39 / 72
第五章 価値あるもの
第36話 酒造り ③
しおりを挟む
稲だまは王城の管理畑の中に区画されたジュリア姫の稲畑の稲穂に運よく見つけることができた。
稲だまを探すのを助けてくれた王族農地管理を任されている者たちに、数日後に控えた稲刈りにジュリアの代理に立ちあうことを約束する。
「ジュリア姫はまだ畑にでられる状態じゃないようじゃなあ」
真っ白の髪の温厚そうな管理人は、残念そうに王城のジュリアの温室のあたりを仰ぎ見る。
「収穫祭にはご尊顔を拝見したかったんじゃが。ルシルス王子も夏から滞在されておられるのは妹姫が劇的に回復をされているからと聞いていたんだがなあ」
ルシルス王子がロスフェルス帝国の官僚組織に戻らず、ジュリア姫と共にいるという話は、サラのところへ酒造りの話を聞きにいったときにも、何人にも聞かれていた。
「ジュリはジュリア姫のご友人なんでしょ?ジュリア姫はルシルス王子に恋人のように大事にされているし、それにラソ魔術師の想い人ではないかという噂があるでしょ?本当のところはどうなのよ?」
サラは訊く。
毎日ジュリア姫の部屋に入り浸っているそうだけれど、いくら仲が良い兄妹であっても過剰ではないの?
もしかして、ルシルス王子とジュリア姫は本当は深い関係んじゃないの?
この手の質問に対しては、同じ返しをすることにしている。
「ルシルス王子がジュリア姫を大事にされているのは確かだけれど、そんなこと、わたしにわかるはずはないでしょ。ここでは兄妹で結婚とかあり得るの?わたしの国では兄妹での結婚は許されてないわよ」
目をぎらつかせながら、サラは声を潜めた。
「ここでもそうよ。でも、やろうとしてできるのが王族たちよ。本当のところは、あんたが話してくれなければ藪のなかっていうか、王城の中、なんだから誰もうかがいしれないのよ。兄妹の悲恋のラブロマンスなんて物語だってできているんだから!」
ますます不用意な発言を控えなければならないという気持ちになる。
「ジュリア姫と噂になる相手は、シャディーンじゃないの?」
「シャディーンですって!?確かに以前はシャディーン様はジュリア姫をお心に秘めておられたようだけど、最近はあんたに乗り換えたっていう噂もあるのよ?」
にやにや笑いながらサラは真偽のほどを確かめようとわたしの表情を見つめるので、どぎまぎしてしまう。
「何か噂が流れているの?」
「シャディーンさまとあんたは目撃されているのよパーティーで一緒にいたって」
「それだけ?」
つい聞き直してしまう。
サラたちが王城で避難していた時、魔術師たちは海岸線の結界の張り直しや、破壊された上下水道の修繕、大けがをした者たちの救助などで多忙をきわめていて、日の当たる時間帯にわたしの前に現れることはなかった。
「それだけってあんた。まるで悪女のようよ」
女子たちはくすくす笑い、わたしもごまかし笑いをする。
「そんな冗談はおいておいて、ジュリは収穫祭どうするの?」
「収穫祭?」
「街中でお祭りがあるのよ。王城でもいろいろ堅苦しい儀式があると思うんだけれど、王族でもないあんたはべつに参加しないのなら、町に下りてきて、一緒においしいものを食べて、歌ったり踊ったりして遊びましょうよ。みんな来るわよ!その他にも。祭りは出会いの場よ。王城にばっかり籠ってないで、でてきなさいよね!ジュリア姫の体調も良くなっているんでしょ?ジュリア姫もお忍びでいらっしゃるのも楽しいと思うよ!」
「ジュリア姫は警護の問題で無理だと思うけど」
「警護なしだからお忍びなんだけどね!」
ジュリア姫が元気だとしても、厳重な寝室、ジュリアの命を左右するわたしに四六時中警護をつけているところから、お忍びで町の祭りに参加することなど無理だと思うし、サラたちもそういいつつ、たいして期待していないんじゃないかと思うのだ。
※
「収穫祭ですか?」
「そう。みんななんだか浮足だってない?」
「ジュリさまの国では収穫祭はないのですか?この国では、収穫を祝い、王妃が酒を、王が海の幸をこの大地に降り立った祖先と、大地の精霊に捧げる一大神事なんですよ。その後、三日三晩、飲んで歌って踊って、っていう祭りです。確かに、16歳以上になればまだ自立とまではいきませんが、成人していると見なされて、収穫祭に参加することを認められるんですよ。そういうところで、男女の出会いの場、ということになるかもしれません。祭りで出会って結婚した者たちも多いですよ。それこそ、お忍びで示し合わせて祭りデートを楽しむというのも、わたしたちの時代にははやってましたし。というところで、サラたちが浮足立つのもしょうがないところもあります」
アリサはいかに収穫祭がアストリア国の重要な祭りなのかを説明する。
稲だまを探すのを助けてくれた王族農地管理を任されている者たちに、数日後に控えた稲刈りにジュリアの代理に立ちあうことを約束する。
「ジュリア姫はまだ畑にでられる状態じゃないようじゃなあ」
真っ白の髪の温厚そうな管理人は、残念そうに王城のジュリアの温室のあたりを仰ぎ見る。
「収穫祭にはご尊顔を拝見したかったんじゃが。ルシルス王子も夏から滞在されておられるのは妹姫が劇的に回復をされているからと聞いていたんだがなあ」
ルシルス王子がロスフェルス帝国の官僚組織に戻らず、ジュリア姫と共にいるという話は、サラのところへ酒造りの話を聞きにいったときにも、何人にも聞かれていた。
「ジュリはジュリア姫のご友人なんでしょ?ジュリア姫はルシルス王子に恋人のように大事にされているし、それにラソ魔術師の想い人ではないかという噂があるでしょ?本当のところはどうなのよ?」
サラは訊く。
毎日ジュリア姫の部屋に入り浸っているそうだけれど、いくら仲が良い兄妹であっても過剰ではないの?
