プラの葬列

山田

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楊 飛龍

#2

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  俺の知っている頃とは比べものにならない弟の背中を眺めながら、騒めく森を進んでゆく。

「なぁ」

  無言で揺れる彼に話し掛けた俺の声が、密やかな木々の間にこだまする。

「なぁに?」

  腰から肩、首と順に捻って俺に振り返ったアリーシャの声は朗らかで、ご機嫌な様子で悠々と広角を持ち上げた。

「この森にはいつから住んでるんだ?」

  投げた言葉を飲み込むようにヒュー……ッと吹き抜けた風が2人を包み、木の葉に紛れてシルバーの髪が踊る。この時期にしては薄着の彼は擽ったい様子で2、3度息を吸うと、
口と鼻を覆って控えめなクシャミをした。

「大丈夫か?この時期にそんな服装じゃ風邪をひくぞ……ほら、コレ、貸してやるから」

  慌てて身に付けているトレンチコートを脱いでアリーシャに渡すと、まだ名残惜しそうに鼻を擦る彼が「ごめんなさい」と羽織ったままコートのボタンを握る。逃げ出した熱気のお陰で身軽になった俺は、大事そうにコートを握る天使を眺めながら、彼の答えを待った。

「……この森は元々、プラと一緒に遊んだ場所なんだ。体が弱くてなかなか遊びに行けない僕の為に、彼が見つけてくれた秘密基地」
「プラ?」
「そう、プラ──もう1人のダミーの名前だよ」

  静かな口調で囁くアリーシャの声は細く、今にも消えてしまいそうな灯火よりも頼りない。なぜ彼があんなにも真剣な眼差しで純潔な心を復讐に燃やしたのか──?その意味を全て推し量るのは無理だとしても、感覚的にその答えは俺の中でも眠っていると確信した。俺がアリーシャを想うように、アリーシャもまた、『プラ』という存在を想っていたのだろう。

「……大切にしてたんだな、ソイツの事」

  寂しそうに笑うアリーシャになんと声を掛けるべきか悩む俺は、腫れ物に触るように怖々と言葉を並べる。

「うん……ママも僕のように可愛がっていたから……」

  瞼を伏せて呟いた彼の声は、寒さで張り詰めた空気に溶け入るように消えてゆく。天使の口からその全てを聞き出さなくても理解した結末は、『プラ』の存在を知らなかった俺の感情をひどく揺らす。

「なんだか……暗い話になっちゃったね」

  演劇の台詞回しみたいに無理矢理明るく声を取り繕ったアリーシャは、徐に足を止める。それに釣られて俺も立ち止まると、目の前にはこじんまりと身を潜めて建つログハウスが俺達を出迎えた。

「ほら着いたよ……お兄ちゃん、僕のお家へようこそ」
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