王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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スティル王弟

18、スティル、師匠の一日

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スティルはリリアスの部屋に昨晩から居候である。
リリアスの部屋はスティルの部屋よりも華やかで豪奢な感じがした。なぜか良い花の香りがする。
おんなじ男性寮とは思えない。


弟子として、リリアスに終日ついて勉強したいと申し出たら、黒髪の新米師匠は少し困ったような顔をして言ったのだ。

「僕は別にいいけど、ムハンマドが嫌かもしれないから、ムハンマドの許可を得て?」

それで先日、ムハンマド兄が学校に来たとき、面会の時間をとってもらったのだ。
スティルはムハンマドにはあまり可愛がってもらった記憶はない。
ムハンマドがあまり王宮にいなかったから。
他にも赤毛はいたが、皆亡くなっていった。自分が生き残ったのは、一重に小さい頃は体が弱く、ほっておいても長くはいきられないと見られていたからだ。

そして、自分は生き残り早い段階でこの全寮制の学校に入れられた。
リリアスの弟子になったことをいうと、ムハンマド兄は、ははっと豪快に笑った。

「あいつも騎士やら弟子やら面白いな」

「勉強のため、リリアス師匠に終日ついて学びたいのです!」

「朝から晩までか!」

「朝から朝までです!」

ムハンマドは微笑みながらも、射るような眼でスティルを見た。

「、、、よかろう。わかっているとは思うが、リリアスは私のものだ。間違っても、間違いを起こすなよ。リリアスに何かあれば、弟でも許せないだろう」

スティルは気迫に押されたのだった。
「それって12才にむかっていうことですか?」
思わずいう。

「赤毛には容赦しないことにしている」
それで、昨晩から居候である。




「、、起きて、、スティル」

起こされたのは早朝5時。
まだ夜も明けていない時間だ。こんな時間に何?と思ったら、朝の体操をするという。

「そのままの服でいいよ。少し汗をかくから、その後でシャワーしよう」
といって、床に大きめの布を敷いて、体を動かしだした。

手首、足首、首、脊椎、、、
驚くほど柔らかい。
師匠は体の全ての関節の動きを確かめ、あらゆる筋肉を動かしストレッチする。

「あ、適当でいいから着いてきて。
自分の体をすみずみまで意識することで、体を自在に使えるようになるよ。
また、調子の悪いところにも早めに気がつける」

40分ほど様々な動きを楽しんだら、足を胡座に組んで15分、半眼で瞑想する。

「ほら自分の中の声を聞いて。外の世界の営みを感じて。
自分を世界の一部だと感じて、、」

そこでシャワーだ。
スッキリすると、リリアスは運動できるパンツ姿になっていた。
食堂は7時半オープンである。一時間半はある。

「いくよ!皆が待ってる!」

(皆ってだれだよ、おい、こんな朝早くから)

既に二度寝をしたいのを堪えつつ、駆けていくリリアスについていく。
場所は学内の道場だった。
まだ六時過ぎだというのに、10人は体術の自主練習をしていた。
リリアスの三騎士もいる。

「今日は遅かったな、弟子も一緒か」

「一緒に一日いたいというから」

「じゃあ、一緒に乱取りな」

スティルは一度もトムとハンクスの襟を取れずに一時間の朝練は終わる。

(やっと朝食)
朝からこれ以上ないほど、疲れきった状態のスティルと対照的に、リリアス始め、三騎士はさわやかな朝食タイムを迎える。

「おはよう!」

色んな顔ぶれが笑顔で挨拶を交わす。
スティルをみて、からかいはするが悪意の籠らないものだ。


その後、午前の授業へ。
男子クラスの授業は戦術論だ。
過去の戦の例をとりながら、検証する。
勝利の理由、敗北の理由、双方から歴史的民族的、地理的要因など含めて考察する。
初級科よりずっと面白い授業だ。
師匠は人の意見をじっと聞いている。

「この戦を回避できなかったのか?ということも議論したいのですが」
と発言したことが印象的だった。


午後からは女子クラス。
「俺もいくのかよ!」

拒否したが、師匠は案外強引だ。午後抜けは許されなかった。
いったん師匠は部屋に戻ると、ワンピースに着替えて出てきた。
髪型も変え、軽く化粧をしている。
全くの別人だった。

「最近、アンジェラが化粧を教えてくれるの。女性に見える?女装趣味ではなくって」

リリアスは完全に女にしか見えなかった。
歩くスピード、話し方、笑い方、全てが変わった。
知らない人がみたら、双子と思っても仕方がないと思う。
女性クラスのリリアスは、凛としたところはそのままに、表情が大変優しくなっていた。
クラスの女子がリリアスに声をかけ、一緒にいたがった。スティルも一緒にもみくちゃになる。

(つらい、、)

女子の華やかさに眼がくらみ、授業の内容はまったく入ってこなかった。


ようやく三時。学生としての授業が終わる。

「今日は着替えないで図書館にいく。今日は弟子がいるから三騎士はおやすみだ」

いつも、三騎士の誰かと行動をとっているようだった。
図書館でリリアスは熱心に本を読む。

(タイトルは人類の歴史??)

