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18話 逃さない-オベロン視点-
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空を飛んでディザリエの城下町へと向かっていると、ある老夫婦が森へ馬を走らせているのを見つけた。
あれは、ティニーの祖父母のエイムズ卿とエイムズ夫人だ。そうか、彼らはティニーを探しに行っているのか。
彼らも心の内を確かめさせてもらったが、夫人はひたすらにティニーの心配を、エイムズ卿は同盟締結の心配ももちろんあったが、ティニーの身の安全と、エメリーヌにティニーを任せた事の後悔の念が大きかった。
ティニーがエメリーヌに引き取られる事になったのはフィオナの遺言であって、彼らの責任ではない。
私は手をパチンと鳴らし、森全体にかけてあった幻術をユグドラシア周辺のみに戻した。更に森の入り口に転移ゲートを施し、ティニーの居る世界樹の前へと繋げた。
彼らへの説明はその孫に任せる事としよう。
ひと仕事を終えて城下町の上空に辿り着くと、ピクシーらが『国王が民を捨てて逃げるぞ!』『自分のせいで森の民との同盟を結べなくなったのに、その罪を城下の民に擦り付けたらしいぞ!』と国民を煽りたてていた。
更には国王の『国も民もどうだっていい……』という致命的なセリフが街中に放送され、国民は「どういう事か」と、港へ逃げる国王と王太子を追いかけていた。
作戦は完璧だ。私は人間と仲良くする事をまだ諦めてはいない。フィオナが命をかけてやり遂げようとしてくれていた事だ。復讐の念に駆られて人間全てを滅ぼす……なんて事はしたくはない。
そのピクシーらの順調さを見送るとパチンと指を鳴らし、ディザリエ城の王太子の部屋へと空間転移した。
⸺⸺王太子の部屋⸺⸺
そこには恐怖の顔で倒れている密猟者と、うずくまっているタナトス君がいた。
「タナトス君、どうしたのだ!?」
『あっ、オベロン陛下。すみません、大した事ではないんです』
「何があった、言ってごらんなさい」
『ただ、ニンゲンの魂が……ものすごく不味くて、胃もたれしてるんです……』
そう言われて私はホッと安堵した。
「ははは、そうか、それはいい事だ。だってそうだろう? 本来タナトスにとってヒトの魂はご馳走でしかないはずだ。それなのに不味いと感じると言う事は、お前たち魔物も、人と共存出来る可能性が十分にあると言う事だ。不味いのに良く頑張ってくれた、ありがとう」
『あぁ……ありがとうございます、オベロン陛下。ボク、ティニー様とはお友達で居たいですから、そう言ってもらえると、励みになります』
タナトス君の顔は赤く光る一つ目のみなので表情は分からなかったが、なんだか嬉しそうに感じた。
「うむ、ぜひとも仲良くしてやってくれ。では、私はこの男と一緒に国王の乗る船へと先回りするから、また後で」
『はい、後はお願いします』
私は頷き返事をすると、男の横たわる地面に魔法陣を展開し、一緒に船へと転移した。
⸺⸺ディザリエ王家の船⸺⸺
甲板に男を寝かせ、姿を消してマストのてっぺんで様子をうかがっていると、必死の顔の国王と王太子が船へと転がり込んできた。追い立てる国民は皆プンスカしており、船まで押し掛けようとしている。
そんな彼らを排除しようと、王太子は船に設置された大砲を港へ向け、ためらうことなく発射した。クズ野郎、そこまで腐っていたか。私は助けに入ろうとしたが、ある気配を感じ、手を出すのをやめて傍観に徹した。
国民は皆悲鳴を上げて港から距離を取ろうとするが、射程範囲からは逃れられそうにない。そこへ私の感じた気配の正体であるピクシーらが透明化を解き砲弾の前へと立ちはだかり、風の刃で砲弾を粉々に切り裂いた。
「おぉ……何か小さいのが助けてくれたぞ!」
「妖精みたいで可愛いわ! まさか、森の民ってあなたたちの事なの?」
『うーん……そうっちゃそうだけど、違うっちゃ違うのよねぇ……』
タニアは何を言ってるんだか。だが、これで人間に邪心のない魔物の理解を得るのも容易そうだ。
大砲は不発に終わったものの、国王らはそのすきに船を出港させた。
国民はカンカンだがこれでいい。きっとタニアが『ああいう悪い奴には天罰が下るんだから見てなさいよね』とか言ってなだめてくれている事だろう。
王太子が甲板に横たわる男を見つけ発狂していたが、もうそんな事はどうでもいい。別に驚かせるためではなく、残されても処理に困るからこの船に乗せただけだ。ちなみにエメリーヌの身体はポイズンマッシュの毒で最終的に灰になるから放置でOKだ。
愚かな親子よ、逃げられると思ったか。逃すはずがないだろう。
私はマストから飛び上がり、船が港を離れて沖に出たのを確認すると、空へと手を伸ばし、雷の魔法を放った。
「サンダーストーム!」
急速に生み出された黒い雲から特大の落雷が船へと降り注ぐ。あえて人には当てず、船を真っ二つにしてやった。即死なんてつまらない。エメリーヌ同様苦しみもがきながら死んでいくがいい。
さて、このまま私が港へ戻ったら恐怖の象徴となってしまう。
「タニア、私だ、オベロンだ。港の様子はどうだ?」
『ウチが天罰下るから見てなさいって言ったら、本当に天罰が下ったー! って、みんな盛り上がってますよ。こっちはウチらに任せてもらって大丈夫です』
