ラリマーは手を取り、アズールを引き上げる
「いや、いい。王子扱いはしないでくれ。もうひと勝負だ!」



しばらくリシアはベルゼラの体術の取りくみを見ていた。かなり実践よりのようだった。
もともと体を動かすのが大好きなリシアである。うずうずとする。
「面白いな!」
ザッツが後ろで言う。
彼もデクロアの王騎士である。異国の体術には興味があるようだった。
そろそろ朝も日が高くなってきた。
「ザッツ、帰るわよ!」
リシアは最後にラリマーに手を振り駆け出した。

本物のラリマーはアズール王子にささやく。
「あの娘なのですね。良かったですね、会えて」
「そうなのだが、これで終わりなのか?」
アズールは不満げである。
「ゆっくり会えるセッティングをしてくれ!」
「はあ?!」
デクロア国の姫をもらいにきながら、使用人の娘と会うセッテングなどできるか!
と思うラリマーであった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

処理中です...