異形たちの行く道は

ちあ

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妖の血

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夜姫芽が過去を話してくれた時からどれほど時間が経ったのか。それは、わからない。ずっと暗闇の中にいるからなのか、これが夢のようだからか、体内時計が狂ってきた。
それに、身体が少し重い気がする。なにこれ。
「……どうしたの、澄芭留」
夜姫芽は何ともない様子で振り返る。
「体がだるいというか、重いというか……」
「慣れてないのね、まだ闇に。そろそろ慣れないときついわよ」
慣れとかないときついものなのですが、これ?????
「いやそう言われましても……」
「常光姫の血筋なんだから、闇くらい払えないの?」
えぇ……そんな無茶な……。
「いや、能力発動してないから、そもそも私」
「……そーゆーもの?」
「そーゆーものです」
「ふぅん、まぁいいわ。じゃ、手伝ってあげる」
「はい?」
手伝ってあげる?なにを???
「怯えちゃだめだからね」
だから、なにに!?
「『姫を覆え、姫を守れ、光の者に祝福を』」
そう小さく唱えると、夜姫芽の周りから、いつもそばにある暗闇とはまた別の闇が現れた。それが何故周りの闇と違うと思ったのか、私に聞かないで欲しい。わからないから。
その夜姫芽の闇たちは、私の周りの闇を押し退け、私にまとわりついた。
驚きはしたけど、怯えるなと言われたから、そのままじっとしていた。
「ほら、完成。楽になったでしょ」
「……たしかに」
確かに、体の倦怠感というか、そーゆー感じの怠さや重さは無くなったけど、なんか、別の意味で気になるのですが。
「気にしない、気にしない。怠いのよりマシでしょ」
「まぁ、マシだけど……」
そーゆー考え方でいいのかなぁ?
「ほら、さっさと行くわよ。怠かったってことは、この先に何かまたあるわ」
「えぇ……なにがあるのよ……」
「こっちが聞きたいわよ」
まぁ、そうですけど、私よりさ、夜姫芽の方が場慣れ?しているというかさ、なんか、慣れてそうだし。わかるかなって思ったけど、さすがに無理か。
「無理に決まってるでしょ、なに言ってんの?」
また察したの、夜姫芽。飽きないな……。
「誰のせいだと思ってんの?」
「すいません」
「行くわよ、さっさとしないと死んじゃうわ」
夜姫芽は、自分の首元を私に見せる。先ほどより、薔薇の紋章が広がっていた。
「わ、私もかな……?」
自分の刻印を見る勇気がなんとなく出ず(というか見たくない。気味が悪い)、恐る恐る尋ねてみると、
「さぁね。見えないからわからないけど、私より酷いはずよ」
え?マジ?
「語彙力……。 だって、闇に蝕まれて、体が怠かったんでしょ?その分、刻印があなたを蝕んでいるはずよ」
……聞きたくなかった。生きたいと思ってないとはいえ、別に死にたいわけでもないし、それなのに死にかけるのは少し嫌というか……。
「生きたくないけど、死にたくない」
「どっちよ……。ま、適当に進んで、どっちがいいかさっさと決めなさいね。優柔不断だと、余計蝕まれるわよ」
なんでわかってるモードになってんの、夜姫芽。まぁ、私よりここのこと、理解しているみたいだし、いいけどね。別に。
「……もう進みたくない……」
小さく、呟くような声が夜姫芽の方からした。
「え?いきなりどした?」
「は?なにが?」
「いやいやいや、夜姫芽、『もう進みたくない』って言ったじゃん」
「言うわけないでしょ、進むし。疲れてないし。なに言ってんの、澄芭留」
なにを言っているかわからないと言うように、夜姫芽は立ち止まり、首を傾げる。そして、私に、頭大丈夫?とでも言いたげな視線を送る。
「えー、絶対言った!」
「言ってないわよ、私は。……ん?私は?」
「え、なに?」
夜姫芽は自分のセリフに疑問を持ったようでなにやら考えだす。
ほんとさ、私のこと、蚊帳の外かな?私に、説明する気ゼロかな?
「ぁあ、もう。なに、なんなの、酷くない?私、道連れ?」
「は?だからなにが?」
夜姫芽は訳わからないことをぶつぶつ言う。いや、マイペースなのはいいけど、私にわかるように言ってちょうだいな!
