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再会すれば
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は若い女性。長い髪を丁寧に結い、落ち着いたワンピースを着ているもののどこか雰囲気が暗く、せっかくの明るい色のワンピースが勿体ない印象です。
「いらっしゃいませ、お姉さん。こちらの席へどうぞ。」
「お、お姉さんって...照れますね。ありがとうございます。」
女性はいちごの朗らかな距離の詰め方に少し驚いたものの、お礼を言ってからいちごに案内されるままにカウンター席に座ります。
「お姉さん名前はなんて言うんですか?」
「え?えっと、松下幸と言います。」
「幸!いい名前ですね。このお店紅茶がとても美味しいんですよ、いかがですか?」
「あ、じゃあそれを...。」
「かしこまりました。では幸さん、少々お待ち下さい。」
いちごはそう言うと薔薇紳士に注文を伝え、伝え終わるとまたすぐに幸の元に戻ってきました。幸はカウンター席ではぁっとため息をつきながらボーっと机を眺めていました。
「幸さん、せっかくいい名前なのにため息ついちゃうと幸せ逃げちゃいますよ。」
「あっ、すみません...。」
「何か悩みとかあるなら、話してみてはどうでしょう。私では力不足かもしれませんが、人に話すと楽になるかもしれませんよ。」
紅茶を淹れながら薔薇紳士が優しく声を掛けます。その声色はとても優しく決して強要するものではありませんでしたが、不思議と幸は話し始めていました。
「その...私、高校の時親友がいたんです。とても仲が良くて何をするにもいつも一緒。でも大学に入って離れ離れになると連絡先はあっても連絡することもなくなって何だかんだ疎遠に...。去年大学も卒業して今年から社会人として働き始めたんですけど、仕事もしんどくて。会いたいな、って。」
「どんなに仲が良くても、別々の道に進んで会わなくなると疎遠になっちゃうって悲しいですね...。その、親友さんは今どこにいるんですか?」
「さあ...別の土地に行ったのかもしれないし、今もここにいるのかもしれない。それすら知らないんです...私、こんなことも知らないなんて、本当に親友だと思ってたのかなって自分自身も嫌になる...!またどこかで会えたらいいなってずっと思ってるのに...。」
幸はそう言うと沈んだ気分のまま、顔も俯いてしまいました。いちごは元気づけようと、となりで背中をさすっています。そんな中、気分が上を向くようなふわっといい香りが漂いました。
「松下様、こちら淹れたての紅茶です。落ち着きますよ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます...。」
薔薇紳士は淹れたての紅茶をコトリと幸の前に置きました。その香りは俯いた幸をほんの少しだけ上を向かせました。こくりと一口飲んだ幸は「おいしい...」と声を上げます。
「松下様、僭越ながら一言よろしいですか?」
「あ、はい...。」
「松下様、再会すればきっともう一度親友に会えます。ですがそれは”いつか”の偶然に任せるのですか?自分の中で気持ちの整理がつき覚悟の出来た”いつか”まで待つのですか?もちろんそれも良い思います。ですが、私はその”いつか”は会いたいと思った”今”だと思います。あなたが再会を願うのならば必要なのは運でも覚悟でもない、貴方の携帯に残った連絡先に連絡し、一言『会いたい』と告げる勇気だと私は思います。」
幸は薔薇紳士の言葉を聞いてもまだ表情は俯いています。
「でも、もう何年も連絡してないのに急に連絡して、うざって思われたら...幸せに生活してるなら邪魔しちゃったり...。」
「そんなことない!」
大きな声を上げ、下を向いていた幸の顔を上げさせたのはいちごでした。いちごの叫び声にも似た大きな声に、幸は思わずいちごの顔を見つめます。
「親友なんですよね!?今も幸せを願ってるくらい大切な相手なんですよね!?じゃあそれはきっと相手も同じです!親友の貴方を突き放したりなんてしない!怖いなら自分が隣にいますから、ほんのちょっと勇気を出すだけでいいんです!親友に、会いたいんですよね!?」
「...会いたい。会いたいです...!」
幸はそう言うと、声を上げて泣き出しました。それはきっと仕事を頑張っている間溜まっていた何か、親友に会えなかった悲しみ、会いたいと思っても行動に起こせなかったやるせなさ、色々な思いの詰まった涙でしょう。薔薇紳士もいちごも、ただ黙って幸の泣き声を聞いていました。
