歳の差の花嫁

記者会見

トオルが帰宅すると家は静かなものだった。
「マキ～、マイ～、ユミ～居ないのか？」
声をかける。するとユミが泣きながら抱きついてきた。
「ただいま、ユミ。なんで泣いてるのかな？お母さんとお姉ちゃんはどうしたの？」
「お姉ちゃんは家を出ていったの・・・」
「えっ！なんで？」
「あのね、お母さんと喧嘩してね、お爺ちゃんの家に行くって・・・」
「マキと喧嘩？お母さんはどこかな？」
「寝室にいるよ」
「わかった、ちょっと話して来るからユミはいい子にして待っててね。」

トオルはユミを居間に残し、寝室に向かった。
「マキいるのか？」
トオルが声をかけるとマキは振り返る。
「あなた、マイが！マイが！」
パニックを起こしてるマキを宥め、事情を聞く。
「なるほど、桐谷くんにそそのかされて、学校をサボり、母親に逆らい家を出ていったと！」
トオルは怒りが沸いてきた。今日１日リョウのケガのせいで責められ、思い描いてた、新薬で世界に賞賛される未来も閉ざされた。そして、娘のマイの未来まで汚そうとするリョウを許せなかった。
「ボクに任しときなさい！必ず桐谷くんには報いを受けさせてやる！」
「あなた。」
マキはトオルに抱きついてきた。
トオルは愛する妻の為、そして、愛する娘の為に権力に逆らう義士の気持ちになり、少し高揚していた。
事実確認も忘れて・・・

翌日、トオルは記者会見を行う。
題目は新薬について緊急発表があると各報道機関に伝えた。
「あー忙しい中、皆様よくお集まりくださいました。」
「山中所長！新薬について緊急発表と連絡はありましたが何が起こったのですか？」
「実はですね、開発に成功している新薬の大量生産の計画なんですが妨害工作がありまして頓挫する危機になっているのです。これにより世界を救う事が難しくなるでしょう。」
「誰に邪魔をされているのですか？」
「西園寺グループと源グループです。」
二社の名前が出た途端、大手記者は書くのを止めた。記事に出来ない可能性を考えていた。
「今あげられました二社は社会貢献も積極的に行ってる企業ですが、何も無く邪魔するとは考えられません、何が原因なんでしょう？あと、どんな邪魔を受けているのですか？」

トオルはドヤ顔だった。金の亡者の企業に科学者が一矢報いるのだ。正義の使者のつもりだった。
「実はその二社から工場の建設は出来ないと断られ、資金援助も打ち切られました。もちろん、私達の力不足ならそれも仕方ないと思いますが新薬の開発に成功してこれからと言う時に協力の打ち切りはありえません！」
「何が原因なんでしょう？」
「両社の社長、会長が言うのは後継者候補をケガさしたと言う事でした。企業が経営に私情を挟むのはいかがなものかと思います。」
会場はザワツク。
「ケガというのは何が原因でどの程度のものなのでしょう？」
「交通事故です。そして、被害者は骨折と聞いております。」
記者の中には二社の社長の横暴か？と記事にするか悩む中、一人の記者が質問した。
「所長は交通事故とおっしやられたが少々違いませんか？」
「何を言うんだ、被害者は赤信号で横断歩道にでて、車に跳ねられケガをしたと聞いている。」
「そうですね、しかし、言葉が足りていません。被害者は赤信号で横断しようとしたあなたの娘を引き留めた後、あなたの奥様に突き飛ばされて横断歩道に倒され事故に合われたと確認しております。違っていれば訂正をお願いします。」
会場は更にザワツク。
司会役が「静粛に！」と記者を黙らせようとする。
「いや、それはだね、事情があって・・・」
「事情があれば横断歩道に人を突き飛ばしていいと、所長は考えておられるのですね？」
「そ、それは・・・娘をケガをさせられた母親が咄嗟にしてしまっても・・・」
「それで、警察に捕まってない理由も聞かせてもらえますか？」
「それは・・・警察の事なので其方に確認を。」

記者はザワツク、
「おい、また上級国民か？」
「ノーベル賞とった家族は人殺しもOKで記事書くか？」
「二社の後継者？誰だ確認急げ！」

騒がしい中、音楽系に属する記者が質問を行う。
場違いな記者に周りの注目があつまる。
「所長の奥様が殺そうとなされた方はキサク先生が世界的作曲家になれる器と評価され、デモテープを聞いた著名な音楽家から将来を期待されてる方です。その方を殺そうとした事にキサク先生は非常に憤慨しております。質問ではありませんが記者の方々が集まるこの場でキサク先生の代理として意思をお伝えしておきます。」 
「いや、待ってください。音楽は今関係ないですよね。それに彼は小学生の娘をそそのかし学校をサボらせ家出をさせるような男ですよ！社会的に外に出しては行けない類いの人間です。」
「山中所長、それはうちの婿殿に対する名誉棄損ですが、裁判の準備はよろしいですか？」
そこには源グループ本部長渡辺がいた。
「なぜ、ここに。」
「ふん！記者会見を開くというからくだらん事を言うのだろうと来てみたら、ホントに下らん事だとはな！」
「渡辺本部長、後継者の話がありましたが事実でしょうか？」
「我々、源グループは重役一同迎え入れる準備は出来ている。彼が望めば今すぐにでも迎え入れるだろう。」
「それは会長の娘さんとの結婚も含むと？」
「当然だ、これは姫の頼みでもある。そして、我等に依存はない。」
「あの～これは記事にしても？」
「構わない、存分に広めて、彼の逃げ道を奪って欲しい。」

記者は急に沸いたスクープを書き始める
見出しはこれで行くか？
『山中所長、源グループ後継者を暗殺はかる！』
『所長乱心、源グループと仁義なき戦い！』
『殺害相手に資金要求！』
記者は他社より映える見出しを考える事に夢中になった。

トオルは焦った。
このままだと明日の記事は自分が望まぬ形になってしまう。
「あーみなさま、今日は新薬についての発表です。その記事はゴシップの方に・・・今大事なのはこのままだと新薬が出回らなくなるという社会的道義を正す事ではないでしょうか？」
トオルの発言に記者の眼は冷たかった。
「所長、あなたは娘の婚約者を殺した人にお金を払えますか？」
「何を言ってる！そんなこと出来る訳ないだろ！」
「わかってるじゃないですか、あなたが言ってる事はそれですよ。じゃあ邪魔をしないでください。渡辺本部長、お待ちを少々お話をー」
立ち去る渡辺に合わせて会場は誰も居なくなった。
会場に残されたトオルには絶望しかなかった。