プラの葬列

山田

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楊 飛龍

#2

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  予約の人数が漸く揃ったテーブルには、どこから話を進めようかという空気を帯びた沈黙が流れる。

  事の成り行きを探る俺はメニュー表の隣に置かれた呼び鈴を転がして鳴らすと、折り目正しくやって来たウェイトレスに3本指を立てて「ホットコーヒーを」と合図した。

「あっ……お姉さん、僕は浅煎りで頼むよ」

  眼鏡の奥を絞って笑うジャックがヒラヒラと手を振りながらそう伝えると、彼女は愛想良く「かしこまりました」と答える。

「コーヒーを飲むのに浅煎りだなんて、余韻が薄過ぎて飲んだ気にならねぇ」

  テーブルに片肘を突いて顎を支える俺は、少し鼻の下が伸びているようにも思える彼に悪態を吐くと、マークは「まぁまぁ」と止める気もない仲裁に入った。

「別に好みの問題だろ?僕は胃もたれするような苦さはご免なんだ」

  ベーッと子供のように舌を出して言い返すジャックは「何事も後に引くのは良くない」ともっともらしい事を舌に乗せては澄まし顔を取り繕う。

「相変わらずアランはジャックさんに懐いているようだね。見ていて微笑ましいよ」

  保護者ヅラでしみじみと俺を眺めるマークが寝言にも劣るような冗談を吐き、やれやれと呆れた俺はテーブルの下で彼の足を踏み付ける。

「いたたたたぁ……何もそんなに照れなくたっていいじゃないか」

  そう痛くない足を大袈裟に摩って笑うマークに便乗したジャックは「本当に手の掛かる子だ」と手を打ち鳴らして嬉しそうに弓形になった口元を押さえた。

「たく……っ、このメンバーが揃うと話が進まない。いい加減本題を言えよ」

  俺が痺れを切らして前髪を後ろへとなぞると、やっと戯れを納めた2人は小さく咳払いをして座り直すと、緩やかに背筋を伸ばす。

「お待たせ致しました。ホットコーヒーが3つ……こちらが浅煎りですね」

  テーブルの空気を知ってか知らずか、朗らかにコーヒーを置いたウェイトレスは手慣れた様子でソーサーごと並べてゆくと、「ごゆっくりどうぞ」とお辞儀をして踵を返した。

「まぁそう怒るなよ……。ターゲットに会えるイベントをちゃんと持ってきたんだからさ」

  湯気の立つコーヒーカップに角砂糖を2個落としたジャックは余裕綽々といった様子でカップを揺らすと、周りをぐるりと見渡してから声を潜める。

「楊は基本的に中国に滞在している。だから、コッチでアイツに会える機会なんてなかなかないだろう……実際、来月のイベントを逃したら次にいつ会えるか分かったもんじゃない」
「その『イベント』とは?」
「……江華貿易商主催、年に一度の大感謝祭──つまり、奴隷市だ」
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