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第四章 帝国の皇子
第27話 避難所
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目覚めた時、ジュリアが横で寝息を立てていた。
慌てて昨晩脱ぎ捨てたままのワンピースとシャディーンのマントをまとめて抱え、前合わせのローブを羽織る。
毎日世話をしにくるジュリアの侍女はまだ来ていない。
外に出ると、昨晩必死で締めた窓の戸袋もガラス窓も開かれ、清浄な空気と日差しと共に、城外でざわつく人々の気配が流れ込んでいる。
扉外にはハリーが腕を組んで立っていて、わたしの気配に大きなあくびで朝の挨拶とする。
「もしかして、一晩中いたの?」
「俺はいついかなるときもそばにいるようにと、セドリック隊長から厳命をうけていますから。一晩中ジュリア姫と共におられるとは思いもしませんでしたよ。倒れているかと思って確認しようにも中に入ることはできないから心配したぜ」
目覚めないジュリアとわたし。
ふたりのジュリが外界から隔絶された寝室で昏倒している姿を想像して笑えた。
ジュリア姫は目覚めず、わたしも病魔に侵されふたりとも死亡するという未来も、シャディーンが未来を覗けばあり得る可能性の一つではないかと思えた。
「この、騒がしいのは何?」
「下の階で避難している者たちが500人ほど。彼らが目覚めて騒ぎ始めているんだ」
「被災地の避難所の状態っていうわけよね。わたしも何か手伝えることがあるかもしれない」
「ジュリはやらなくていいんじゃないか?お客だろ?おとなしくしてくれている方が俺も安心なんだけど……」
ハリーが何を言い出すかと引き留めたが、嵐を逃れた500人の被災者が押し込まれた避難所を想像すれば、何不自由なく安穏と部屋で優雅に横になっているなんてできるはずがない。
ここではジュリア姫と一日のうちわずかな時間を過ごすだけがわたしの役割。
それさえ守れば他には何もすることがないのだ。
そんな無精生活をこのままつづければ、この世界に毒されて深刻な病に侵される前に、ぷくぷくと太ってしまう。
部屋には先日頼んでいたパンツとそれに合う上着ができていた。
シルクでもなくレースも装飾されていない。ここでは例外なく男性用である。
わたしは迷わずそれを着る。
うれしくて、仮想敵を蹴り上げてみた。
軽快さに、かつらを脱ぎ捨てた時のように心が躍った。
あくびをする間もなく着替えてでてきたわたしの姿に、ハリーは目をむく。
そんな顔をすれば、馬鹿に見えると言ってあげた方がいいかもしれない。
「その恰好はなんなんだよ!それだとそこらの男の子にしか見えないぜ!」
「避難所にいくのだから、活動性を重視するのは当然でしょ。それに今までさんざん、男子に見られてきたのだからいまさらよね」
「避難所はいま騒然としていてそんな恰好で物見遊山にいくところではないですって。いま、王城のあらゆる者たちが彼らの世話や掃除片付けでてんやわんやしているんです!あまりきれいなところでもありませんし、近づかない方が邪魔にならず賢明ですから!」
「そんな状態だからこそ、手助けが必要でしょ?」
必死で引き留めようとするハリーを無視して階段を下り、ざわつくところへと目指していく。
先日までパーティー会場になっていた広間に近づくにつれて、人々の汗や体臭などがまざった動物的な匂いに米を炊く匂いやスープの匂いの食べ物の匂いが混然一体となり、深く吸い込めば吐き気を誘う。
広場は意外と静かである。
毛布が散乱し、高齢者が手に木椀を持ち食事をしているのか背中をまるめてぽつりぽつりと座っている。
騒がしいのは広間に面した庭である。
昨日まではきれいに整えられていた芝に、煮炊き用の炉が作られ、大釜が置かれ、煮炊きをする者、机の上で山のような食材を刻むもの、できあがったスープを並んでいる者たちに手渡すほっかぶりを頭に巻いた女たちもいる。
