悪女がお姫さまになるとき

藤雪花(ふじゆきはな)

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第六章 収穫祭

第47話 再会②2

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 マグナーたちの楽団の少年たちや、港町のサラなど知り合いに鉢合わせをするかもしれなかったけれど、誰もリスの王とキツネの姫が誰であるか気が付かない。わたしもすれ違う仮面が誰なのか全くわからない。

 鱗の生えた動物たちの、海底の祭りのようだ。熊やウサギや鷺たちは、屋台のくじを引き、揚げパンを食べ、葉を皿にしてカットフルーツを食べる。

 気の向くままに、わたしは力作のパッチワークの小袋を手に取り、いびつな形の真珠のピアスを明かりに照らして虹色の反射を吟味する。
 グリーは特に欲しいものはなさそうで、時折人混みに目を向けていた。
 あちこち寄り道し、話しながらずいぶん下ってきた。
 髪を揺らす風に潮の匂いが混ざる。
 港町の中に入り、王城からの一本道に町中へと続く辻がいくつもでき、そこで人の流れが複雑に混ざり合う。

 辻の広間には火を噴く派手なパフォーマンスをするアストリア人ではない肌の浅黒い半裸の男と火の玉の付いたスティックをお手玉にする妖艶な女に人だかりができていた。

 グリーは手を引き、人の輪から外れ、腰を下ろせるところを見つけてハンカチを敷いてくれる。
 そういうところは傲慢でわがままそうなグリーリッシュ皇子では絶対にしなさそうな、品の良い紳士である。
 リスの王様の仮面の下の本当の素顔は、優しいグリーなのか、それとも傲慢なグリーリッシュなのか。

「忘れてないけど。……グリーはわたしを迎えに来てくれたの?」
「ジュリア姫が良くなっている噂を確かめに来て、よたよた歩く、髪だけは美しい娘を見たのは確かです。まさか、それが付け毛の樹里殿とは思いもしませんでしたけれど。どちらかというと、あなたがついでです」

「よたよた、髪だけ、ついで……」正直さに苦笑してしまった。

「ついでではありますが、わたしの提案はいまだに有効ですよ。わたしと来たら、顎で使われるよりかは顎で使う方になれますよ」

 同じ誘い文句である。
 グリーの目には、わたしはよほど顎で使われているように見えるようである。

「グリーは、ジュリア姫じゃないと駄目だとはいわないのね」
「そりゃ、そうでしょう。どんなに寝姿がうつくしくても、そんなものはただの人形のようなものです。それよりもわたしは、意思を持っていて、泣いて、怒って、笑って、わたしと共に歩んでくれる人がいい」

 その声にひたむきな真剣さがきらめいている。

「ジュリア姫じゃないと駄目だという人がいるのですか?」
「みんなそうでしょ」
「みんなとは、ルシルスはそうとして、あのあなたの保護者顔する魔術師もそうなのですか?」
「シャディーンは、彼女のためにわたしを呼び寄せたのだから」
「どこからですか?あなたの国とは?」

 全てをぶちまけたくなった。
 もうじき帰れるのだから話してもいいのじゃないの。
 ついでだけど、真剣さをにじませてわたしに来いと誘うこの二面性を併せ持つ皇子さまは、一体どんな反応を返してくれるのだろう。

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