死に損ないの春吹荘 

ちあ

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三章 休みの間

生徒会との因縁ですか?

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 雪芽さんが話し出そうとしたとき、瞬先輩が手を上げた。
「俺は知ってるから、部屋に戻るぞ」
「あ、じゃあ僕も向こう行く~。絶対わかんないもん」
 ま、まぁ確かにね。私、一応残ろうかな。
「ユーくん、説明よろ!」
「……はぁ」
 瞬先輩を追うようにして、ソラは部屋から出て行った。
 それを見届けてから、雪芽さんはため息をついて、話し始めた。
「生徒会と、春吹荘が揉めているのは、今に始まったことじゃないの。春吹荘が再開した、二年前。その時からずっとだったわ」
 二年前ということは、高校に宵衣先輩が上がった頃か。
「対立しているのは、主に派閥の中心人物同士っていうのかしらね?ミカちゃんと、生徒会長の磯木って子なの」
「宵衣先輩、いつもと違ってましたけど?」
「ええ、そうね。……あの子、身内とか、仲間内には優しいんだけど、外側に敵意剥き出しなところがあってね…………しかたないんだけど……」
「え?なんて言ったんですか?」
 敵意剥き出しなところがある、の後、声が小さくって聞こえなかったわ。
「いいえ、なんでもない」
 雪芽さんは控えめな笑顔を向ける。
 そして話を続けていく。
「主に対立しているのは高等部の子たち。まぁ、司佐の場合は生徒会が嫌いってところが多いから、あと、性格上仕方ない面があるのよね。まぁ、それはいいんだけど、ミカちゃんは、生徒会自体というよりは、生徒会のメンバーを嫌っている感じがすごくてね。 少しでも、緩和されればと今回のことをしくんだんだけれど、無理だったわ」
 なるほど。宵衣先輩の生徒会メンバー嫌いを治させようと荒療治に走ったものの、失敗したということですね。
「でも、なんで嫌ってるんです?」
「さぁ、それは……なんとも。 ただ、あっちのミカちゃんに対する敵意の理由は見当がつくけどね」
「え?」
「ミカちゃんが学年主席であり、学園首席。問題児のくせに、先生荒の評価は一部ではとても高く、評価されている。 とくれば、そこそこ劣等感とか感じるんじゃないかしら。ましてや彼は生徒会長なのだし」
 な、なるほど……。
 で、私たちはその年長の争い事に巻き込まれたと。迷惑だなっ!
「春吹の奴らは大抵孤立してるから。目の敵にされやすいんだよ」
 ……確かに。みんな部活入ってないし、春吹荘の人たちくらいとしか関わらないもんね。
 私だって、寮生の友人なんて朱音くらいだし。
「まぁ、寮の子たちもあんまり群れたりしない子もいるけどね。 やっぱり、出生とか、そーゆー面で劣ってるとされる私たち春吹荘が目の敵にされるの」
 うぅん、大衆心理ってやつですかね。
「大衆心理ってことだとして、なんでここまでもめてるんです? あの、瞬先輩も結構でしたよね?」
 結構、ムカついてたというか、イライラしてたもん。怖かったし、なんか、久しぶりにあの上から目線の不機嫌顔を見た気がする。
「……しかたないのよ。 大体二年前くらいに、ちょっと揉め事があってね。その時中一だったあの二人と、中二だった司佐がひどく争ったらしいの」
 瞬先輩が?
 あの、争うとかよりは、水面下でいつのまにか人知れず叩いてそうなあの先輩が争ったって、想像つかない……。
「本当なんすか?」
本当マジだよ。三月くらいだったかな。結構学校全体が騒然としたんだ。精神的に、不安定になってたみたいでな」
 瞬先輩が、精神的に不安定に……。
 なにそれ、想像できない。
「真文と、主にもめてさ。二人とも肉体系が苦手だったから、口論だけだったんだが、それもハイレベルだったし、二人とも何かに囚われてる節があったから」
 何かに囚われてる、ですか。
 危ういって私はよく言われるけど、そーゆー時が、あんな落ち着いていたり、上から目線で俺様のような態度を取ったりする、二人に適用されるんだ。
「まぁ、そういうことだから、大目に見てやって。 そのうち、あの子たちも大人しくなるから」
 そう言って、雪芽さんは話を締めくくった。



ーーー 対決サイド ーーー

 僕はマド君に気がつかれないように、後を追う形で部屋を出る。
 あそこの話はやすやすと聞けるけど、こっちは盗聴しにくいからな。
 マド君は、部屋に戻る様子はなく、クレちゃんたちの女子部屋へ行く。宵衣先輩のところに行くのか。
 マド君たちの部屋は、左右を僕らの部屋と女子部屋に挟まれているから、どちらからでも声は聞こえる。
 ちょうどいいな。
 僕は部屋に入って、壁に耳を当て、集中する。


