薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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君のいない冬は

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 カランカラン

「いらっしゃいませ。」

「こんばんは。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は薔薇紳士の幼馴染、鬼灯シアンです。

「シアン、仕事終わりですか?お疲れ様です。ですがここはバーではないのでお酒は提供していませんよ。本来夜もお店は閉めますし。」

「それでも開けててくれるのネ、ありがと~。でも人を酒豪みたいに言わないで、今日は紅茶を飲みに来たノよ。」

「お客様の仰せのままに。」

薔薇紳士は幼馴染しかいないこのお店で、少し砕けた口調で話します。普段紳士な薔薇紳士とは少し印象の異なるような、少しふざけて楽しそうに話しています。

「にしてもここ本当にいい場所ね~。落ち着くというか?...クシュン!」

「おや?風邪ですか?最近冷えてきましたからね。気をつけて下さいね。はいこちら紅茶です。温まってください。」

「あら~随分優しい。心配してくれてるの~?でもそうね、最近ホント寒くてそろそろ冬だなって感じるワ。」

「そう言えばシアンは毎年冬は日本にいないですよね。今年も日本では過ごさないんですか?」

シアンはプロの音楽家でいつもコンクールや演奏会などで外国を飛び回っています。特に冬はクリスマスや年明けのコンサートで、プロになってからは日本で冬を越すことは無くなっていました。

「そうね~今年もコンサートあるシ...。なぁに?ワタシがいなくて寂しい~?」

「そうですね。シアンのいない冬はシアンがいる夏よりも随分と寒く感じますよ。」

「ヤダ!そんな熱烈な...って、冬が夏より寒いのは当たり前デショ、ワタシ関係ないじゃない。もう...クシュン!」

「おや、本当に体冷えているようですね。ほら、もうからかいませんから紅茶飲んで温まってください。」

「やっぱりからかってたのネ...。」

シアンは訝しげに薔薇紳士を見ますが、すぐにパッと笑顔になり「美味しい♡」と紅茶を飲み始めました。一方薔薇紳士は「確かに夏より冬は寒いですが、シアンのいる冬の方が暖かいと思います」という本音を言うか迷いつつ、結局黙ってシアンが紅茶を飲みきるのを待っていました。もちろん落ち着いた笑顔で。

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