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第二章 刻の魔法と闇の暗躍

35話 幻想

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 翌朝、ミオとポールはクロノから予備知識として“幻想”について教えてもらっていた。

「俺もうわさでちらっと聞いたくらいだが、“幻想”はリーダーの“ディザイア”を中心に主に人身売買を目的とした裏組織の連中だ」

「人身売買……!?」
 ミオはゾッとする。
『ミオ、売られるところだったのか……』

「今回みてぇに拉致したり、巧みに誘い込んだり……手段は様々らしい。けど、まさかこんな派手なやり方だとは思わなかったな」
 クロノも説明しながら首をかしげた。

『まさかクロノ君みたいな凄腕すごうでのボディーガードが居るなんて思わなかったんじゃない?』

「まぁ、拉致するところを誰にも見られなければ、窓を割ろうが関係ねぇからな」

『なんでミオだと思う? なんでミオがここに居ると分かったと思う?』
 ポールが問い詰める。

「何でミオなのかは、考えられる理由があり過ぎるな……」
 クロノは苦い顔をする。

「私、昨日の夜寝る前、バルコニーに出て月見てたからかな?」
 と、ミオ。

「そうかもしれねぇし、昼間のうちに城に入っていくのを見られたか、城内に組織のやつが潜んでるか、だな」

 クロノがそう言うと、ミオは恐怖で身震いした。
「最後のはやだなぁ……この中に居ても安全じゃないってこと?」
『安全でしょ。君何人ボディーガードが付いてると思ってるの?』
「あ、そっか」

「つーか昨日、単独行動させなくて正解だったかもなぁ。方向音痴っぽく見えて良かったな」
 クロノがそう言うとミオの頬がぷくーっとふくれる。
「……確かに結果オーライだったけどなんかヒドイ」
 そんな彼女を見てクロノはふっと鼻で笑った。


 そんな時、部屋を訪ねたメイドから応接間に来るよう言われ、ルフスレーヴェは皆でそこへと向かった。

⸺⸺

 応接間では既にアルノーが待っており、皆がふかふかのソファへと腰掛けると彼は説明を始めた。

「昨夜の件で分かったことがあります。ミオさん以外にも昨夜だけでたくさんの女性が行方不明になったそうです。“くまみみ商会”の女性メンバーの方々、一般居住地区在住の女性の方々、うちのメイドも2名行方がわかりません」

「くまみみ商会……僕が昨日魔導具まどうぐのテスターやったところだ……」
 と、チャド。

「お城の中も狙われたのって私だけじゃなかったんだ……」

「居なくなったやつの特徴は?」
 クロノが問うと、アルノーは小さくうなずきこう答えた。
「全員、マキナ族の女性です」

「!!!」
 皆驚きをあらわにする。
 なぜなら、ミオの魔力が珍しいがために狙われたと思っていたからだ。

「目的は定かではありません。わたくし自身の憶測でしかありませんが、恐らく取引相手からマキナ族の女性を依頼されたのでしょう」
 アルノーが補足する。

「そう、だろうな。ミオ以外の他の現場には“幻想”の痕跡こんせきは?」
 と、クロノ。

「うちのメイドたちの寝室も、ミオさんの部屋と同じように窓が割れているだけで、あとは何も……。わたくし共と同じ商会であるくまみみ商会さんも仮面を見ればご存知でしょうが、残された方々も姿を見たという方はいらっしゃいませんでした」

「商会の間では“幻想”の特徴は知れ渡ってんのか?」
 再びクロノが尋ねる。

「はい、職業上信頼を保つ必要がありますので、そういった組織とは関わらないよう、行商人の間で出回っている情報です」
 アルノーがそう答えると、クロノは「そうか」と相槌あいづちを打った。

「そして、昨夜の間に出港した船はないことから、我々はまだ彼らが島に居ると仮定して、ジョズ島の全ての港を閉鎖しました。行方不明者の数は30名程で、船無くしての移送は不可能だと判断しての対応です。そこでなのですが……」
 アルノーは申し訳なさそうにルフスレーヴェの皆を見渡す。

「お、緊急クエストの予感」
 と、ケヴィン。

「おっしゃるとおりです。幸いここにはS級クラン様がいらっしゃいます。“幻想”は戦闘訓練された集団だと聞いていますので、どうかお力をお貸しくださいませんか」

「受けることを見越しての港閉鎖か……」
 クロノは皮肉を込めて言った。
「どういうこと?」
 と、ミオ。

「“幻想”相手に商人や自警団じゃ敵わねぇけど、俺らならなんとかできると思ってとりあえず閉鎖したってことだ」

「はい……おっしゃるとおりです。もし、皆様がいらっしゃらなければ、閉鎖措置も取らず拉致された方々のことは諦めなければならなかったかもしれません……」
 アルノーは悔しそうにそう付け加えた。

「まぁ、どうせ島に閉じ込められてるしな。その依頼、受けてやってもいい」
 クロノが面倒くさそうにそう言うと、アルノーの表情はパッと明るくなった。

「あぁ、ありがとうございます! 早速依頼を出させて頂きます! 内容は“幻想”のアジトの所在特定と、拉致被害者の救出です。アジトに関しては我々も調査を進めておりますので、お互いに情報共有をしながらの捜索となります」
「了解」

 その後ブランシャール商会のメンバーがクラン支部まで走って行ったのを見送ると、すぐにクランボードに赤い色の通知が入った。


⸺⸺緊急クエスト⸺⸺

『幻想の島内アジトを特定し、拉致された人々を救出せよ』

 クラン、ルフスレーヴェは、ブランシャール商会と協力し、直ちに事件解決へ努めてください。
 なお、クエストに何らかの進展があるまでは、島内の港は全閉鎖されたままとする。

⸺⸺




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