倒れた庭木を協力しながら分断する男たち、そこかしこに散乱するどこかしらからか飛来してきた家財の一部や衣服の残骸の中、何かを丸めて蹴ったりして無邪気に遊ぶ子供たち。
混沌とした状態が広間外に広がっている。
ジャガイモやニンジン、小芋をいっぱいに詰めた籠を運ぶ眼鏡の若者に見覚えがある。
料理人のフェリスである。
「フェルド!何かわたしにも手伝えることがない?」
フェルドが顔を上げ、一拍の間の後、わたしが誰だか理解した。
「ジュリか!ちょうどいいところに。昼、夜の食材を午前中に準備しておくことになって、手伝ってくれると嬉しい。町の女たちと一緒にこの食材をカットしてほしいんだ」
彼のこだわりのなさがうれしい。
快諾の返事をしようと口を開けば、紅色のショールをかぶり口元を扇やハンカチで覆う女たちが、フェルドとの間に立ちふさがる。
王妃と侍女たちである。
着の身きのまま王城に逃げ込んだ者たちと、香水をまとい、着飾るアリシア王妃とその侍女の姿はあきらかにこの場から浮いていた。
彼女たちはフェルドが口にしたジュリという名前に反応し、このまま通り過ぎてほしいという願いむなしく周囲を見回しわたしに気がついた。
「まあ!ジュリさまですの?素敵な装いですこと!女中やジュリアの侍女たちのように朝からお手伝いにきてくださったということですの?ジュリア姫のご友人ということでお手を煩わせては申し訳ないと思っておりましたのに」
アリシア王妃は扇を下げ目を細めて上品な笑みを浮かべ、眺めまわした。
申し訳なさそうに聞こえない朗らかな声である。
「おはようございます。王妃さま。皆様方。わたしに何かできることはないかなと思いまして」
侍女たちは横目でわたしを見ながら王妃に何かをささやいている。
ざわざわと胸がざわつく。
いつもの嫌味がはじまるのだ。
「城の女中たちには避難されてきた方々に必要なものを配布し、皆様の場所を快適に過ごせるように申し付けておりますの。食事係は十分足りております。もっと役にたつ差し迫ったようなことがあるのじゃなくて?」
フェルドとの会話を聞き、食事の手伝いをさせたくないようである。
「王妃さま、ジュリさまをお世話しているアリサは早朝から焚きだしの方にはいってもらったので、もしかしてジュリさまのお食事がまだなのではないですか?そういうことでこちらにこられたのでしたら、ちょうどよいことですし、ここにいる町の皆さまとご一緒に召し上がられたらいかがでしょうか」
王妃の侍女は真っ赤に彩られた指先で、50人は並んだ炊き出しの列の最後尾を指す。
「それもそうですね。わたくしたちはもういただきましたから、あなたはまだでしたらここで召し上がらればいいわ。我が夫の好意の元、この澄み渡る青空の元で、城内の解放地区ではどこでも腰をおろしていただいてもいいのよ?」
アリサは焚きだしの大鍋の前にいた。
配給を待つ者たちによそおったスープを手渡しながら、成り行きをはらはらと見守っている。
「では、遠慮なく、そうさせていただきます」
王妃たちに満面の笑顔を返すと、王妃の矛先は背後のハリーに向かう。
「まあ、この忙しい時に騎士見習いがぶらぶらしているとは何事かしら」
「俺は、これが仕事です」
「遊びもかねた仕事のようですわね。この王城は騎士といえど、通常の役目に加えて被害を受けた人々と町を復興する役目があるのですよ。あなただけが変わりなく過ごせると他人事のように思っているわけじゃないわよね?」
王妃の叱責に、ハリーは顔色を変えた。
「ですが、セドリック騎士団長は、それに俺は見習いではなくて……」
「王妃に、見習い騎士ごときが口ごたえするのですか!わきまえなさい!」
侍女が声を荒げた。
「そこの騎士、この者を連れて行きなさい!」
大柄な護衛が王妃の命令に従う。
唖然とする人々の中、ハリーの腕を取り引きずっていく。
「では、あなたのできることをなさい」
そう命令し、満足気に王妃たちは香水の香りを残して去っていく。
