犬と猫が握手する

駿心

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32話 急展開

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◇◇◇◇

桜光祭も終わり、反省会も終わって、その帰りにシヅと二人で電車に乗っていた。


「そんなのわかってたよ」


シヅは笑顔で答えた。

だから戸惑った。


「え…?……えぇ!?」

「菜月ちゃんはマー君が好きなんでしょ?知ってたよ」

「なんで!?なんで知ってるの!?私、まだ誰にも言ってないんだけど!?なんでシヅは知ってるの!?」

「んー…だって端から見ても菜月ちゃんマー君のこと意識しすぎだったし…」


そんなに露骨だった?

恥ずかしくて言葉が出ない。


「それになんだかんだマー君を一番信頼してるって感じだったし!!」

「…それは、」


…そうかもしれない。


「もしかしてタマも気付いてるかな?」

「う~ん……マー君って、すごく鋭いかすごく鈍いかの両極端だからな……微妙なところ?」


まぁ、確かに……と一人で納得していると、シヅはニヤニヤ笑って、こっちを見ている。


「…で、どう?」

「ど…どう、って…。何が?」

「好きになった感想は?」

「…えぇっ!?」

「なんで好きって思ったの?マー君のどこが好き?」


シヅはとっても楽しそうだ。

私は戸惑うばかりだ。


「ど…どこが好きって…言われても…」

「どんなシチュエーションで『好き!!』って思ったの!?ドキッとしたの!?」


シヅの質問攻めに顎を引いてしまう。

こ…これが恋ばなって奴ですか?


「わからないけど…」

「けど?」

「タマの手とか…わりと好き…かな」

「手って…菜月ちゃん、いやらしい~!!」

「やらしい!?」


シヅは変わらずニヤニヤと笑っているが、こっちはなんて反応したらいいかわからない。


「や…やらしいって…、シヅなんかキ、キ…キス…してたじゃない、タマと」

「それはそれ、これはこれ!!」


…えぇっ!?


シヅはタマとキスしたなんて忘れたみたいなテンションで言ってますけど!?

私はちょっとしたモヤモヤした気持ちになったのに…。

でも、シヅとこうして自分の気持ちを話し合えることは嬉しい。

桜光祭の前と後では違いがあって、心の距離が近づいた…そんな感じがする。


「じゃあ、また明日ね!!」


先に下車した私にシヅは窓越しに手を振ってくれた。


改札を抜け、駅に置いていた自転車を駐輪場に出した時、スマホが震えた。

ポケットから出して、開くとタマだった。

――――

タマ

おつかれさま

――――


寒くもないのに、体が震えた。

それとも痺れた?

力が抜けそうになった。


胸からお腹にかけて、キューッとなった。


もしかして、これが『キュン』ってやつ?

絵文字もない素っ気ないメッセージなのに、頬が赤くなりそうだった。


恋は盲目


この言葉を思い付いた人って、ホントすごいと思う。

返事……返さなきゃ。

あ……

でもすぐ返したら、返事する気満々みたいで引かれるかな。

いや……

いつも気にせず、すぐに返事してるから、間を空けたら逆に変かな。

と、とりあえず返信の文を作ろう。


――――

お疲れ様!!
今日はいろいろありがとう

――――


……私も大概そっけない。

しかもこれを送ってもメール続かないよね。

質問系で終わった方がいい?


……


家に帰ってから返信しよう。

スマホをポケットに入れて、自転車をこいだ。


夜空が綺麗で夜風が心地よい。



◇◇◇◇


桜光祭から一週間経った土曜日。

ジチシコメンバーで打ち上げすることになった。


「うぉーい!!今日は存分に羽目を外して良し!!」


待ち合わせの時点でいつも以上に高いテンションのかじやん先輩がいた。

駅前でゾロゾロと集まって、みんなで移動した。

ファミレスだけど…

その時、声をかけられた。


「こないだのあれは何なの?」


私の隣を歩いていたタマが思い出したようにそう聞いてきた。


「……え?」

「こないだのメッセージ」

「こないだ?」

「なんで俺の好物とか聞いたの?」


タマがジッと目を見てきた。


「…ぅえへっ!?」


声が完全に裏返った。

確かにメールで聞いた。

メールをどうにか続けたくて、何か質問しようと思ったら、お見合いみたいな質問しか思い付かなかった。

確かにいきなりで不自然かなって心配したけど、タマも『エビフライ以外』って普通に返信してくれた。

確かにタマに脂っこいものダメそう……なんて思った。

だからそれでよかったんだって思ってたら、今聞かれるの!?

