ちびっこ錬金術師の恩返し

るあか

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1巻

1-2

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 昼過ぎ。二階のダイニングでエミリアのくれたミートパイをいただいた。

「美味しかった~! ごちそーさま!」

 お父さんはひと足先に食べ終わって一階でお仕事をしているので、からになったバスケットがポツンと残る。
 よし、僕がエミリアに返しに行こう!
 僕はバスケットを持って一階へと駆け降りた。くろすけも慌ててついてくる。
 一階では、お父さんがお客さんの接客をしていた。

「回復薬十個ですね。では、薬草を十個と錬金代の500クレドをお願いします」

 クレドというのは、この世界の通貨つうかのことだ。

「はいよ、これで頼むよ」

 お客さんはそう言ってカウンターの上に薬草十枚と100クレドコインを五つ置いた。ガタイが良く腰に剣をたずさえている、優しそうなおじさんだ。

「はい、確かに。では、すぐに錬金して参りますのでそちらでかけてお待ちください」
「はいよー」

 お客さんはお父さんに言われた通りに窓際のベンチに腰掛けた。
 そんなタイミングで、お父さんが僕に気付く。

「……っと、ノエルどうした? ごめんな、パパ今、いそがしくてな……」
「あのね、全部食べたから、これ、エミリアに返してくる!」

 僕はそう言ってバスケットを高くかかげた。

「おぉ、マジか。助かるよ。隣だから大丈夫だとは思うけど、気をつけて行ってくるんだぞ?」
「うん、大丈夫だよ!」
ぼうや、おつかいか。えらいなぁ」
「うん、僕えらいもんね♪」

 お客さんの言葉にそう言ってニッと笑うと、僕はグランキャットを飛び出した。

「にゃぁ!」

 くろすけも一緒になって飛び出してくる。外にまでついてきてくれるんだ。
 よいしょ、よいしょと入り口の扉を押して道具屋の中へと入る。力がないから扉が開くのがゆっくり過ぎて、呼び鈴もゆっくりカラン……コロン……と鳴った。

「まぁ、ノエル君! くろすけまで!」

 エミリアは僕に気付くと、すぐにカウンターから出てきてくれた。

「エミリアー! ミートパイ、美味しかった! これ、ありがと!」

 エミリアに空のバスケットを差し出す。

「ありがとう、ノエル君。まぁ、ちょっと食べにくかったかしらね? 大事なお洋服にパイ生地きじがたくさんこぼれているわ」

 エミリアはそう言って、僕の服を優しくサッサッと払ってくれた。

「うわぁ、ほんとだ。エミリア、ありがとう!」

 僕は恥ずかしくてえへへ……とはにかんだ。

「ふふ、どういたしまして。さぁ、ノエル君、くろすけ、ちょうどお客さんも誰も来ていないし、一緒にパパのところへ帰りましょう」

 そう言って自然に僕の手を取るエミリア。
 あれ、なんか……お母さんと手を繋いでいるみたい。エミリアからは、そんな温かさを感じる。
 前世では、こんなふうにお母さんに手を繋いでもらった記憶がない。

「うん……」

 慣れていないからか、少し緊張きんちょうする。それでも僕は、エミリアの細い指をギュッと握り返して、くろすけと共に無事グランキャットへと送り届けてもらうのであった。



 5話 姉御肌あねごはだな冒険者


 ――ある日の昼下がり、錬成堂グランキャットにて。
 お客さんが落ち着いてきたため、お父さんはカウンターにひじを突いてボケーっとしている。
 僕は店内の片隅でくろすけをブラッシングしてあげていた。