「要するに、妖が、ここにいて私の真似をしたのよ」
「……要するに?」
「ヤバい♪」
「♪じゃないじゃん!」
「まぁそうね。捕まったら、死ぬからね」
なに平然と言う訳、あんた、やばくね?いやまぁ、過去聞いたあとだしね、あんなことあればズレるかもだけど、ヤバくね?!
私は死んでもいいけどさーーーいや、怖いの無理だけどーーー夜姫芽は贖罪として生きるんでしょ。死んじゃだめ!
「逃げるわよ、澄芭留」
「あったまりまえだよね?!」
夜姫芽がようやく歩き出し、足踏みを繰り返していた私もようやく進めた。
先に進むなって言われてんの、結構辛くない?!
「……ねぇ、早いって……」
また小さな声が聞こえる。これも、妖?いや、結構夜姫芽の声に近いな。改めて聞くと。
「また声したけど!」
「は?また? あんたにだけ聞こえるの、つらいわね」
いや、妖の気配を感じて怖くなってるのは私なんだけど……。まぁ、見えない敵の方が怖いとも言うけど、私も見えてないからね?
「ていうか、私に害なくない?」
「え?」
そういうと夜姫芽は立ち止まる。ナニヲ言ッテルンデスカ、コノ人ハ。
あれ、なんでカタコト?
「見えないってことは相手も私を認識してないってことに近しいのよ。だから、私、死ななくね?」
死ななくね?と聞かれても、知らないよ……。
「死ぬのは、澄芭留だけってこと」
……ならいっか。
いや、まぁ、殺されるー!と怖くて焦りましたが、別に生きる意味ないしさ、別にさ、死んでもよくね?
夜姫芽が殺されるとか思ってたけど、そこが平気から焦る必要性なかったわ。
「……どうする?」
「なにが?」
「このまま立ち止まって、死ぬ?それとも逃げて生きる?」
「いや別にどちらでも。疲れたし、死んでもいーよ」
「ノリ軽いわね……」
「まぁ心残りはありますが、生きてて解消される可能性も低いですし、死んでもよくね?」
「いや、知らないわよ……」
まぁ確かに知らないか。
でもさ、生きてる意味ないしさ、夜姫芽の過去聞いちゃって生きるべきなのかとか考えそうになったけどさ、夜姫芽みたく贖罪とか背負ってるわけでもない訳で、死んでもいいよね。
「……追いついたぁ……」
小さな声がまた聞こえる。
振り返るとそこには、真っ白な浴衣を着て、髪の乱れた少女がいた。服には、血がついている。
あ、やばいやつだぁ……。その瞬間、そう思わざるを得なかった。
「……やひーーー」
「なぁに?」
驚きも、焦りもしてないなぁ、この人。見えてない系だぁ……。
えぇ、じゃ、私……死ぬ?
早くね?え、早くね?いや、まぁいいけど。
「……おぉい、見えてるぅ……?」
女の子はそう言って私と夜姫芽の間に回ってきた。しかも、私の方をガン見して!
「な、なに……?」
あ、これ、答えちゃ駄目系?あ、まずった。
「……みえてるねぇ……!」
「え、ちょ、は? どうしたの、澄芭留」
私はその場に思わず尻餅をつく。うぅ、痛い。いや、そんな場合じゃないけど!
「そこ!えと、血塗れ少女が!」
「なにそれ、血塗れ少女?」
夜姫芽は適当に私の指差したあたりに手を動かすと、女の子の頭にぶつかって止まる。
「……なにか、いるわね」
なんでそんな冷静なのーーー!?
「いるわねて……」
いや、別にそんな生きたくないし、いいんだけどさ、痛いの、嫌じゃん?てか、早すぎて……展開に追いつけないまま死ぬのは、ちょいと……ね?
「このくらい、払いなさいよ」
なにを言ってるの、このお嬢さん。
「……痛いよぉ……」
あ、痛いのね。夜姫芽は手を何度も何度も打ち付ける。いや、いじめか!
「ここにいるんでしょ、邪魔。どきなさいよ」
「……みえてなぁい……」
「みえないわよ、こいつ。でも、触れるし。害があるなら、退治よね?」
はい、私の味方なはずなんだけど、とてつもなく悪役間に溢れてるんですね、夜姫芽さん。
「悪役?」
「しーらない。悪役かもね、殺人鬼は」
「……さつ、じんき……」
わぁお、血塗れ少女が怯えてるよ。お前もお前で血塗れだけどね!