わたしは王城にきてからわたしにはりついていたハリーから、思いもかけず解放されたのである。
慌てて昨晩脱ぎ捨てたままのワンピースとシャディーンのマントをまとめて抱え、前合わせのローブを羽織る。
毎日世話をしにくるジュリアの侍女はまだ来ていない。
外に出ると、昨晩必死で締めた窓の戸袋もガラス窓も開かれ、清浄な空気と日差しと共に、城外でざわつく人々の気配が流れ込んでいる。
扉外にはハリーが腕を組んで立っていて、わたしの気配に大きなあくびで朝の挨拶とする。
「もしかして、一晩中いたの?」
「俺はいついかなるときもそばにいるようにと、セドリック隊長から厳命をうけていますから。一晩中ジュリア姫と共におられるとは思いもしませんでしたよ。倒れているかと思って確認しようにも中に入ることはできないから心配したぜ」
目覚めないジュリアとわたし。
ふたりのジュリが外界から隔絶された寝室で昏倒している姿を想像して笑えた。
ジュリア姫は目覚めず、わたしも病魔に侵されふたりとも死亡するという未来も、シャディーンが未来を覗けばあり得る可能性の一つではないかと思えた。
「この、騒がしいのは何?」
「下の階で避難している者たちが500人ほど。彼らが目覚めて騒ぎ始めているんだ」
「被災地の避難所の状態っていうわけよね。わたしも何か手伝えることがあるかもしれない」
「ジュリはやらなくていいんじゃないか?お客だろ?おとなしくしてくれている方が俺も安心なんだけど……」
ハリーが何を言い出すかと引き留めたが、嵐を逃れた500人の被災者が押し込まれた避難所を想像すれば、何不自由なく安穏と部屋で優雅に横になっているなんてできるはずがない。
ここではジュリア姫と一日のうちわずかな時間を過ごすだけがわたしの役割。
それさえ守れば他には何もすることがないのだ。
そんな無精生活をこのままつづければ、この世界に毒されて深刻な病に侵される前に、ぷくぷくと太ってしまう。
部屋には先日頼んでいたパンツとそれに合う上着ができていた。
シルクでもなくレースも装飾されていない。ここでは例外なく男性用である。
わたしは迷わずそれを着る。
うれしくて、仮想敵を蹴り上げてみた。
軽快さに、かつらを脱ぎ捨てた時のように心が躍った。
あくびをする間もなく着替えてでてきたわたしの姿に、ハリーは目をむく。
そんな顔をすれば、馬鹿に見えると言ってあげた方がいいかもしれない。
「その恰好はなんなんだよ!それだとそこらの男の子にしか見えないぜ!」
「避難所にいくのだから、活動性を重視するのは当然でしょ。それに今までさんざん、男子に見られてきたのだからいまさらよね」
「避難所はいま騒然としていてそんな恰好で物見遊山にいくところではないですって。いま、王城のあらゆる者たちが彼らの世話や掃除片付けでてんやわんやしているんです!あまりきれいなところでもありませんし、近づかない方が邪魔にならず賢明ですから!」
「そんな状態だからこそ、手助けが必要でしょ?」
必死で引き留めようとするハリーを無視して階段を下り、ざわつくところへと目指していく。
先日までパーティー会場になっていた広間に近づくにつれて、人々の汗や体臭などがまざった動物的な匂いに米を炊く匂いやスープの匂いの食べ物の匂いが混然一体となり、深く吸い込めば吐き気を誘う。
広場は意外と静かである。
毛布が散乱し、高齢者が手に木椀を持ち食事をしているのか背中をまるめてぽつりぽつりと座っている。
騒がしいのは広間に面した庭である。
昨日まではきれいに整えられていた芝に、煮炊き用の炉が作られ、大釜が置かれ、煮炊きをする者、机の上で山のような食材を刻むもの、できあがったスープを並んでいる者たちに手渡すほっかぶりを頭に巻いた女たちもいる。
倒れた庭木を協力しながら分断する男たち、そこかしこに散乱するどこかしらからか飛来してきた家財の一部や衣服の残骸の中、何かを丸めて蹴ったりして無邪気に遊ぶ子供たち。
混沌とした状態が広間外に広がっている。