「くろすけ、いい子、いい子~」
「ごろにゃぁ~」

 僕のブラシの力加減がちょうどいいのか、くろすけは気持ち良さそうにゴロンゴロンと寝返りを打っていた。
 カラン、コロン。

「いらっしゃ……なんだ、アイラか」

 お客さんが来たかと思い一瞬いっしゅん反応するお父さんだったが、入ってきた人物を見るなり気怠けだるげな口調に変わった。

「ちょ、アタシ、客として来たんだけど!?」

 赤髪あかがみのポニーテールのえる、引き締まった筋肉の女性。彼女はアイラ・ツユシロ。リオンと共にお父さんのお店の素材集めを引き受けてくれている冒険者だ。
 大きなおのを背負っているから、きっと相当力持ちだろう。
 お父さんの素材集めを手伝ってくれている人はもう一人いて、三人合わせて『黒豹くろひょう』という名前の冒険者パーティを組んでいる。

「アイラ! いらっしゃい!」

 お父さんの代わりに僕がそう笑顔で迎えると、アイラは元気よくニッと笑顔を返してくれた。

「ノエル! アンタはパパと違って優しいね~」
「はいはい。で、錬金代行か? 錬成か?」

 やる気なさそうにそう尋ねるお父さん。
 ちょっと、もっと丁寧に接客して!?
 アイラはそんなお父さんの態度なんて気にもとめないで、かわのグローブをカウンターの上に置いた。

「これに防御の錬成をほどこしておくれよ」
「了解。うけたまわりました」

 お父さんはアイラの革のグローブを持って、錬金部屋へと消えていった。

「さぁて、なんか代行もしてもらおうかねぇ……」

 アイラはそう呟いて、カウンターに置いてあった錬金代行用のアイテムの素材リストを手に取った。

「あっ、アイラ! それ、僕も見たい!」
「ん? いいよ、こっちで一緒に見ようか」

 アイラがお客さん用のベンチに腰掛けて、僕に隣に座るよううながす。

「うん、アイラ、ありがと!」
「にゃ♪」

 僕がベンチに座るとくろすけも僕の膝に乗ってきたので、みんなで一緒に素材リストをながめた。
 どれどれ……回復薬を作ってもらうためには薬草と50Cか。そういえばこの前冒険者のおじさんが十個一気に頼んでいたな。
 僕がマジマジと見つめていると、アイラは「あぁ、そうだ、ごめんごめん」と何かを思い出したように、こう続けた。

「この一番上のアイテムは回復薬って言って、薬草とお金をパパに渡すと作ってくれるんだよ」

 あっ、僕が字を読めないと思って……アイラは面倒見めんどうみがいいなぁ。

「僕、回復薬、知ってるよ! なんで飲み物なのに、やくそーだけでできるの?」
「そっか、回復薬はいつも見てるもんね。実は飲み薬の錬金には綺麗な水と空きビンが必ずいるから、ここには書いていないだけなんだ。だから、薬草だけじゃなくてお水も必要なんだよ」

 薬草と水と空きビンで、回復薬ができるんだ……! 面白そう……!

「いいなぁ、僕、回復薬作ってみたいなぁ……」

 思わずれ出す本音。アイラはそれを聞きのがさなかった。

「なんだい、ノエルも錬金術師になりたいのかい?」
「あっ、うん……パパには秘密ひみつだよ?」
「なんで秘密なのさ?」
「えー、恥ずかしいから!」

 僕はそう言って笑って誤魔化ごまかす。くろすけには錬金術師になりたい理由をサラッと言えたけど、人に言うのはなんだか恥ずかしい。

「あっはっは、そうかい、そうかい。それなら、錬金鍋れんきんなべはまだ難しいだろうし、パパも危ないからって使わせてくれないかもだから……これ、アタシと一緒にりに行ってみるかい?」

 アイラはそう言って素材リストの『薬草』を指し示した。

「えっ、やくそーを!?」

 心がおどる。
 薬草を採りに行くなんて……冒険だ!

