瀬戸内の勝負師

ハリマオ65

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8話:岡山の漁の1年Ⅱ

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「その後、夏、6月から9月、穴子『梅雨の水を飲んで大きくなる』と言われる」
「梅雨明けまじかになると、浜に揚がってくるアナゴの量が一年で最も多くなり、最もおいしい季節を迎える」
「同じ時期、ウナギもハモも旬を迎え、魚屋さんの店先によく似た『ニョロニョロ体型』の三人衆が並ぶ」

 姿はよく似ていても、それぞれの味や味わい方は彼らの特徴をよく生かした工夫がされている。昔からのその地方の人々のこだわりと自慢があふれる魚たち。アナゴは、ハモやウナギと同じように、日本から遠く離れた南の海の深海まで遠い旅をして産卵する。

 生まれた稚魚は春先に独特の透明な柳の葉っぱのような体で群れになって瀬戸内に帰って来て、イカナゴやイワシのシラス漁で沢山獲られてしまう。
「岡山では春の風物詩として、その稚魚を『べらた』と呼んで生で酢味噌をかけて食べる」

 初夏から真夏にかけて、アナゴの水揚げが増える。
「それとともに浜の直売所や街の魚屋さんの店先で開きながら炭火で『焼きアナゴ』を焼き始める」
「タレを焦がしながら焼くその香りは、昔も今も変わらず懐かしく、最高」

「岡山のアナゴは肉厚だけど、味わいはあっさりと言われる」
「その他、同じ時期、岡山全域で漁獲されるスズキ」
「一年を通して水揚げのある身近な魚だが、夏の風物詩としての実力は一流」

 地元では、夏バネ「スズキ」の洗いの販売促進に力を入れる。
「スズキのそぎ切りにした切り身を桶の氷水にしっかりさらす」
「すると、芯まで冷えが回ると身はちぢみ、肌は白く霜降りとなってまるですりガラスの細工物のよう」

「薄口しょうゆに青唐辛子の辛いやつをほんの少し入れ、身の端をちょっと浸して口に運ぶ」
「ヒヤッと冷たさの後に浅い旨みとほのかな甘み」
「さらっとした舌触りと生きた身の弾力が良くかじかんだ切れの良いかみごたえ」

「活きたスズキを板場でしめて、ぶりぶりする身を即座に切り下したものでなければ絶対にできない技」
「岡山で『かつお』といえば、『まながつお』、岡山が誇る高級魚、なんと言っても刺身が最高」
「岡山の真夏の御造りになくてはならない存在」
 
 6月、ふぐが去り、さわらが通り過ぎ、真いかも落ちてしまった頃、
「流瀬のかつお『まながつお』がやってくる」
梅雨の嫌な季節が始まる頃、漁師たちはさわらの網を「かつお」網に積み替え「流瀬のかつお」漁の準備にかかる。

 漁期はこれから、真夏の盛り、ぎらぎら照り付ける陽を浴びて全長800メートルもある刺し網を「かつお」の通り道に入れて行く。しばらく潮の流れに任せて、網と一緒に流れ、頃合いをみながら揚げ始める。そのうち、揚がる網からキラキラと「かつお」のまばゆい光が見えてくる。

 「かつお」の鱗「うろこ」はとても剥がれやすい。岡山の真夏の御造りになくてはならない存在だ。鮮度落ちがとても早いので、岡山の地元ならではの一品。その身はくせがなくとても滑らかな食感。

 脂肪も少なくあっさりとした味。刺身に加えて、照り焼き、味噌漬け、あらの煮付けなどどれも絶品。マナガツオの骨フライ、照り焼き、マナガツオの軟骨ときゅうりの酢のものマナガツオのあぶりなど絶品である。その後、秋、9月になると、ままかり「さっぱ」、さっぱり漬けた酢漬けは、あまりのおいしさに食べる手が止まらない。

 ままかりの名前の由来は、
「あまりおいしいので隣にご飯「まんま」を借りに行ってしまうと言う、話がとっても説得力がある」
 岡山名物「ママカリの酢漬け」は、その名前の由来をキャッチフレーズとして、お土産として駅や観光地のお土産店で売られてきた。

 その他、秋には、よしえび「おおぞうえび」このエビは、立派な20㎝ほどの大きさに成長する。沿岸域で獲れる15センチ以上のものは「おおぞうえび」と呼んでいる。岡山の分限者「お金持ち」のステータスは、名物「祭り寿司」のネタにどれだけ立派な、このえびをどれだけ多く使うかで決まる。

 秋の祭りに欠かせない祭り寿司。その家の「祭り寿司」の豪華さを決めるのがよしえび。あそこはさすがに分限者じゃ。すしのおおぞう「よしえび」の立派な事などと地元では言われる。そのため豪華な「祭り寿司」を地元では、「分限者『お金持ち』寿司」とも呼ぶようだ。
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