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第三章 お家騒動

52話 芸術家舐めんな

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「リュカは居候なんかじゃない!」
 私はそう叫んでリュカの前に躍り出る。
「さくら……」

「あ? なんだこの女。猫耳なんて種族いたか?」
「お前めっちゃ巨乳じゃねぇか! 俺の嫁にしてやるよ!」

「うるさい黙って。リュカはね、あんまり戦えなくてもそのお歌とお絵描きと妄想で戦ってる人たちと同じくらい稼いでんのよ」
 怒る気持ちを抑えながらそう彼らに告げるけど、「そんなんで稼げる訳ないだろ」それが彼らの返事だった。

「あんたたちリュカの歌声にピアノの音色ちゃんと聞いたことあんの? 天使のように透き通った綺麗な歌声でお客さんみんなうっとりするんだから! 小説だってね、女の子がキュンキュンするようなロマンチックな展開が続いて、彼の描く超イケメンな挿し絵もあって、彼の連載を待ってる人たちがこの王都だけで20万人いるのよ? 私の推しの芸術家舐めんな!」

 私は一気に言い切って、ゼーゼーと息を切らす。すると、その魚5人組はお腹を抱えて不細工な顔でゲラゲラと笑い出した。
「何言ってんだこいつ頭おかしいんじゃねぇの?」
「キュンキュンっ、ですって。庶民の女はそんな良くわからない感情を求めて何が面白いんだか」

「あなた、恋、したことないんだ。可哀想だね」
 私は冷めた目で魚女を見る。
「はぁ? そんな妄想の世界にしか居場所のない貧民のあんたの方がよっぽど可哀想よ!」

「女なんてなぁ、力でねじ伏せりゃいいんだよ。無理矢理犯して俺のもんにしてやるぜ」
 そう魚男の1人が私に近付いてきたその時だった。

「さくらに手、出すな!」
 リュカが私の前に割り込み、振りかざしてきた魚男の腕を掴む。
「あ? それで止めたつもりか?」
 魚男が腕を振り切ると、リュカは簡単に投げ飛ばされてしまい、地面に叩きつけられた。
「うっ!」
「リュカ!」

 リュカのもとへルシオとクロードが駆け寄る。
「リュカ、大丈夫か」
「うん……ありがとうクロード。さくらが……」
「さくらなら心配ないよ、ほら」

 私の前には、赤いオーラをまとったレオンにジャン、そしてジェイミが立ちはだかっていた。
「手続き面倒でも殺すか?」
 と、レオン。
「なら焼き魚にして食おうぜ」
 と、ジャン。
「やだよ不味そう」
 ジェイミはうえーっとあからさまに嫌そうな顔をした。

「なんだお前ら、俺らはラメール王国最強の三騎士だぞ!? んな庶民の程度の低い戦闘力で俺らに敵うと思ってんのか?」

「ラメール王国最強の三騎士だと!?」
 そう反応して間に割り込んできたのは、カーサ国王だった。

「あ、あんたは確かコロシアムであのエルフにボコボコにされてた……」
 魚男の一人がそう言う。

「貴様らもコロシアムで黒狼の牙の最強の“三牙狼さんがろう”にボコボコにされてくるといい。マルクス陛下、日程の調整を頼む」

「三牙狼って何!?」
 私は思わずそうツッコむ。
「ちょうど猫娘の前に3人揃っているだろう」
 と、カーサ国王。

「三牙狼って俺らのこと!?」
 と、ジャン。
「何か変なトリオ名付けられたな……」
 レオンが苦い顔をする。
「えー、変かな。僕は結構カッコイイと思ってるんだけど」
 と、ジェイミ。

「いいぜ、んな庶民のダサダサトリオに俺らが負ける訳がねぇんだよ。かかってこいよ」
 と、魚男。

「決定だな。3対3のチーム戦で行う。それぞれで決めた先鋒せんぽう、中堅、大将同士が1対1で戦って、2勝したチームが勝利だ。勝敗の決定方法はこの国のルールに準ずる。と言う訳だマルクス陛下。会場のセッティングを頼む」
 カーサ国王はご機嫌でそう言った。

「だぁーっ! 勝手に話進めやがって! ……はぁ、ま、この場で殺し合いを始められるより良いか……」
 マルクス様はズーンと落胆していた。ホントにこの国の王様って、パシリみたいで大変そう……。
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