「ノエルのパパはさ、アタシらみたいな冒険者をやとっているから自分では素材の採取には行かないけど、採取から自分でやる錬金術師もいるんだよ。冒険者をしながら錬金術師として生活しているやつだね」
「えーっ! 楽しそう! 僕、行きたい!」
「よーし、アタシに任せな!」

 アイラは、お父さんが錬成を終えてカウンターに戻ってくると「ノエルが暇そうだから近所の簡単な素材集めに連れてってあげる」と上手うまく説明をしてくれた。
 お父さんは少し心配しつつも「今はなんでも興味を持つ時期だからな。それなら、頼むよ」と了承してくれた。
 僕はうわぁーい、と飛び跳ねて喜んだ。
 近所の森は弱い魔物しかいないけど、一応念のためもう一人の黒豹のメンバーであるジャックも誘うことに。
 お父さんも「ジャックもいるなら安心かもな」とのこと。ちなみにリオンは王都に帰っていて今日は不在だ。
 そしてもちろんくろすけも僕からピッタリ離れることなくついてきた。
 こうして僕とアイラとくろすけは冒険に出掛けるのであった。



 6話 魔物より魔物


「ぼうけん、ぼうけん、初めての冒険~♪」
「にゃぁ♪」

 僕はルンルンで町の大通りを歩く。
 町の外に出るなんて、生後半年の頃にお父さんに拾われてザイラール王国からこのブライアの町まで来た時以来だ。しかもあの時はずっとお父さんに抱っこされたままだった。
 でも、今は違う。自分で歩いて町の外の森に行って、薬草を採取するんだ♪
 ひとまず僕のもう一人の用心棒を確保するために町の酒場『黒猫亭くろねこてい』へと入る。


「さかばー! くろすけも入っていいの?」
「あぁ、いいよいいよ。ペットなら動物でも魔物でもおっけーだよ」

 アイラはそう言って、ズンズンと奥へと入っていった。
 広いフロアにたくさんの木製のテーブルセットが置かれており、奥にはマスターのいるカウンター席があった。
 なんだか酒場に入っただけで、もう冒険者になった気分だ。
 僕とくろすけもアイラに続いて酒場の奥まで走っていき、アイラよりも早く、カウンターに座ってチキンにかぶりついている大男にタッチした。

「ジャックー!」
「んお!? ノエルじゃねぇか! どした、迷子まいごかよ?」

 こんがりと日に焼けた褐色かっしょくの肌に、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの巨体。ジャックの隣に立てかけてある大剣ですら、僕よりもずっと大きい。

「違うよ、ジャック、やくそー採りに行くよ!」
「あ? 薬草だぁ?」

 まるでチンピラのような口調で問い返してくるジャック。そんな彼に、アイラが事情を説明してくれた。

「んだよ、ただのお守りに俺を巻き込むんじゃねぇよ。ったく、しゃーねぇなぁ……」

 ジャックは文句を言いつつも急いでチキンを食べ終えた。しかも僕にも一口くれた。
 なんやかんやジャックが仲間に加わってくれた。
 僕はマスターにバイバイと手を振って酒場を後にする。そして、走って町を出るのであった。


 町から大平原へと出て、街道かいどうには入らずにすぐ南のカルムの森へと足を踏み入れた。
 すると、早速スライムが「キューッ!」と鳴きつつ飛び出してきた。

「あっ、スライムだー! 可愛い!」

 キャッキャと喜ぶ僕を背に、ジャックは悪魔の形相ぎょうそう無慈悲むじひに大剣を振るった。

「邪魔だ、雑魚ざこが、いちいち出てくんな!」
「キュ~……」

 スライムはお目目を『××』にしながら、呆気あっけなく消えてしまった。

「あぅ……スライム……かわいそ……」

 ジャックって、雰囲気ふんいき怖いから魔物よりも魔物に見えるんだけど……。良く言えば『ワイルド』、悪く言えば『チンピラ』って感じ。

「あっ、ノエル、スライムゼリーがドロップしたよ。拾ってこん中入れておいで」

 アイラはそう言って麻袋を僕に渡してくれた。
 確かに、スライムがいたところにぷにぷにのアイテムが落ちている。

「うん!」

 しゃがんでスライムゼリーをツンツンと突いてみると、プリンのようにプルルンッと震えた。
 た、楽しい……!
 くろすけも一緒になってベシッと猫パンチをする。
 そして、つかんでみるとひんやりと冷たい。けてゼリー状になった保冷剤ほれいざいみたいな感じだ。

