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第四章 幸せの形

終話 猫姫様と狼王子

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『こうして、猫の家来と共にカフェを開いた猫姫様は、日々たくさんの王子様に愛されながら、平和に暮らしましたとさ。

 ⸺おわり⸺

 猫姫様と狼王子 作:リュカ』

 私はこの家に来てすぐくらいにリュカにもらった小説を閉じると、すぐにリュカの部屋の戸を叩いた。

「リュカ、リュカー?」
「なぁに、さくら。もうご飯かな」
 そう言ってリュカが部屋から顔を出す。

「リュカ、これ、更新される度にずっと読んでたんだけど……」
「あぁ、うん」
 リュカはそう相槌を打ちながらもクスクスと笑う。

「これ、実話なんだけど! 私の伝記になってるよ!?」
「バレた?」

「これってまさか一般公開されて……」
「さすがにしてないよ。でも、さくらが良いならしたいなって思ってる。どう?」
「どうって……ちょっとレオンに見せてくる!」
 私はリュカの部屋を後にし、そのままバルコニーへと躍り出る。

「レオン!」
「ん、どうしたさくら、オフの日くらいゆっくりしたらどうだ。ほら、ここ座れ」
 レオンはそう言ってあぐらをかいている膝をポンポンと叩いてくるので、とりあえず彼の膝へすっぽりとはまる。

「レオン、これ見て? んー、この辺がいいかな……」
「ん……? お前の日記か?」
「ううん、リュカが書いた私の伝記」
 私がそう言うと、レオンはふっと吹き出して、ペラペラとページを捲った。

「狼王子、セックスん時ドS過ぎねぇか? 俺こんなんしてねぇだろ」
「それは、リュカの想像だから……」

「猫姫もドM過ぎんな……ん? まさかお前、こういうプレイがしてぇのか? 何でこれ見せてきたんだ?」
「ち、違うそういう事じゃなくて……! リュカが一般公開したいって言うから、主役のモデルになってるレオンに許可取らなきゃって思って……」

「ふぅん……お前は、これ読んでキュンキュンしたのか?」
「……した。思えばレオンに拾われてからずっと幸せだったなぁって思う。もちろん今もだけど」
 私がそう答えると、レオンは再びふっと吹き出す。
「じゃ、良いんじゃねぇの。他のやつにも幸せ分けてやれば。一応モブの奴らにも見せて来いよ」

「モブって?」
「ジャンとかジェイミとか……」
「怒られるよ?」
「あくまでタイトルは『猫姫様と狼王子』なんだろ? なら他の王子は全員モブだな」

「うわ、そうやってレオンが言ってたって言ってくるもんねー!」
 私はレオンの膝から抜け出すと、今度は1階へと駆け下りる。

「あっ、さくら、お昼ご飯出来たからリュカとレオン呼んできてー」
 と、ルシオ。
「うん、えっと、その前にこれ……」

「なぁ、さくら、今度まとまった休み取ってみんなで誰かの実家に旅行に行こうぜ! 誰ん家が良いと思う?」
 と、ジャン。
「休みは取れても10匹のにゃんこのお世話どーすんの?」
「んなもんマルクスと虎丸に任せりゃ良いんだよ」
「あのねぇ、これ以上国王様をパシリに使わないで下さい」

「そういうさくらは最近虎丸のことパシり過ぎじゃない?」
 と、ジェイミ。
「そ、そうかなー……だって、虎丸さん呼んだらすぐ来てくれるんだもん……」
 私はえへへ、と笑って誤魔化す。

「この前嬉しそうな顔で猫砂抱えてカフェの階段を上がっていた虎丸を見かけた時はさすがの私でも笑ったな」
 と、クロード。
「そう言えば前に猫砂買ってきてって頼んだような……」

「絶対アイツ今マルクスの任務よりもお前のパシリの方が多いよな。1回くらい抱かせてやれよ?」
 と、ジャン。
「俺としてから3日は空けろ。すぐに上書きさせんな」
 レオンがリビングに入りながらそう割り込んでくる。
「3日経ったらいいの!? レオン寝取られみたいな性癖あるよね!?」

「僕はやだよー。もうこれ以上嫉妬の対象増やさないでー」
 ジェイミはそう言ってむくれている。

「ねぇお腹空いた、ご飯まだ?」
 リュカも合流する。

「あ、今出来たところだよ。みんな揃ったし、お昼にしよっか」
 ルシオがそう言ってエプロンを脱ぎ、テーブルへ料理を並べていく。

 結局モブの話すら出来なかった私は、また今度聞けばいっかと思い、ルシオの作った美味しいお昼ご飯を堪能するのである。

 クラン黒狼の牙は、今日も平和です。

⸺⸺おしまい⸺⸺
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