王者の前に跪け~番外編

藤雪花(ふじゆきはな)

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その5,※②北条和寿と抹茶

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「和寿、ちょっと、駄目だ。ギヤマンと志野を洗わないと抹茶がこびりついてしまう……」
 ギヤマンとは先ほど日々希が点ててくれたガラスの平茶碗。
「そんなの、後でいいだろ」
「これからジョギングするんだ。休日は朝から体を動かさないと調子がでなくて……」
「ここで体を動かせばいいだろ」

 唇を守るように和寿と間に手を差し込んだ。
 和寿は拒絶されて、イラついた。
 キスは何度もしている。裸だって知っている。
 一度は日々希は和寿を受け入れたではないか。
 もっとも、西条襲撃の後の命を危険にさらしながらの抗争で、日々希は興奮し半ば自失していたそのドサクサにつけ入った形ではあったのだが。
 せっかく機会を作って部屋に連れ込んだイエローカード事件の後は和寿は、日々希が和寿を受け入れる準備ができるまで待ってやるといってしまったがために、和寿が本当に求めるところまでは進めていない。
 和寿は、簡単に己の身体を与えて来たし、抱きたいと思った者は簡単に落としてきた。
 だが、普通の同年代の若者で、男が男に抱かれるというのは、藤日々希のように簡単には受け入れがたいものなのかもしれないとも思う。
 だから待とうと思っているのだが、自分に向けられる好意は感じるのだが、和寿と日々希と、互いに向ける欲望の熱量は、圧倒的に自分の方が大きい。
 自分の懐に入り込んだコイビトは、今日も和寿を退けようとする言い訳を探している。

「日曜日は、東山さんと一緒に走っていて。最近は川嶋も走るとかいいだしているし、今日あたりきそうな感じなんだ。もう、時間だからいかないと」
「はあ?東山って空手の東山先輩かよ?なんであいつがお前と走るんだよ。川嶋は……」

 川嶋は1年一般の、パンピーである。そいつは問題ない。
 コイビトは断り方を間違った。
 男の名前をだすことは自分の独占欲をかき立てるぐらいにしかならない。
 それを知っての上での発言であるのかもしれない。
 そう思うと腹がたつ。
  のこのこと早朝から自分の懐に、コーヒーを口実にきたくせに、和寿の求めには拒絶する。
 身体の関係を拒みさえすれば、自分は優位にたてるのではないかと思っているのかもしれない。
 それは思い違いである。
 コイビトは和寿のことを勘違いしている。
 和寿がやろうとさえ思えば、こんな田舎者の世間知らずなど、自分が満足するだけ飽きるだけ抱いて抱きつぶして、捨てても、なんの問題にもならない。
 かえって、あの北条和寿が俺に夢中だったんだぜ?と、自慢できるぐらいではないか。
 それぐらいは許してやる。
 和寿には痛くもかゆくもない。
 
 いつまで自分のペースでいられると思うな。
 俺のことを受け入れろよ。

 日々希の腕を掴む手に力が入った。

「別に約束もしていないけどなんだか一緒になることが多くて。和寿とはあんまり会えないのに」
 和寿の唇と日々希の唇の間に割って入った手の平の向こうの顔は、真っ赤だった。
「朝から、こんな、ことになるとは思わなくて……」
 日々希が拒絶したのではなくて、照れて戸惑ったのだと理解が電撃のように落ちた。


「来いよ」
 今度こそ日々希はカウンターの向こうから出てきた。
「ソファかベッドかどっちがいい?」
「……ベッド?」
 やめるという選択肢をあえて与えないのはわかっているのだろうか。
 選ぶのは日々希自身であるというところが大事だった。

「まだ、僕は、こういう関係になることに戸惑っているし、そうでなくてもいいのじゃないかとも思うし、だけど和寿のそういう時の顔は、好きだなとも思うし……」
 黒く渦巻いた欲望の凶暴さが、日々希の言葉にあっという間になだめられていく。

 ベッドに行くまでに日々希のジャケットのジッパーを引き下ろし脱がせる。
 自分の寝間着替わりのジャージの上も頭から脱いだ。
 ベッドに追い詰めた。
 日々希は半裸でベッドに腰を下ろし腕を後ろについた。
 目を細めて眩しそうに和寿を見て、開け放された窓をみた。
 コイビトは最後の抵抗を試みようとしていた。

「こんな明るいところで、やっぱり駄目だ」
「じゃあ、眼をふさいでおけ」

 和寿は日々希の両目を手でふさいだ。
 あっと開いた口にキスをする。
 朝日は日々希の身体も明確に浮き立たせる。
 日々希のそこは大きくなりかけている。ズボンのうえからしごいた。