「あの、、」

スティルはうとうと仕掛けて、はっと起きた。
リリアスのテーブルの前に、頬をそめた外部の貴族が立っていた。
20過ぎぐらいの外国人だ。
鮮やかなグリーンの目をきらきらさせている。

「バラモン国の図書館は素晴らしいと聞いて、滞在中に何回かきたのですが、二日前もいらっしゃっておりませんでしたか?」

(これはナンパでは、、)

「はあ」

リリアスは気のない返事をする。
全く興味ないオーラがでているが、グリーンの目の男も怯まない。

「わたしは、パリスの貴族の、、、」

パリスでリリアスは顔をあげて、ナンパ男を正面からみた。
男は視線を受け止めて嬉しそうだった。

(おいおい、師匠はこのなりでも、男だよ)

「パリスから。遠いところからお越しになられたのですね。バラモンはいかがですか?」

リリアスは会話モードに切り替えたようだった。
ひとしきり話してから、さりげなさを装って本題に入る。

「最近、パリスの第二王子はお元気ですか?」

彼は眉をあげた。
「ルージュ王子ですか?お知り合いですか?」

「以前に」

(なんだよ、それ、知らない)

スティルは師匠の過去を知らないことに気がついた。
パリスの男は確かな手応えをつかんだ。

「ではこれからお茶でもしにいきませんか?学生さんですよね、夜時間に間に合うようにあなたをおかえしいたしますから」

(おいおい、迷うのかい!)

「、、、すみません、今日は無理です。ルージュが元気だということがわかれば良かっただけですから!」

「では明日ならどうですか?」

パリスの男は本気モードでせまってくる。
彼はリリアスの手をつかんだ。
そのとき、スティルはこの場にありえない人物をみる。

「リリー、待たせたね!」

呼び掛けたのはバーライト王だ。
リリアスは驚いて絶句している。
バーライトは適当に男をあしらって追い払った。
王はスティルにも気が付いた。

「リリーに近づく男を払うのも弟子の仕事だ。その様子だと弟子もまだまだだな」

バーライトは情報通だった。
軽い会話を交わす。
「リリアス、帰らないと!」



二人はあわてて帰る。
帰り道が暗くなると厄介だからだ。
夕食はまた男装に着替えて三騎士と金髪のズィンと食べる。

(忙しい一日だった、、、)

お風呂から上がると、リリアスは何やら小さな紙に何かを書き付けていた。

「明日の朝、ムハンマドに手紙を飛ばそうと思って」

(白い小鳥は伝書の鳥か!)


その夜、スティルは呻き声に起こされた。
リリアスは悪夢を見ているようだった。額からは汗が吹き出し、歯を食い縛っている。

「リリアス!リリアス!」

揺さぶり起こす。
スティルもたまに悪夢を見る。
亡くなった兄弟達の夢だ。

(あ、、)

黒曜石の眼が大きく見開かれた。
まだ何かをリリアスは見ているようだった。

「大丈夫か?」
リリアスの顔をとらえて覗きこむ。
黒曜石の眼の焦点が赤茶の眼にあってくる。

「ああ、ムハンマド、、、」

リリアスは大きくため息をつくように、兄の名を吐き出した。

「キスして、、、」

(おいおいおい)

リリアスは髪の毛に指を差し込んで引き寄せた。

(おれはまだ12でなんにもできんぞ!!)

「まぶたにキスして」

言われるままにキスをすると、ふわっと加護の紋様が脳内に広がった。
加護ふたつ。
ついでに唇にも。

(あ、、、)

ファーストキスって思ったときには、リリアスはぱっちりと目を覚ましていた。

「ご、ごめん、勘違いした、てっきりムハンマドだと。紋様が現れなかったから、、、これは内緒にしていて、、」

(いうかっ。俺が殺されるわっっ)

師匠との一日は大変な一日だった。
そしてまた、翌朝五時に起きる。。。



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