その後、幸は勇気を出し親友に連絡を取ると、親友は今遠い土地にいてすぐには会えないとのこと。でも必ずいつか会おうと約束をしたそうです。2人の”いつか”は、偶然に任せるものでもいつ来るか分からないものでもない、違えることのない約束の”いつか”になったのでした。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は若い女性。長い髪を丁寧に結い、落ち着いたワンピースを着ているもののどこか雰囲気が暗く、せっかくの明るい色のワンピースが勿体ない印象です。
「いらっしゃいませ、お姉さん。こちらの席へどうぞ。」
「お、お姉さんって...照れますね。ありがとうございます。」
女性はいちごの朗らかな距離の詰め方に少し驚いたものの、お礼を言ってからいちごに案内されるままにカウンター席に座ります。
「お姉さん名前はなんて言うんですか?」
「え?えっと、松下幸と言います。」
「幸!いい名前ですね。このお店紅茶がとても美味しいんですよ、いかがですか?」
「あ、じゃあそれを...。」
「かしこまりました。では幸さん、少々お待ち下さい。」
いちごはそう言うと薔薇紳士に注文を伝え、伝え終わるとまたすぐに幸の元に戻ってきました。幸はカウンター席ではぁっとため息をつきながらボーっと机を眺めていました。
「幸さん、せっかくいい名前なのにため息ついちゃうと幸せ逃げちゃいますよ。」
「あっ、すみません...。」
「何か悩みとかあるなら、話してみてはどうでしょう。私では力不足かもしれませんが、人に話すと楽になるかもしれませんよ。」
紅茶を淹れながら薔薇紳士が優しく声を掛けます。その声色はとても優しく決して強要するものではありませんでしたが、不思議と幸は話し始めていました。
「その...私、高校の時親友がいたんです。とても仲が良くて何をするにもいつも一緒。でも大学に入って離れ離れになると連絡先はあっても連絡することもなくなって何だかんだ疎遠に...。去年大学も卒業して今年から社会人として働き始めたんですけど、仕事もしんどくて。会いたいな、って。」
「どんなに仲が良くても、別々の道に進んで会わなくなると疎遠になっちゃうって悲しいですね...。その、親友さんは今どこにいるんですか?」
「さあ...別の土地に行ったのかもしれないし、今もここにいるのかもしれない。それすら知らないんです...私、こんなことも知らないなんて、本当に親友だと思ってたのかなって自分自身も嫌になる...!またどこかで会えたらいいなってずっと思ってるのに...。」
幸はそう言うと沈んだ気分のまま、顔も俯いてしまいました。いちごは元気づけようと、となりで背中をさすっています。そんな中、気分が上を向くようなふわっといい香りが漂いました。
「松下様、こちら淹れたての紅茶です。落ち着きますよ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます...。」
薔薇紳士は淹れたての紅茶をコトリと幸の前に置きました。その香りは俯いた幸をほんの少しだけ上を向かせました。こくりと一口飲んだ幸は「おいしい...」と声を上げます。
「松下様、僭越ながら一言よろしいですか?」
「あ、はい...。」
「松下様、再会すればきっともう一度親友に会えます。ですがそれは”いつか”の偶然に任せるのですか?自分の中で気持ちの整理がつき覚悟の出来た”いつか”まで待つのですか?もちろんそれも良い思います。ですが、私はその”いつか”は会いたいと思った”今”だと思います。あなたが再会を願うのならば必要なのは運でも覚悟でもない、貴方の携帯に残った連絡先に連絡し、一言『会いたい』と告げる勇気だと私は思います。」
幸は薔薇紳士の言葉を聞いてもまだ表情は俯いています。
「でも、もう何年も連絡してないのに急に連絡して、うざって思われたら...幸せに生活してるなら邪魔しちゃったり...。」
「そんなことない!」
大きな声を上げ、下を向いていた幸の顔を上げさせたのはいちごでした。いちごの叫び声にも似た大きな声に、幸は思わずいちごの顔を見つめます。
「親友なんですよね!?今も幸せを願ってるくらい大切な相手なんですよね!?じゃあそれはきっと相手も同じです!親友の貴方を突き放したりなんてしない!怖いなら自分が隣にいますから、ほんのちょっと勇気を出すだけでいいんです!親友に、会いたいんですよね!?」
「...会いたい。会いたいです...!」
幸はそう言うと、声を上げて泣き出しました。それはきっと仕事を頑張っている間溜まっていた何か、親友に会えなかった悲しみ、会いたいと思っても行動に起こせなかったやるせなさ、色々な思いの詰まった涙でしょう。薔薇紳士もいちごも、ただ黙って幸の泣き声を聞いていました。
その後、幸は勇気を出し親友に連絡を取ると、親友は今遠い土地にいてすぐには会えないとのこと。でも必ずいつか会おうと約束をしたそうです。2人の”いつか”は、偶然に任せるものでもいつ来るか分からないものでもない、違えることのない約束の”いつか”になったのでした。
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