今のタイミング!?

時間をおいて改めて聞かれても困る!!

しかも、こんな皆がいる前で!


「な……なんとなくよ」

「ふーん?」


この時ばかりはタマの無関心さに感謝した。

タマに興味あるんだって言えるわけないじゃん!!

そしてファミレスに着いて、皆でメニューを選んだ。


「さ……今回は桜光祭の打ち上げってわけで集まってるんだけど」


まだご飯が来てないけど、志方先輩が喋り出した。


「一応、後期のこれからのことも話していってもいい?」


志方先輩の発言に周りの先輩も異論なしと頷いた。


「……後期?」


私が首を傾げて聞くと、志方先輩が説明してくれた。


「一応、体育祭と桜光祭が前期でそのあとの活動が後期になるんだ」


ウッチャンも首を傾げた。


「後期の活動って何するんすか?」


ニヤリと笑ったカジヤン先輩がまだ使っていないフォークを持って、ウッチャンの方を指した。


「よーく聞いとけよ!!ズバリ……」


一年生の4人はジッと言葉を待った。


「ない!!」


……

ん?

私と同じことを思ったのか、シヅが眉間に皺を寄せて聞き返した。


「なんて言いました?」

「うん!!ない!!」


それでもカジヤン先輩は笑顔のまま、同じことを言った。


ない!?


ポカンとする一年生の私達に、前島先輩がコホンと軽い咳払いをした。


「ないってことないだろ。ちゃんと卒業式っていう大事な行事がある」

「でもそん時には3年はジチシコじゃねぇじゃんか!!」


千世先輩達、三年生は笑い合いながら「もう卒業か~」と言った。

千世先輩と萌恵先輩と……あともう一人知らない男の先輩がいた。

……前期が終わったのに、気づかなかった。

あの人もジチシコ!?

あんな人いた!?

もうジチシコに入って結構経つが、知らない人がまだいたとは……

でも前島先輩と顔を合わせたのも最近だし。

ジチシコメンバーってそんな感じだ。

地味シコと呼ばれる由縁を感じた。


「それで何するんすか?」


タマのブレのない質問に私も頷いた。

志方先輩がハハッと軽く笑った。


「うん、卒業式までは特にやらないといけないことはない。何もやらなくてもいい。ただ、やる気があるなら後期の間に色々できるよ」

「色々ってなんですか?」


私の疑問に前島先輩が続きを言ってくれた。


「例えば食堂のメニューを変えたいとか、掃除のやり方を改善するとか……自治会員の意見も集めながら、より学校をより良くしていくんだよ」


喋っているのがまともそうに聞こえるのは喋ったのが前島先輩だったからか、すっごくまともなお仕事をやっと聞けた気がする。

やっぱ生徒会っぽいこともするんだ。

ウッチャンが笑顔になった。


「いいっすね!!なんかやりたい!!」


私も頷いた。

学校のために、みんなのために、何かを変えたり、新しいことをしたりしたい。

ジチシコになったんだから、そういうのってやっぱり一度はやってみたい!!

