ヴィレゲーム

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シャイツェゲーム

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「オケ、右の射線任せた。奥やる」
 木で体を隠している相手に照準を向け、エインに指示を送る。そうこう言っている間にエインは右の敵にグレネードを投げ込むと同時に、ツバイは木の奥にいるパンイチ男に対し射線を切りながら距離を詰める。
「お、右ダウン入ったわ。蘇生前にカバー行くね。」
「あー、いや、奥ほぼ死にかけだから俺だけでいける。蘇生阻止の方がいいかも」
 意見に意見を重ね、最適解を、勝利を掴んでいく。
「よし、ラストそっちだけ。」 
 その言葉を発する前には「victory」の文字が画面に表記される。
「おしgg」
「えぃー」
 98人を叩きのめした上で、それがさも当たり前かのように、物を空中で離すとそれが落ちるのを見ているだけのような目をした2人。
「何時までやれる?盛れるだけランク盛っときたいんやけど」
「エインは?俺明日昼からだから5、6時くらいまでなら」
「了解、俺もそんなもん」
 現時刻、5月17日の25時。
「んまぁ次行くか」
 次ゲームのマッチング中の会話はそれ以降続かない。ただただゲームが始まるまでの時間を、何も考えずに待つ。
「最近ロード長くね?3分かかったぞ」
「まぁ時間帯が時間帯やし。てか降りるとこ固定地でいいよな?」
「うん」
 大きな空を飛ぶ船から飛び降りる2人。タイミング差は1秒もない。その行動が2人の戦績を物語っている。
「2パかな?俺こっちから入るわ。」
 そう言い、建物の扉にピンを刺す。
「んー、俺も合わせるわ。」 
 2人が地に足をつけたタイミングはほぼ同時。エインが操作するキャラクターは扉を開け、ハンドガンを拾う。ツバイはライフルとスコープを拾い、
「隣の家多分孤立してるから見方寄る前に倒し行こ」
 エインは無言の同意をし駆けていく。2階からの足音。相手もこちらに気づきたのか銃を構える音を鳴らす。だが、エインの射撃は、敵が武器を構える前に始まっていた。
「ダウン入れた。カバー来そう?」
「おん。アーマー割ったから引く前に行きたい」
 そう言い、ツバイはお得意のライフルで敵を貫く。しかし、敵はそれだけでは倒れない。すぐさまスキルを発動し、ダイナシルツ(弾を防ぐ壁)を作り出す。
「スキル吐いた。別チ(別のチーム)来るかな?」 
 ツバイの予想は的中し、明後日の方向からスキルを発動したばかりのキャラクターに集中砲火が始まる。蜂の巣と言えばわかりやすいだろう。
「キル取られたわ。とりま引いく」
 ツバイの発言により、エインは相方側に寄る。これにより2v2の状況が作り出された。しかし、数的にも物資的にもほぼ同じ条件なことに対し、フィールドを考えると敵チームが圧倒的に有利と言えるだろう。敵チームは屋根の上から銃口をこちらに向ける。
「スキル吐くね」
そう言い、ダイナシルツを発動する。
「うい。とりま建物入るか」
 そう言い、2人で建物に入る。そうすることにより、強制的に敵チームはこちらに来なければならなくなり、フィールド差は無くなったと言えるだろう。しかし、
「あ~グレきた。」
 2人は避けられるわけもなかったが、ダメージを最小限に抑えた。それと同時に敵チームが乗り込んでくる。しかしタイミングを既に予想していた2人は奇襲に奇襲を仕掛ける。扉が開いた瞬間、階段前にいたツバイがライフルを撃ち二階へ駆け込む。敵2人はツバイを追いかけるが故に、扉の横にいたエインに気づかない。アインは背後から1人の頭を貫く。それに驚いたもう1人はすぐさま後ろを向くが、それを予想し、2階に上がったふりをしていたツバイの攻撃を防ぐことはできず、なす術なく敗北した。
「ナイス~。てかお前これほんと好きだよな笑」
「んなことより安置(安全地帯。バトルロワイヤルゲームでは時間が経つにつれストームと呼ばれる現象が発生し、マップの収縮が始まる。)いこーぜ。」
「あーい」
 残り52人。2人を除けば50人のプレイヤー。身を隠す者、戦闘を有利に進めるためにアイテムを漁る者、市街地にて戦闘を続ける者。さまざまな思惑を持ったプレイヤー達によりゲームは成立している。彼らは沢山の時間をかけてここまできたのだろう。だがそれ故に、彼らは「バトルロワイヤル」というものに対し、「運」が絡んでいると考えているのだろう。だから彼らはchallengerの域を出ることができない。だから彼らは永遠にplayerになることができない。だから彼らは俺たちに勝てない。そうこうしている間に、残りは4人。2v2、俺たちは崖上にいてあいつらは下にいる。フィールド差が大きすぎるが故に、奴らに勝ち目はゼロと言っても過言ではないだろう。
「右のやつ同時撃ちな」
「ん」
「せーの!!」
 合図と同時に集中砲火をする。しかし弾が当たらない。
「は?!なんだよあのキャラコン」
 そう言ってるうちに、もう1人の仲間のスナイパーによりツバイの頭が貫かれる。
 状況は最悪。1対2になった上に片方は化け物。選択肢は2つ。
 ・スキルを使い味方を蘇生する。
 ・このまま高低差を活かして撃ち合いを続ける。
「だからお前達は勝てない」
 ?!
「おい、どうした?!」
「え?おま、今声がしなかったか?」
 いや、絶対にした。聞いたこともないような男の声が。
「何言ってんだよ!早くしねえと登ってきちまうぞ!」
 そう言った時にはもう遅かった。相手は俺と同じ高さに登ったと同時にスキルを発動し、高速でスケート場を入るように移動し、射線を通したと同時に一瞬で照準を合わせ、頭を撃ち抜く。



 そこはゴミが散乱し、電気もついていない部屋。そんな暗闇の中、2つのモニターだけが輝いていた。
「ふぅーんーー。開幕ランクでもこんなもんか。」
 伸びをしながら批評する男。
「もしかしてもう飽きたの?まだ1週間しか経ってないのに。」
 男の批評に対し批評をする少女。
「いつ俺が飽きたと言った?このゲームは自由度が高い上にスキル構成により幅広い戦術を使うことができる。まさに神ゲーだろ?笑」
 男はゲームの評価を淡々と語っていく。少女はジト目で男を見つめるが、それに反論するかのように
「それより六花、明日中学の入学式だろ?」
六花は令から目を逸らす。いや、令からというより、「現実から」と言った方がいいだろうか。
「そ、そんなことより私お腹すいたなー。」
時刻は26時。
「おー、カロリーメイトならあるぞ!」
笑顔で六花にカロリーメイトを差し出す。
「あ、やっぱお腹減ってなかったかも」
露骨にカロリーメイトを食べたくないという意志を見せる六花。それを見かねた令は、
「しゃあねぇなぁ、コンビニでもいくか。」
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