ジャガイモやニンジン、小芋をいっぱいに詰めた籠を運ぶ眼鏡の若者に見覚えがある。
料理人のフェリスである。
「フェルド!何かわたしにも手伝えることがない?」
フェルドが顔を上げ、一拍の間の後、わたしが誰だか理解した。
「ジュリか!ちょうどいいところに。昼、夜の食材を午前中に準備しておくことになって、手伝ってくれると嬉しい。町の女たちと一緒にこの食材をカットしてほしいんだ」
彼のこだわりのなさがうれしい。
快諾の返事をしようと口を開けば、紅色のショールをかぶり口元を扇やハンカチで覆う女たちが、フェルドとの間に立ちふさがる。
王妃と侍女たちである。
着の身きのまま王城に逃げ込んだ者たちと、香水をまとい、着飾るアリシア王妃とその侍女の姿はあきらかにこの場から浮いていた。
彼女たちはフェルドが口にしたジュリという名前に反応し、このまま通り過ぎてほしいという願いむなしく周囲を見回しわたしに気がついた。
「まあ!ジュリさまですの?素敵な装いですこと!女中やジュリアの侍女たちのように朝からお手伝いにきてくださったということですの?ジュリア姫のご友人ということでお手を煩わせては申し訳ないと思っておりましたのに」
アリシア王妃は扇を下げ目を細めて上品な笑みを浮かべ、眺めまわした。
申し訳なさそうに聞こえない朗らかな声である。
「おはようございます。王妃さま。皆様方。わたしに何かできることはないかなと思いまして」
侍女たちは横目でわたしを見ながら王妃に何かをささやいている。
ざわざわと胸がざわつく。
いつもの嫌味がはじまるのだ。
「城の女中たちには避難されてきた方々に必要なものを配布し、皆様の場所を快適に過ごせるように申し付けておりますの。食事係は十分足りております。もっと役にたつ差し迫ったようなことがあるのじゃなくて?」
フェルドとの会話を聞き、食事の手伝いをさせたくないようである。
「王妃さま、ジュリさまをお世話しているアリサは早朝から焚きだしの方にはいってもらったので、もしかしてジュリさまのお食事がまだなのではないですか?そういうことでこちらにこられたのでしたら、ちょうどよいことですし、ここにいる町の皆さまとご一緒に召し上がられたらいかがでしょうか」
王妃の侍女は真っ赤に彩られた指先で、50人は並んだ炊き出しの列の最後尾を指す。
「それもそうですね。わたくしたちはもういただきましたから、あなたはまだでしたらここで召し上がらればいいわ。我が夫の好意の元、この澄み渡る青空の元で、城内の解放地区ではどこでも腰をおろしていただいてもいいのよ?」
アリサは焚きだしの大鍋の前にいた。
配給を待つ者たちによそおったスープを手渡しながら、成り行きをはらはらと見守っている。
「では、遠慮なく、そうさせていただきます」
王妃たちに満面の笑顔を返すと、王妃の矛先は背後のハリーに向かう。
「まあ、この忙しい時に騎士見習いがぶらぶらしているとは何事かしら」
「俺は、これが仕事です」
「遊びもかねた仕事のようですわね。この王城は騎士といえど、通常の役目に加えて被害を受けた人々と町を復興する役目があるのですよ。あなただけが変わりなく過ごせると他人事のように思っているわけじゃないわよね?」
王妃の叱責に、ハリーは顔色を変えた。
「ですが、セドリック騎士団長は、それに俺は見習いではなくて……」
「王妃に、見習い騎士ごときが口ごたえするのですか!わきまえなさい!」
侍女が声を荒げた。
「そこの騎士、この者を連れて行きなさい!」
大柄な護衛が王妃の命令に従う。
唖然とする人々の中、ハリーの腕を取り引きずっていく。
「では、あなたのできることをなさい」
そう命令し、満足気に王妃たちは香水の香りを残して去っていく。
わたしは王城にきてからわたしにはりついていたハリーから、思いもかけず解放されたのである。
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