ただ、シヅは「えー…」と笑顔で嫌がり、タマは無言で眉を寄せて嫌がった。

そのタイミングで頼んだメニューがきた。


「まぁ、それも込みで色々とやりたいことをこれからの活動として話していきたいと思います」


志方の言葉に場が収まった感じがした。


「それでは今日のメインは桜光祭の打ち上げということで……」


皆が各自ジュースのグラスを持った。


「お疲れ様でした!!」

「「お疲れ様でしたぁー!!」」


グラスを打ち付け合いながら、みんな笑顔で乾杯をした。

少数クラブとはいえ、これだけ揃えば皆で喋るということはなく、前隣と喋る感じで各自好きに過ごす。


「やりたいことなー…何がいいやろ?」


ウッチャンはハンバーグを口にしながら後期のことを言った。


「食堂のメニュー変更って面白そうだよね」

「せやな、校内でアンケートとったりして…」

「いいね!!」


ウッチャンと二人で話に盛り上がる。

シヅはなんとなく頷いていて、タマは興味なさそうにジュースを飲む。

私はすかさずタマの肩を叩いた。


「ちょっと!!少しは話に参加しなさいよ!!あんたもジチシコでしょ?」


タマはちょっと迷惑そうに私を睨んだあと、無視するかのようにジュースを飲む。

胸がチクッ……

今までと同じ反応なのに、私の気持ちが変わるだけで受け取り方がだいぶ変わってしまった。


「菜月ちゃんのしたいことって何?」


シヅがすかさず聞いてきた。

シヅはちょっとだけ傷付いた私のわずかな表情の変化に気付いたみたいで、フォローしてくれたんだ。

さすがシヅ。


「私も……食堂メニュー……かな」


なんとか平静を装った。


「タマは……ないの?」


そしてもう一度タマに声をかけてみた。

次も無視されたら……マジで凹むかも。

でも勇気を出して、声にしちゃったから、タマの返事を待つしかなかった。


「……新しい体育祭種目作るとか?」


タマの声がして、なんかホッとした。

タマのひとつひとつに一喜一憂って……私ってわりと単純かも。


「体育祭?なんや、タマ!!やってみたいことあんのか?」

「……」


タマはジュースを黙って飲んだ。

こいつに協調性ってのはないのか?


◇◇◇◇


「じゃあ後期もよろしくお願いしまぁす。今日はこのへんで」


ファミレスを出て、志方先輩の言葉で打ち上げは終わった。

みんなぞろぞろと駅の改札へなんとなく向かう。


「じゃあお疲れ様です」


しかしタマ一人が集団からヒラリと抜けた。

カジヤン先輩が首を捻った。


「え?お前、電車じゃねぇの?」

「はい、チャリで来たんで。じゃあ」


タマは何の余韻を残すことなく、サラリと消えていった。

ウッチャンがタマが去った方向を眺めながら、ボソッと喋った。


「……アイツん家、この近くだっけ?」

「いや……確か桜田高校の近くって言ってたから、ここから自転車だと少し遠いんじゃない?」


シヅも不思議そうに言った。

でもタマっていつも自転車に乗ってるイメージ。

遠くても私の家にも自転車で来てたし……

……あ。


『……俺、電車ムリ。電車嫌い』


そういえば、前にそんなこと言ってたっけ?

なんでなんだろ?

シヅもウッチャンも知らないっぽいし。


◇◇◇◇


打ち上げを終えた次の次の日、月曜日。


学校の授業中なのに、志方先輩から『さっそく緊急会議』と言って、昼休みに集まるようにというメールをもらった。


私達一年生はお弁当を持ってジチシコ室に入ったが、まだ誰もいなかった。


「なんやねん、先輩達がメールしてきたのにまだなん?」


ウッチャンはパイプ椅子に座りながら、お弁当を広げだした。

先輩達を待たずに先に食べちゃう気?

まぁ、いいや。

シヅもタマも同じことを感じたのか、それぞれ椅子を持ってきてお弁当を食べ始めた。

お箸を持つタマの手になんだかドキッとする。

むー……私もマニアックの仲間入りかもしれない。

鋭いシヅに私の心境を気付かれる前に、手から視線を外した。

そこでふと、タマがこっちを見ていたことに私は気付いた。

えっ!?何?

脈が上がった。


「なんだよ、ジロジロ見て」


えぇっ!?それはタマのセリフなの!?

いや、確かに見てましたが……。

まごついた私はフォークを握りしめて、白々しく宙を見た。


「み…見てないって。早くご飯食べれば?なんで私がタマのことを見るのよ」

「……まぁ、そうなんだけど」


珍しく私に言いくるめられたタマはそのままお弁当をもくもくと食べていく。

話が終わって、ホッとする。

だけど他の視線にも気付いた。

シヅがニヤニヤした顔で私を見ていた。

シヅどころか、何故かウッチャンを同じ顔で見ていた。

な……なんで!?

なんで二人がニヤニヤするのっ!?

さすがのタマも二人に気付いたみたいで、眉を寄せた。


「……何?」

「いやいや、別に何も。なーシヅ?」

「ねー、ウッチャン♪」


ウッチャンとシヅがニヤけながら、お互いに相づちを打つ。

そのニヤけは私に対する冷やかしだって、ある程度察することができるから……


うあぁ…

何か嫌な感じだ。

恥ずかしい。

俯いてオカズを口に運んでいたら、扉がバンッと壊しそうな勢いで開いた。

そこには志方先輩、カジヤン先輩、前島先輩が揃っていた。

ウッチャンがパイプ椅子の背もたれに肘を掛けて、振り向いた。


「あー、遅いじゃないっすか!!先輩達から呼び出しといて……」


ウッチャンの言葉を遮るように、志方先輩が口を開いた。


「ジチシコが廃部になるかもしれない」


……え?
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