マシなの、ここに、私しかいない系ですか?ですよね?はぁ……。
というか、夜姫芽にツッコミしてたらさ、なんか、血塗れ少女に慣れてきたんだけど。え、なにこれ。
やばい、夜姫芽、強くね?いや、あのー能力とかいう意味じゃなくって、メンタル的にこいつ強すぎね?
「てか、殺人鬼じゃなくね?」
「殺人鬼と言っても過言ではない」
「……なにこのひとぉ……」
その通り~。規格外~(私もだけどな)。
「てか、こいつこそ誰よ?」
バンバン叩くな、夜姫芽。
「血塗れ少女」
「それやない」
ツッコミキャラなの、こいつ……。
「……おねぇちゃぁん……ゆあぁのことぉ忘れたのぉ……」
ん~と……?
「……どゆこと?ゆあ?」
「ゆあって、こいつ?」
「多分、血塗れ少女の名前かと」
「……おねぇちゃぁん……わからなぁいのぉ……?」
血塗れ少女、もといゆあは、泣き出した。涙で血が落ちて、顔が見える。ゆあは、白い肌に、くりくりの赤目。
この子、普通の子みたいなのに、やっぱ、お化け?
「どんな子、ゆあちゃんて」
叩くのをやめた夜姫芽が尋ねる。
「えーと、セミロングの黒髪に、くりくりの赤い瞳、白いワンピース……それに身体中が血塗れなの」
「はぁ? ……ゆあ……ゆあ?」
夜姫芽はまたまた考えこむ。私も、ゆあという言葉を探してみた。
けれど、分からない。黒髪のセミローーあれ、違います、ロングですよね。何間違えてるんです、私。
ん?は?え?は?今何言った?は?
違います?ロング?
いや、どうみてもセミロング。は?
「ね、このくらいのとこって、セミロングだよね?」
私は、肩辺りに手を当てて、夜姫芽に問う。
「セミでしょ」
「だよねー」
「なに、ショート思えんの?」
「ううん、ロング」
「は? え、ロングで、黒髪で、くりくりで、白着てて……蒼目?」
「いや、赤目」
「あかぁ?」
「いや、あおぉ?」
会話、進まないなぁ。
「ゆあ?は?えー……」
混乱してるようだけど、私もなんだよなぁ。
「ねー、こっちの声聞こえる?聞こえるなら答えて欲しいんだけど、ユイ」
「……!あぁ~、きこえるよぉさくらひめぇ……」
さくらひめ?
「ね、なんか言ってる?」
「きこえるよ、サクラヒメって」
「へぇ、聞こえんだ。わかってんじゃん。 ね、はやく出口教えて。出てきた理由なんて、どーせシロ関連でしょ?私の時は来なかったくせにね」
「……むぅ……ゆいはぁ、さくらひめぇがぁ封じたよぉ……」
「ゆいはサクラヒメが封じたって」
「……あ」
「……『あ』じゃぁないぃ……」
なにこいつら。通訳いるし。
「あのさぁ、も、道案内しろ。死にたくないでしょ」
「……おどすなぁ、さくらひめぇ……」
確かにその通り。脅しはダメ、てか、なんでサクラヒメ?
「……こぉっちぃ、きてぇ、さくらひめぇ、はくおうぅ……」
ハクオウって、私の苗字だよね?うん。うん。
私は、夜姫芽?に
「いくわよ、シオ」
とよく分からぬ名前で促され、ついていく。
どれほどかわからないけれど、結構進んだ後、ゆあは立ち止まって、指をさす。
「……あの扉ぁ、あけてぇ……」
「扉開けてって……」
いや、扉もクソもないわ。ないじゃんね、うん。
「扉って……はぁ?無理よ、これ。『純白』じゃない」
なにを言っとる。あのー、あのー、フラグかな?フラグだね(へし折りにいくスタイル)。
「……だからぁ、ハクオウいるじゃぁん……」
「わ、私?」
「こいつ、無理。まだシオじゃないもの。 純白すら目覚めてないわよ」
「……なんでぇ、漆黒は起きてるのぉ……」 
「なんで漆黒は起きてるのって」
なんのことやらわからないが、一応ね、通訳はするよ。うん、それくらいしかできないから。
「早いもの順よ。ていうか、これ、彼岸宮でもいけるわよね?」
「……たぶん……」
「彼岸宮探すわよー」
キャラ変がすごいなww
そして私も読者もついていけないっていうねww
(……あとで小話必要なやつ)
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