 扉を開けて、俺は部屋に入る。そこでは、帝が窓際に蹲るように座っていた。
「……なんだい」
「話を抜けてきた」
「そう」
 いつもの暑苦しいほどの陽気さは微塵も感じられない。
 生徒会が憎いのか。なんなのか。
コンコン
 扉がたたかれる。あいつらなら、声を先にかけるだろうし、となるとーーー
「……悪いけど、出てもらえる?」
 帝はそう尋ね、ベッドに座り直した。自分が怒っているところを悟られたくない、のか。
 扉を開けると案の定奴らがいた。
「お邪魔しても?」
「……入れ」
 俺はそういうと、ソファに座る。
 二人はもう片方のベッドに隣り合って座った。
「何の用だ」
「さっさと帰ってもらいたいんだが」
 いつにも増して、帝は奴らに圧をかける。
「……二年前の話を少ししたいと思いまして」
「あの、知らねえ奴も言ってたろ。舞鶴と、メガネヤローは話すべきだって」
 ……今、そのことに触れていいのかはわからないが、あの時よりは感情は落ち着いている。より論理的に話せるだろう。
「構わない」
 帝が答えたのを聞いて、俺もうなずく。こればかりは、帝を尊重せざるを得ない。詳しくは知らないが、あの時一番傷を負っていたのは、俺の記憶の中では帝だったはずだ。
「そうですか」
 舞鶴はつぶやくと、過去を一通り簡潔に話した。
「二年前、僕らは争いに似たことをしました。互いに不安定な状態であった時期です。僕が思うには、こちらが至らない点があったせいだと思います」
「生徒会が至らなかったせい、そういう論点で争ったんだったな」
 帝は少し落ち着きを戻したものの、いつもの話し方には戻らない。部外者には優しくしないっていうことか。
 心を許さねば見下し、酷い態度を取るが、一度認めれば尽くす。それが帝という人間なのか?……知らないが。
「そーだったな。 あの時は、りょーがいきなりおかしくなって、変なこと言い出して、もめたんだ」
「ああ。昔と違って驚いたよ、まさか、あんな風なやつとはね」
「それは違う!」
 舞鶴が声を少し荒らげる。
「……違くねぇだろ、落ち着けよー」
 マイペースに、真文が諭す。
「オレらも流石におかしーと思ったけどよ、りょーに逆らう気はねぇんだ、オレら」
会長あの人が間違っていようと、進む先が地獄であろうと、僕らはついていく。そう決めていたんです。だから、あの時、対立した」
「あの時の方がマシだね。 今は同情の余地もない」
 無情に帝は切り捨てる。
 テスト範囲を隠したり、ライン制度を打ち出したり、予算を制限したり。
 テストはとにかくとして、他のものは目に余るところがある。
「わかってます。ですが、あの時ーーあなた方も間違いを起こした」
「ボイコットのことか?」
「あれはお前らのせいだ」
 俺たちは譲らない。
 過去に、我が学園の学校行事である卒業式の前に行う『校舎感謝会』というものをボイコットした。
 アレは、一年に一度全学年が揃い、言ってしまえば卒業式以上に感謝を伝えるもの。
 それを三年である帝と、二年だった俺はボイコットした。
 生徒会に反発してだ。あれは、論外であることは分かっているが、流石にあそこで引き下がることはできない。
 あれは、生徒会が主催している催し物で、不参加者が出ると、その代の生徒会の名が廃る。
 だから、ボイコットした。
 あいつらが、瞳を貶したから。
 間接的にであれ、俺は瞳のことをあいつが死んだ直後と言ってもいい時期に貶されたし、帝も何か怒る理由になることがあったらしい。
 だから、俺たちは揃いも揃ってボイコットした。
「知らないゆえかもしれないが、お前らは無意識にでも俺の大事なものを貶した」
 驚きだと、初耳だと言うように彼らは目を見開く。
「……生徒会おまえらは、知っていても尚、貶した。ボクの全てを、ボクの意義を。 許せるわけないだろ」
 少し目を血走らせ、帝が言う。
 俺は知らず知らずのうちに。
 帝は知っていても尚。
生徒会おまえらが謝ろうが関係ない」
「ボクは許す気なんてないよ」
 そう言って突き放す。
 よくは覚えていないが、その事件まではそこそこ生徒会の奴らとも帝は上手くいっていた。
 なのにそれを壊したのは、生徒会だれかの無情な言葉だ。
「……二年生、一年生のことは僕らは知りません。なので、どの言葉かは測りかねる。 けれど、こちらがミスを犯したこと、あなたたちを傷つけたことは事実だ」
「じゃ、中三オレらはあんたら二人に介入しねーよ」
「「それがせめてもの償いだ」」
 そう言って二人は出ていく。
 扉が閉まる寸前
「申し訳ない」
 と、真文は呟いた。


 訳がわからない。あいつらと先輩達は犬猿関係になり、その要因は主に高等部の生徒会メンバー。
 そこまではわかるが、生徒会あいつらが貶した、先輩たちの大事なものってなんだ?
 それがわかりさえすれば、宵衣先輩をどうにかできるのに。
 僕はそう考えて、ため息をついた。
 クレちゃんたちが来るまで、考えていよう。
 宵衣先輩は、僕と同じ部類の人間だ。
 クレちゃんみたいに闇持ちだけど明るい子じゃない。
 ユーくんみたいに闇を乗り越えて周りを守れるほど強くない。
 自分の大事なものをこぼさないために偽って、周りを陥れようとする人間だ。

コンコン
「おーい、ソラ?」
 クレちゃんがもうきたか。
「はぁい♪」
 いまは、宵衣先輩のことを考えるのは、やめよう。
 宵衣先輩、僕は絶対にーーークレちゃんを絶対に傷つけさせはしないから。

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