【完結】私、妖精王の娘ですけど、捨てちゃって大丈夫ですか?

るあか

文字の大きさ
19 / 19

終話 遅れてきた平穏-オベロン視点-

しおりを挟む
 それからはあっという間だった。ティニーの祖父であるエイムズ卿が人間族の代表として妖精族の代表である私との間で友好条約を締結。

 ディザリエ国王は今回の騒動以前から、その悪政により民からの信頼は皆無だった。そのため、国民らはその呪縛の解放に皆喜んでいた。
 残された王妃は何も知らなかったためとばっちりになってしまい可哀想であったが、彼女は王族としての責任を取りたいと言ってその地位を返却。実質上のディザリエ王国の滅亡である。その後腹を切る覚悟であったため、皆で全力で止め、その覚悟を新しい国のために役立ててもらえるよう、議員としての地位に着かせた。

 新しい国というのは“新生ユグドラシア共和国”の事である。
 世界樹と旧ユグドラシア領土の幻術を全て解き、我々妖精族は皆旧ディザリエ城下町へと移り住んだ。
 人間も妖精も耳の形が少し違うだけで見た目にほとんど差異はないため、両者の溝はすぐに埋まった。我々が図々しくも城下へ進出してきた事に人間側の不満はないかと心配もしたが、人間も人間で「今まで悪魔だと思っていて悪かった」と、反省する点はあったようだ。

 そして人間側からの要望で、邪心のない魔物らも城下に住んではどうかと言ってくれたので、希望する魔物のみ城下へと移り住んでもらった。魔物にとってヒトの社会での生活は初めてであったが、皆すぐにその暮らしを理解し、金を稼ぐために仕事を始めた。

 大きな熊の身体を持つジャイアントグリズリーは、その体格とパワーを活かして建築の職に就いた。
 ポイズンマッシュの毒は人間の研究のおかげで強力な回復薬になることが判明し、今では街で一番大きな道具屋のマスコットキノコである。
 中でも一番面白いと思ったのは、タナトス君の仕事だ。彼の職業は“悪夢の掃除屋”。悪夢に悩む人から依頼を受け、その悪夢を吸い取るのが彼の仕事だ。彼に悪夢を吸い取ってもらった人は皆ぐっすり眠れるようになり、その評判は口コミでどんどんと広がり、今では予約3ヶ月待ちの超人気店だ。

 国の方針は大統領と議会で決定され、私はそのどちらにも属していない。あくまで国を創っていくのはその国に住むヒトと魔物。そんな願いを込めて共和国という形にした。

⸺⸺あれから20年。

 ティニーは27歳になったが、見た目は人間の15、6歳といったところだろうか。人間族の容姿をしているが、我々妖精族と同じように長生きしそうだ。

 そして彼女は世界樹の麓にある“魔法・魔導開発研究所”の初代所長であり、彼女の自由気ままな開発によりこの島全体の暮らしは格段に豊かになった。

 島の上空でそんな想いにふけっていると、私の魔道通信器がピピピと鳴った。タッチをすると目の前の空間に画面が現れ、元気そうなティニーとタニアと“くまのぬいぐるみ”の顔がドアップで映った。
「お父様!? 今どこ!?」
「今か……今は空だね」
『おっ、空なら丁度良いじゃない』
「うん? 何かあったのかい?」
「うん、超ヤバイ魔導具が出来ちゃった!」
『超ヤバイです! クソヤバイです!』
 そう言ったのは世界樹の意思。今はくまのぬいぐるみにその意思を宿し、ティニーに命名され、“ユグ”と名乗っている。
「ティニー、ユグ。ヤバイという言葉は実に曖昧な言葉でね、どうヤバイのか説明してもらわないと……」

 やれやれ、全くうちの子は世界樹の語彙ごいをどんどん崩壊させていくんだから……。

「お父様ー!」
『オベロン様ー!』
『オベロンー!』

 そう呼ばれて下を見ると、私の背中についている羽とそっくりの羽を生やしたティニーが、くまのぬいぐるみを抱えてタニアと共に私の目の前まで飛び上がってきた。

「どう? お父様、お父様とお揃いの羽の魔導具だよ。ヤバイでしょ?」
 そう天使のように満面の笑みを浮かべる我が子を目の当たりにして、私の語彙も崩壊した。
「あぁ……クソヤバイな……」

 見ているかい、フィオナ。少し時間はかかってしまったが、君の望んだ共存という平穏は、今確かにここにあるようだ。

⸺⸺おしまい⸺⸺
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

(完)お姉様、婚約者を取り替えて?ーあんなガリガリの幽霊みたいな男は嫌です(全10話)

青空一夏
恋愛
妹は人のものが常に羨ましく盗りたいタイプ。今回は婚約者で理由は、 「私の婚約者は幽霊みたいに青ざめた顔のガリガリのゾンビみたい! あんな人は嫌よ! いくら領地経営の手腕があって大金持ちでも絶対にいや!」 だそうだ。 一方、私の婚約者は大金持ちではないが、なかなかの美男子だった。 「あのガリガリゾンビよりお姉様の婚約者のほうが私にぴったりよ! 美男美女は大昔から皆に祝福されるのよ?」と言う妹。 両親は妹に甘く私に、 「お姉ちゃんなのだから、交換してあげなさい」と言った。 私の婚約者は「可愛い妹のほうが嬉しい」と言った。妹は私より綺麗で可愛い。 私は言われるまま妹の婚約者に嫁いだ。彼には秘密があって…… 魔法ありの世界で魔女様が最初だけ出演します。 ⸜🌻⸝‍姉の夫を羨ましがり、悪巧みをしかけようとする妹の自業自得を描いた物語。とことん、性格の悪い妹に胸くそ注意です。ざまぁ要素ありですが、残酷ではありません。 タグはあとから追加するかもしれません。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

処理中です...