もしかして、ルシルス王子とジュリア姫は本当は深い関係んじゃないの?
この手の質問に対しては、同じ返しをすることにしている。
「ルシルス王子がジュリア姫を大事にされているのは確かだけれど、そんなこと、わたしにわかるはずはないでしょ。ここでは兄妹で結婚とかあり得るの?わたしの国では兄妹での結婚は許されてないわよ」
目をぎらつかせながら、サラは声を潜めた。
「ここでもそうよ。でも、やろうとしてできるのが王族たちよ。本当のところは、あんたが話してくれなければ藪のなかっていうか、王城の中、なんだから誰もうかがいしれないのよ。兄妹の悲恋のラブロマンスなんて物語だってできているんだから!」
ますます不用意な発言を控えなければならないという気持ちになる。
「ジュリア姫と噂になる相手は、シャディーンじゃないの?」
「シャディーンですって!?確かに以前はシャディーン様はジュリア姫をお心に秘めておられたようだけど、最近はあんたに乗り換えたっていう噂もあるのよ?」
にやにや笑いながらサラは真偽のほどを確かめようとわたしの表情を見つめるので、どぎまぎしてしまう。
「何か噂が流れているの?」
「シャディーンさまとあんたは目撃されているのよパーティーで一緒にいたって」
「それだけ?」
つい聞き直してしまう。
サラたちが王城で避難していた時、魔術師たちは海岸線の結界の張り直しや、破壊された上下水道の修繕、大けがをした者たちの救助などで多忙をきわめていて、日の当たる時間帯にわたしの前に現れることはなかった。
「それだけってあんた。まるで悪女のようよ」
女子たちはくすくす笑い、わたしもごまかし笑いをする。
「そんな冗談はおいておいて、ジュリは収穫祭どうするの?」
「収穫祭?」
「街中でお祭りがあるのよ。王城でもいろいろ堅苦しい儀式があると思うんだけれど、王族でもないあんたはべつに参加しないのなら、町に下りてきて、一緒においしいものを食べて、歌ったり踊ったりして遊びましょうよ。みんな来るわよ!その他にも。祭りは出会いの場よ。王城にばっかり籠ってないで、でてきなさいよね!ジュリア姫の体調も良くなっているんでしょ?ジュリア姫もお忍びでいらっしゃるのも楽しいと思うよ!」
「ジュリア姫は警護の問題で無理だと思うけど」
「警護なしだからお忍びなんだけどね!」
ジュリア姫が元気だとしても、厳重な寝室、ジュリアの命を左右するわたしに四六時中警護をつけているところから、お忍びで町の祭りに参加することなど無理だと思うし、サラたちもそういいつつ、たいして期待していないんじゃないかと思うのだ。
※
「収穫祭ですか?」
「そう。みんななんだか浮足だってない?」
「ジュリさまの国では収穫祭はないのですか?この国では、収穫を祝い、王妃が酒を、王が海の幸をこの大地に降り立った祖先と、大地の精霊に捧げる一大神事なんですよ。その後、三日三晩、飲んで歌って踊って、っていう祭りです。確かに、16歳以上になればまだ自立とまではいきませんが、成人していると見なされて、収穫祭に参加することを認められるんですよ。そういうところで、男女の出会いの場、ということになるかもしれません。祭りで出会って結婚した者たちも多いですよ。それこそ、お忍びで示し合わせて祭りデートを楽しむというのも、わたしたちの時代にははやってましたし。というところで、サラたちが浮足立つのもしょうがないところもあります」
アリサはいかに収穫祭がアストリア国の重要な祭りなのかを説明する。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる