氷の女王【3】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
6 / 12
第1話「氷の女王」 冬の国デンドロン

6.違う空、違う風、違う神

しおりを挟む
まるでよくなついている子犬のよう、、、。

リリアスのジュードの印象だ。
驚異的に回復してからは、ジュードはリリアスの側にぴったりとついている。
ムハンマドはムッツリ黙りこみ、ノアールは呆れ、バードは目から殺人光線をだし、リヒターははじめから取り合わない。

「わたしがこうして元気にいられるのも、リリアスさまのお陰なのです」
と、ことあるごとにいう。

今のなつく状況をつくったムハンマドは牽制されるのだ。


彼らは3日、馬で北へ移動し国境を超えたようである。
まばらだった樹木が増え、気候が湿潤になる。
さらに進むと気温がグッと下がる。海に出る。
ここまで、1週間。
海に出れば、港町を探す。

港町からは船を借りて、さらに北を目指す。
バラモンやパリスの大陸を離れるとき、ムハンマドやバラー、バード、リリアスの胸に、ある種の感慨と感傷を味わう。

「遠くにきたな、、」

ムハンマドは呟く。
リリアスをしっかり、外套でくるむ。海風を遮る。
ここまで北に来ると風が冷たい。

「うん。ムハンマド、あのね」

「なんだ?」

「僕から離れないで」

ムハンマドはははっと笑う。

「わたしがあなたから離れるはずがないだろう?
あの鬱陶しい子犬がじゃまなだけだ。
氷1㌧につられたが、早く女王の氷をとやらを溶かして帰ろう」
ムハンマドはいう。

リリアスは風を頬に感じ、空を見上げる。
少し不安なざわめきが胸にある。

「空が違う、風がちがう、、。
違う理に従う違う精霊、違う神がいるような気がする。
加護の力が使えないかもしれない」

「そうか?」

ムハンマドは己の胸の炎を確認する。

彼はそもそも精霊の力を頼ったり使ったりはしない。
特に、リリアスが不安になるようなことは何もなかった。

「リリアス、大丈夫だ。あなたが精霊の力を使うことはないから安心して、、」

頭にキスを落とす。
リリアスは顔を向け、二人は自然とキスをかわすと、ふわっと加護紋様が現れ、冷たい海の、くすんだ空に消えた。

ジュードはそんなふたりをみて、溜め息をつく。

「素敵だな。あんなカップルになりたい」

「はあ?リリアスにはムハンマドがいる。お前に1ミリも付け入る隙間はないぞ」
とバード。

リリアスの次に、飄飄としたバードはジュードには話しやすい。
年も変わらないぐらいなのに、どこか達観した感じがついなんでも話したくなるのだ。

「わたしには、心を決めた方がいるから、リリアスが素敵でも、なびくことはない。そもそもリリアスは男だから、男になびくことは許されない」

(十分なついているぞ、おいこら)

と内心バードは突っ込みをいれる。

「心を決めた方って、アデュラリア女王か?」

ぱっとバードに向く。
顔が真赤だ。
本当に20になっているかと思う。

「なんでわかったんだ、バード!アデュラリアさまは美しい。強くて、激しくて、、いつもわたしはいじめられていて、、、」

(はあっ??アデュラリアっていったい、いや、いじめっこを好きになるこいつはいったい、、)
ふたたび内心つっこむ。

「だけど、アデュラリアさまはわたしの兄が好きだったんだ。
薔薇の花のような笑顔で、彼女が笑うと春が早く訪れるんだ。
草木も芽吹き、花が咲く。生き物たちは動きだし、愛の歌をうたいだす、、」

ジュードは遠い月日を思って目を細めた。

「その、お前の兄はどうなったんだ?」
バードは大事なことを聞いたような気がした。
これは大事なことだ。

「兄はアデュラリア女王の第一の騎士だった。それが二年前、氷河で滑落して死んだんだ。
それ以来デンドロンには春がこない。
女王から笑顔が消えた。アイスブルーの瞳は、すべてを凍てつかせる、、わたしの想いは届くことはない、、」
ジュードは少し厳しい顔をする。

「それに、砂漠の大陸と違ってこの地は、同性のカップルに厳しいんだ。
バードから伝えて。あんまりくっつかないように。デンドロンの冬は厳しくて春の季節は短いから、命を繋ぐことに寄り道はしないんだ」

「俺にどっちにどう告げよというんだよ!」
とうとう、バードは突っ込みをいれた。

(リリー!男装を女装に変えた方が良いみたいだ)

バードはリリーに念話しようとした。
風が動かない。

バードは耳の中の音を感じる部分に風を送って震わせて、言葉を伝えていた。
その念話ができなくなっていることに、気がついた。

「違う常識、違う理、違う神、、、これは厄介かも」
バードは気を引き締める。

風の精霊の力をバードは封じられてしまった。
リリーを守るのに、頼りになるのは己の生身の力のみ。

バラーは一人感傷モードにひたり、各地の風土や伝承を集めるのが趣味な吟遊詩人のノアールはリヒターに話を聞いている。
彼だけが元気だ。


彼らの前に、青く輝く氷河が現れた。
その下には雪を被る白い街が広がる。
その数100万人。バラモンの大きな領国ぐらいの規模、国としては小さいながら、厳しい環境を盾に古くから独立を保っている。


とうとう、凍てつく大地、冬の国デンドロン王国に彼らは着岸した。
ジュードとリヒターと出会ってから2週間は経っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...