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13話 互いにできることを

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「ふぅ……」

 散々泣きはらしたら、スッキリした。

 こんなんじゃだめだ。本当に泣きたいのはオスカーの方なんだって。

 私は涙を拭うと、恐る恐る小屋へと戻った。


⸺⸺

「エマ……おかえり」
 オスカーが安心したような表情で出迎えてくれる。

「ただいま……って、オスカーその格好……あれ、なんか甘い匂いが……」

 オスカーは私が使っていたピンクのエプロンを着けており、小屋全体にバターの甘い匂いが漂っていた。

「俺も、お前のために何か慣れないことをしてみようと思って……クッキーを焼いているんだ」
「え!? 何でクッキー!?」

「まさかクッキー、嫌いだったか?」
 オスカーはそう言って顔を引きつらせる。

「ううん、大好きだけど……何で……」
「とりあえず中で話そう」
「あ、うん……そうだね」

 私はオスカーに続いてダイニングへと入り、テーブルについた。

「お前は俺のために髪を切ったり、男性の服を着たり、慣れないことをたくさんしてくれた。だから俺もお前のために何かできないかと思って……昨日、外の調理台で魚の下処理をしているとき、お前が話していたことを思い出したんだ」

「あっ……私……病院でたまにお許しをもらって食べるクッキーが大好きだったって……」
 その瞬間、もう枯れるほど絞り出したはずの涙が再び溢れ出てきた。

「エマ……俺のこの行為は、迷惑だろうか……?」
 オスカーのその問いに対し、私は思いっきり首を横に振る。

「違うの、これは嬉しくて……」

「そうか、良かった。あのな、エマ。俺も同じなんだ。お前の気持ちは、とても嬉しかった」
 そう言うオスカーの表情はとても穏やかだった。

「でも、オスカー……悲しそうな顔をしてた……」
「それは、それでも俺はお前に触れることができないから……自分が悔しかったんだ……」

「触れたいと、思ってるの……?」

「当たり前だ。この短期間で一緒に孤島で生活をしてこんなに絆を深めたのに……触れたくない訳がないだろう」

「そっか……」
 何の迷いもなくそう言い切ったオスカーの言葉が嬉しくて、私は照れてはにかむ。
 すると、オスカーもそれに答えるようにほんのりと頬が赤くなった。

「え、でも待って?」
「うん?」

 私があることに気付いてしまったせいで、そのお花の舞うような雰囲気は一瞬で終わってしまった。

「私、オスカーに1回触られてるよ?」
「……城でお前を部屋に引っ張ったときだな」
「うん! そうそう!」

「あの時も正直一か八かだったんだ。ここで呪いが発動してもエマのことはそのあとノエルがなんとかしてくれるだろう、くらいの覚悟を決めてお前を引っ張った」
「ええ!? そんなギャンブラーな……!」

「その後はもう怖くてダメだったけどな……でも今はもっとダメだ。確実に呪いが発動するという確信がある」
「そう……なんだ……」

 その発動条件が分からない以上、もう何も言うことはできない。
 ダメだこれじゃぁまた雰囲気が……。そう思った私は小屋に戻って来るときに決めた事をオスカーへ話すことにした。

「私、さっき決めたことがあるんだよ?」
「うん? なんだい?」

「あの別荘、綺麗に修復しようと思うの」
「本当か? でも大変だぞ……」

「なんか目標があった方が、2人で一緒に頑張れると思わない? だから、オスカーも一緒にやろ?」

 別荘の修復ならお互い触れなくたってできるし、私が直してオスカーが素材を集めて……力を合わせてる感じがある。

「そうだな。一緒に直してみるか!」
 オスカーはそう言って微笑んでくれた。

「うん!」

 それから、私たちの別荘修復が始まった。



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