悪女がお姫さまになるとき

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
29 / 72
第四章 帝国の皇子

第28話 手持無沙汰

しおりを挟む
 ハリーは、どこにも行くなよ!部屋に戻れよ!と口パクで必死にわたしに伝え、引きずられていってしまった。
 王妃の一行が去り、周囲にざわめきが戻ってくる。

「王妃さまいつみてもお美しいわ」という羨望から、「何もしないなら来るなよな」という批判的なものまで一気に噴き出している。
「ねえ、あんた王妃さまとどういう関係なのよ」

 王妃の毒気に当てられ立ち尽くしていると、野菜が浮かぶミルクスープと固く乾燥させたパンを押し付けられた。
 質素なワンピースにポニーテールの同年代の女子である。
 遠巻きにしていた若者たちが、近寄ってくる。

「ご飯がいいのならおにぎりがあるわ!」
 椀の上にパン、その上におにぎりを乗せるのは、ポニーテールの女子の友人である。
「ありがとう。食事には困らなさそうね」
「見かけたことのない顔で王妃さまと関係があり、親しいようだし、きれいな顔もしているから、セシリアさまのご友人役として王城に滞在とかしているの?」
「それとも庭師の息子とか」
 
 並ばずに朝食をありつけた分だけの情報提供をしてね、ということのようである。
 すぐ近くの木陰に両側にはさまれていく。
 追いかけてきたのはアリサである。

「ジュリさま、せっかく来ていただいたのに、食に関するところの人の許諾は王妃の侍女が采配していて、お手伝いしていただくことは無理そうですから、それを召し上がられたらお部屋か図書館かいてください」
「フェリスが食材のカットをしてほしそうだったけど」
「そうなんですが、王妃がああいった手前、侍女は固くなに拒むはずですから」
 面倒なものである。
「わたしたちも手伝うっていったんだけど、ここではおとなしくしておけって言われたのよ」

 子供扱いされて憤慨している。
 木陰にはポニーテールの女子以外にも5,6人の手持無沙汰の若者たちが集まってくる。
 アリサはすぐに呼び戻されてしまった。
 さぼるなということのようである。
 わたしをだしにしてわいのわいのと騒ぎ出す。
 彼らは仲の良いグループのようだ。
 ポニーテールはサラという。

「あんたは、王妃さまに差し迫ったものがあるでしょ、といわれていたわよね」
「手伝ってもいいっていわれるだけだけましじゃない?あんたとあたしたちそう年も違わなさそうなのに」
「町に戻る組には入れてもらえなかったし」
「かといってここに残っても、餓鬼たちの遊び相手になることぐらいしかやることないからな」
「勉強道具ならもってきたわよ。学校の宿題でていたでしょ、あんた、何も持ってきてなかったの?」
「急に王城に避難するといわれてそんなもの持ってこれるはずがないだろ!俺は勉強がそもそも嫌いなんだ」
「あいつらのように、楽器でも持ってきていたらよかったってか」

 あいつらとは、若い少年たちがひとところに集まり、思い思いの楽器を手にして演奏をしはじめていた。
 彼らの中に、先日のパーティーで一緒になったマグナーや、そのメンバーもいるかもしれない。
 自分たちは時間をいたずらにつぶすしかないのにと、恨めしそうに普段着の楽団員を見る。

「図書館という選択肢もあるのではないですか?」

 ふとあいた間に涼やかな声が滑り込む。
 全員の視線がひとり立っている若者に向かった。
 もちろんわたしもだ。
 シンプルではあるが質のよさげなシャツを着ている。
 金に銀のメッシュの髪が日差しにきらめき、気弱げな美貌がわたしの視線を捉えて笑う。
 
 わたしは咀嚼していた口の中のものを噴き出しかけ、むせた。
 ロスフェルス帝国の第三皇子。
 皇子妃候補となったのにいっこうに帝国に来ないジュリア姫の様子を確認するのに、わたしを利用して厳重に結界が張られたジュリア姫の寝室に押し入った皇子。
王国の守り石を動かし、嵐の被害を起こしたのは彼の命令ではなかったか。


