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第三章 お家騒動

49話 決闘

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⸺⸺コロシアム⸺⸺

 オーガ族の国のベルセルク王国の国王カーサ・ベルセルクVSバーサスエルフ族の国のエルセイジ王国の第三王子にして最強の魔道士クロード・エルセイジ。
 この物理最強クラスと魔道最強クラスのぶつかり合いはウケないはずがなく、そのコロシアムでの決闘の噂は瞬く間に王都中に広がり、コロシアムは満席状態で立ち見の人もたくさんいた。

 そんな中私たちはマルクス様やエルセイジ夫妻、そしてシャーロットと共に特別観覧席で隔離された状態での閲覧だ。
 ルシオの将来のことさえなければめちゃくちゃ興奮していたであろうに。

 出場前のクロードが特別観覧席へ顔を出した。
「クロード! ごめんね俺のために」
 ルシオがそう言いながら一目散に彼に駆け寄った。
「ルシオ、まだそんなこと言っているのか。お前は私のために色々と力になってくれた。私の恩返しのできる方法など結局このくらいしかないのだ。これは良い機会だと思っている。ルシオはここで恐怖の塊でしかない親が崩れ去る瞬間を安心して見ているがいい」

「クロード……ありがとう」
「クロード、よく言った。あの脳筋暴君に分からせてやって来い」
 と、メルキオル国王。隣でうなずくビクトリア王妃。
「はい、では、行って参ります」

「行ってらっしゃーい!」
「頑張ってー!」

 クロードはみんなの声援を受けて、コロシアムの舞台へと移動した。

⸺⸺

Ladiesレディース& Gentlemenジェントルメン! さぁいよいよ始まります、オーガの王VSバーサスエルフの王子の何とも熱い決闘が! 急な決闘にも関わらず、会場は満員御礼! さてさていつものようにルール説明だ……』

 意気揚々とした実況が始まる。舞台ではカーサ国王がめちゃんこ大きな斧を構えて仁王立ちをしており、クロードは舞台の上で30cmほど浮きながら私と同じ魔法杖を構えている。
 っていうかどうやって浮いてるの? お揃いの杖を装備しているのに、私とクロードの実力差は天と地ほどの差があると私は感じた。

「それでは、試合を開始して下さい!」
 審判の試合開始の合図にわーっと湧く会場。
 そして、両者同時に技が放たれ、舞台の中央でバーンとぶつかり合い、派手に相殺される。「おぉーっ」と感嘆の声に湧く会場。

『おーっといきなり両者すさまじい一撃だ! カーサ選手地属性の“地裂斬ちれつざん”を、対してクロード選手は初級闇魔法“ダーク”で対抗だぁ! お互いに初級技とは思えない迫力に、私も興奮して参りましたー!』

「おぉぉ……! クロードすごい!」
 私も会場の雰囲気に飲まれてきて、前のめりで応援を始める。
 思えば魔物のハントに同行をしたときは楽勝で倒してしまうため、黒狼の牙のみんなが本気で戦うのを見るのはこれが初めてかもしれない。

 お互いに激しい攻防を繰り広げる中、カーサ国王がだんだんと息を切らしてくる。
 クロードはと言うと、相手の攻撃に対し魔法の壁を作ったり、瞬間移動で回避したりと一度も攻撃を食らうことなく確実に相手を弱らせていっている。

「やはり我が子の敵ではないようですね」
 ビクトリア王妃は自慢気だ。私もなんだか誇らしくなってくる。

「相手も追い詰められてきたから、そろそろ“奥義”が来そうだね……」
 と、ジェイミ。

 奥義って何だろうとワクワクしていると、カーサ国王の身体が赤いオーラで包まれていく。
「この赤いやつって、私が来てすぐの時にレオンとジャンがやってたやつだ!」
 私が興奮気味にそう言うと、レオンもジャンも「そんなこともあったな」と懐かしそうに笑っていた。

『カーサ国王ここで“血昇けっしょうのアウラ”をまとう! 物理を極めた者のみができる捨て身の赤いオーラだ! 来るぞ、奥義が!』
「来ないね、残念ながら」
 と、リュカ。
「ええ、奥義は来ませんね、なぜなら……」
 ビクトリア王妃も続く。

⸺⸺上級闇魔法⸺⸺

「ダークルイン!」
「ぐはぁっ!」

 溜め動作に入った瞬間のカーサ国王をクロードは強力な一撃でトドメを刺した。
 魔法を少しかじっているから分かる。上級魔法は地面に魔法杖を突き立てなければならず、普通はあんなふうにポーンと撃てない。

 ぶっ飛んで舞台から放り出され、そこで気絶するカーサ国王。

「なぜなら、溜めに入った瞬間あの子が仕留めるからです」
 と、ビクトリア王妃はさっきの続きを言い切った。

『なんとクロード選手! 上級魔法の詠唱破棄により瞬時に魔法を放ち、奥義の発動を阻止してトドメを刺した~!』
「そこまで! 勝者、クロード・エルセイジ!」

「わぁぁぁぁっ!」

 会場が大歓声に包まれる中、ルシオは自身の親の無様な姿を見て静かに涙を流していた。
 親から解放された安心からか、クロードが勝利した嬉しさからか。
 少なくともその涙は、自身の親のために流しているのではないと、私は確信していた。

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