「そうか、ありがとう。あぁ、任せた。なるべく仲良くなっておいてくれ」
私はタニアとの通信を切ると、空間転移で世界樹へと帰還した。
あれは、ティニーの祖父母のエイムズ卿とエイムズ夫人だ。そうか、彼らはティニーを探しに行っているのか。
彼らも心の内を確かめさせてもらったが、夫人はひたすらにティニーの心配を、エイムズ卿は同盟締結の心配ももちろんあったが、ティニーの身の安全と、エメリーヌにティニーを任せた事の後悔の念が大きかった。
ティニーがエメリーヌに引き取られる事になったのはフィオナの遺言であって、彼らの責任ではない。
私は手をパチンと鳴らし、森全体にかけてあった幻術をユグドラシア周辺のみに戻した。更に森の入り口に転移ゲートを施し、ティニーの居る世界樹の前へと繋げた。
彼らへの説明はその孫に任せる事としよう。
ひと仕事を終えて城下町の上空に辿り着くと、ピクシーらが『国王が民を捨てて逃げるぞ!』『自分のせいで森の民との同盟を結べなくなったのに、その罪を城下の民に擦り付けたらしいぞ!』と国民を煽りたてていた。
更には国王の『国も民もどうだっていい……』という致命的なセリフが街中に放送され、国民は「どういう事か」と、港へ逃げる国王と王太子を追いかけていた。
作戦は完璧だ。私は人間と仲良くする事をまだ諦めてはいない。フィオナが命をかけてやり遂げようとしてくれていた事だ。復讐の念に駆られて人間全てを滅ぼす……なんて事はしたくはない。
そのピクシーらの順調さを見送るとパチンと指を鳴らし、ディザリエ城の王太子の部屋へと空間転移した。
⸺⸺王太子の部屋⸺⸺
そこには恐怖の顔で倒れている密猟者と、うずくまっているタナトス君がいた。
「タナトス君、どうしたのだ!?」
『あっ、オベロン陛下。すみません、大した事ではないんです』
「何があった、言ってごらんなさい」
『ただ、ニンゲンの魂が……ものすごく不味くて、胃もたれしてるんです……』
そう言われて私はホッと安堵した。
「ははは、そうか、それはいい事だ。だってそうだろう? 本来タナトスにとってヒトの魂はご馳走でしかないはずだ。それなのに不味いと感じると言う事は、お前たち魔物も、人と共存出来る可能性が十分にあると言う事だ。不味いのに良く頑張ってくれた、ありがとう」
『あぁ……ありがとうございます、オベロン陛下。ボク、ティニー様とはお友達で居たいですから、そう言ってもらえると、励みになります』
タナトス君の顔は赤く光る一つ目のみなので表情は分からなかったが、なんだか嬉しそうに感じた。
「うむ、ぜひとも仲良くしてやってくれ。では、私はこの男と一緒に国王の乗る船へと先回りするから、また後で」
『はい、後はお願いします』
私は頷き返事をすると、男の横たわる地面に魔法陣を展開し、一緒に船へと転移した。
⸺⸺ディザリエ王家の船⸺⸺
甲板に男を寝かせ、姿を消してマストのてっぺんで様子をうかがっていると、必死の顔の国王と王太子が船へと転がり込んできた。追い立てる国民は皆プンスカしており、船まで押し掛けようとしている。
そんな彼らを排除しようと、王太子は船に設置された大砲を港へ向け、ためらうことなく発射した。クズ野郎、そこまで腐っていたか。私は助けに入ろうとしたが、ある気配を感じ、手を出すのをやめて傍観に徹した。
国民は皆悲鳴を上げて港から距離を取ろうとするが、射程範囲からは逃れられそうにない。そこへ私の感じた気配の正体であるピクシーらが透明化を解き砲弾の前へと立ちはだかり、風の刃で砲弾を粉々に切り裂いた。
「おぉ……何か小さいのが助けてくれたぞ!」
「妖精みたいで可愛いわ! まさか、森の民ってあなたたちの事なの?」
『うーん……そうっちゃそうだけど、違うっちゃ違うのよねぇ……』
タニアは何を言ってるんだか。だが、これで人間に邪心のない魔物の理解を得るのも容易そうだ。
大砲は不発に終わったものの、国王らはそのすきに船を出港させた。
国民はカンカンだがこれでいい。きっとタニアが『ああいう悪い奴には天罰が下るんだから見てなさいよね』とか言ってなだめてくれている事だろう。
王太子が甲板に横たわる男を見つけ発狂していたが、もうそんな事はどうでもいい。別に驚かせるためではなく、残されても処理に困るからこの船に乗せただけだ。ちなみにエメリーヌの身体はポイズンマッシュの毒で最終的に灰になるから放置でOKだ。
愚かな親子よ、逃げられると思ったか。逃すはずがないだろう。
私はマストから飛び上がり、船が港を離れて沖に出たのを確認すると、空へと手を伸ばし、雷の魔法を放った。
「サンダーストーム!」
急速に生み出された黒い雲から特大の落雷が船へと降り注ぐ。あえて人には当てず、船を真っ二つにしてやった。即死なんてつまらない。エメリーヌ同様苦しみもがきながら死んでいくがいい。
さて、このまま私が港へ戻ったら恐怖の象徴となってしまう。
「タニア、私だ、オベロンだ。港の様子はどうだ?」
『ウチが天罰下るから見てなさいって言ったら、本当に天罰が下ったー! って、みんな盛り上がってますよ。こっちはウチらに任せてもらって大丈夫です』
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