「グリー!どうしてこんなところにいるの!」
「こんなところって、広間で寝るといいましたよ?」
「護衛は?」
「護衛、ですか?」
 きょろきょろとわざとらしく四囲に首をめぐらし、アストリアの護衛を指さした。
「護衛はアストリア国の護衛じゃなくて、」

 わたしは言葉を飲み込んだ。
 優し気な猫をかぶるこの線の細い美貌の若者が、帝国の皇子だとばらす必要はなかった。
 わたしが魔術師にここではない世界から召喚された光り輝く者ということを言ってまわらないのと同じだ。

「グリーってわかったけど、お前誰だよ」 

 サラの隣の少年がたちあがった。
 彼の方が、グリーより背が高い。
 腰に手をやり胸をはりグリーをにらみつけるが、グリーは笑顔で流した。

「たまたまアストリアに父に連れられて寄港して、嵐に巻き込まれてここに避難させてもらったんです」
「旅の途中でこんなことになるなんて、それは災難だったね」

 サラがいうと、あちこちから彼女に同意し同情の声が上がる。
 威圧していた少年も腰をおとした。
 彼女がリーダーのようである。
 
「でも図書館はどうかなあ」
「俺は嫌だな」
「あたしも!」

 口々に同意が上がる。
 図書館という選択肢は一番選びたくないもののようだった。

「ねえ、あんたの話を聞かせてよ」
「僕ですか、帝国から交易品を商船に乗せて、あちこち荷下ろししては特産を積み込んではまた別のところで荷下ろしして、っていう商売をしている父に勉強のためについていくことにして、初めの寄港地がアストリアで……」

 若者たちの興味はグリーに集まり、彼がどうして船にのることになったのか根ほり葉ほり聞き出している。
 わたしは食べ終わると立ち上がった。
 固いパンをスープに浸して柔らかくしてから食べるというやり方を知る前に、パンをかじかじしてパンツに散らばってしまったパンくずを払った。


「どこに行くの?」
 サラがいう。
「差し迫ったところを手伝えばいいのなら、まずはどこが差し迫っているか探しにいこうかと。手が足りているようなら、わたしの助けはいらないということで、昼寝でもしようかと思っているんだけど」
「あたしも行くわ」
「俺も」
「僕も」
「僕も、行ってもいいかな?」

 最後はグリーである。

「勝手にしたら?」
「承知してくれてよかった」

 グリーのはにかんだ笑顔に、自分にむけられたわけでもないのにきゃあと、女子たちが騒ぐ。
 高慢で傲慢な別の顔を知っているわたしは、単純にグリーの顔に浮ついたりはできない。
 むしろ、またわたしを利用して、何かしでかすつもりなのかと用心してしまう。
 手持ち無沙汰の若者たちと、一緒に解放地区を歩いてみることにした。

 炊き出しは終わっていた。
 大鍋の代わりに水を張った大きな樽が用意されていたので、その中にスープの椀をいれた。

「使い終わった食器を洗うとか、野菜の皮などが大量に出ているので、それを捨てるという手助けはできるかもしれないわね。必要なら飲み水用の水を汲んで持ってくるのもいいかも」
「食事係はだめだって王妃さまにいわれておられましたね」
 わたしの隣を歩くグリーが言う。
「食材を切ったり料理をしたりする食事係はだめだといわれたけど、食事の後の片付け係はだめだとはいわれていないわ」
「ああ、なるほど。大きくとらえるのではなくて、分断して理解するわけですね」
 グリーは妙に納得している。
「じゃあ、片付けでも手伝いますか!」
 サラはグリーと逆側の隣を歩き腕をまくる。
「全体をまず把握したい。ここは人も多いから手が足りているような気がするし」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...