「どうして欲しい?」
「なめて……?」

 それが合図だった。
 下着ごとズボンを引き下ろし、閉じようとする膝を開く。
 立ちあがりかけたそれを口に含む。
 日々希の身体から最後に残っていた抵抗が緩んだ。
 和寿のコイビトは与えられる快楽に弱い。
 ひとりでする時も思い出すぐらい、溺れさせたい。
 手を後ろの口に当てた。固く閉じている。
 無理に指を押し込もうとすると、日々希はずり上がって逃れようとした。
 和寿の口のなかからも腰を引いて逃れた。

「それは、嫌だ」
「まだ、駄目か?」
「まだ、駄目」

 和寿はくすりと笑った。
 それでもいいかと思う。
 それはやはり、和寿の思う通りの答えだった。今はまだということは、いずれ良いということなのだから。

 今は自分に会いたいと思ってくれたそれだけで、十分うれしい。
 しかもこうして、朝日を浴びる日々希を愛せる。
 ぐちゃぐちゃにしてあえがせるのはまた今度でもいい。
 日々希に気持ちよさだけを感じて欲しいと思う。

 再び口に含み唾液でとろとろにすると、和寿は日々希を起こした。足を開かせ足の上に跨がせる。
 互いのそれをあわせて握らせ、今度は和寿が後ろに倒れて日々希を上にする。

「そのまま握って動いて?ひびきが動きたいように」
「え……」
「ジョギングの運動の代わりだと思えよ」
 腹の上にのる尻を両手でつかむ。
 左右から中指で日々希の敏感なところに押し当てた。
「嫌だというなら……」

 和寿は最後まで言えない。
 今度は日々希からのキス。
 日々希は動き始めた。おずおずと。そのうちに自分のリズムを見つけた。
 その唇は、頬に落ち、そして肩に押し付けられた。
 興奮し、荒くなる息を圧し殺そうとしていた。
 二人のそこはたぎり硬くそりあがる。
 たまらず日々希は体を起こした。
 汗がしっとりと肌を濡らし、陽光に煌めいている。
 興奮し切羽つまった日々希の顔。

「僕だけいきそう……」
「イケよ」

 身体を起して和寿も日々希の手の上から握る。
 後ろに逃げようとした日々希の頭を完全にとらえた。
 日々希の手は互いの愛液でとろとろだった。
 ふたりの合わさる口から、喘ぎとよだれが混ざりあう。
 上も下も、どちらの体液かわからないほど混ざり合いトロトロである。

 和寿が望んだ形ほど強くも強烈でもないが、気持よさが駆け上がっていく。
 日々希の喘ぎに重なるのは自分の荒い呼吸。
 日々希に伸ばした舌と口の端からよだれが流れた。
 喘がされトロトロにされるのは和寿の方だったのか?
 乱暴でもなく痛くもない、穏やかなセックス。
 和寿のよだれは日々希の舌に喘ぎとともになめとられた。
 もう耐えられなかった。
 ふたりは互いの手の中に吐き出した。


 日々希は再び水色のジョギングウエアを着ている。
 お抹茶の器や茶杓はきれいにしまわれていた。
 自分がシャワーを浴びているうちに帰ったかもしれないと思っていた和寿は何となくほっとする。

「今日の予定は大丈夫だった?」
 申し訳なさそうに日々希はいう。
 紙袋の中に残ったじょうよう饅頭をつまんでいる。
 和菓子が気に入ったようだった。
 あの頭取の妻にお礼を言っておかねばならないと頭の片隅に置く。
 和寿の今日の予定は、昨夜の内に帰ってきたので今日はまるまるフリーだった。

「ひびきのお陰でおお狂いだ。で、そっちの予定は?」
 午後から町に出て買い物するつもりだという。
「いつももらってばっかりだし、服はそれで間に合っているんだけど、バイト料がでたから靴でも買いに行こうかなと思って」
 日々希は普段履きには、いつも同じ使い古したスニーカーを履いている。
「まだ、都会に慣れてないし?どこに何が売っているかよく分かってないんだけど。人混みの中に入るのも人前恐怖症にはよさそうだし」

 なんとなく、時間があるのなら来て欲しいという日々希の願いを感じた。
 他人の思惑などにいちいち反応するほど暇ではない。
 とくに予定はないとはいえ、昨日会った茶会メンバーの情報を整理しておく必要があった。
 別の機会に顔をあわせた時に、「こんにちは、はじめまして」では、昨日の苦痛な時間が本当にくだらない子供の遊戯になる。
 そうは思うのだけれど。
 日々希と一緒なら。
 ヘリでなく、久々にタクシーや電車に乗って、確たる目的も定めず町をうろうろするのもいいかな、と和寿は思ったのだった。
 

その5、北条和寿と抹茶 完
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