「わーい! スライムゼリー、捕まえたー!」
「にゃぁー♪」

 何に使うのかは知らないけど、嬉しい。僕はスライムゼリーを大事に麻袋へと入れた。

「おら、テメェはこれを採りに来たんだろうが。これが薬草だ」

 ジャックは大剣の先で道端に生えている薬草をちょんちょん突く。もう、せっかちなんだから。

「うん! やくそー!」

 僕はしゃがんで薬草をプチッともぎ取ると、それも麻袋へ入れた。
 要領ようりょうが分かった僕は、調子に乗って薬草を集めまくる。すごい、薬草ってそこら中にたくさん生えているんだ。

「アイラとジャックとリオンは、いつもこーやってパパの素材、集めてるの?」
「そうだねぇ。ここは初級の素材しか採れないからあんま来ないけど、森とか洞窟どうくつとかで集めることが多いよ。そんで、リオンが毎朝アタシらの分もまとめて納品しにいってくれるんだ」
「すごい! いつも、ありがとー!」
「何がいつもありがとうだ。ガキのくせに偉そうなこと言ってんじゃねぇ」
「えぇ……」

 ジャック……感謝したのになぜ怒ってる? すると、アイラがジャックのお尻に思いっ切りりを入れた。

「いってぇ!」
「ごめんよ、ノエル。どういたしまして」

 アイラは申し訳なさそうに僕に向かって手を合わせた。

「あはは……だいじょぶ……」
「さて、んじゃ、最後にそこのき水でもんで帰るかね。これで、回復薬セットの完成だ」

 アイラがそう言って指差した岩はお椀型わんがたにえぐれており、水がこんこんと湧き出ていた。

「うん! 僕がやりたい!」
「はいよ」

 アイラに空きビンをもらい、コルクせんをきゅぽっと外して水を汲んだ。

「できたよ!」
「あーぁ。ノエル、服びしょびしょになっちゃったね」

 うつむくと、服のお腹の辺りの色が変わってしまっていた。

「あぅ……」
「そうだ、ふふん、いいこと思いついちまったよ」

 アイラはそう言って僕の脇を持って抱き上げると、僕をジャックの後頭部へと押しつけた。

「なっ、冷て!?」
「ほら、ジャック、ノエルもう疲れたってさ。肩車かたぐるましてやりなよ」
「ふざけんなよ、クソッ、髪びしょびしょじゃねぇか! ……ったく、しょーがねぇなぁ。しっかり掴まってろよ」

 ジャックは僕の足を掴んで僕が落ちないようにしてくれた。やっぱりジャックは口が悪いだけで、優しい。

「わーい、ジャック、ありがと!」

 僕がうれしくなってジャックの髪をギュッと握って引っ張ると、彼は「おいこらクソガキ! 髪引っ張んじゃねぇ、禿げたらどうすんだよ!」とブチギレていた。

「あぅ……ごめん……」


 日も暮れる頃。無事に錬成堂グランキャットへ帰還すると、お父さんが上回復薬を小さな木箱にたくさん入れて待っていた。

「パパー! ただいまー!」
「おかえりノエル。初めての採取はどうだった?」

 お父さんはそう言って僕を抱き上げてくれるが、すぐに「冷てっ!?」と言う。

「あのね、やくそーたくさん採ったし、スライムゼリーもゲットした!」

 僕は満面の笑みでそう答える。お父さんは「そうか、良かったなぁ」と頭を撫でてくれた。

「アイラ、ジャック、これ、持ってってくれ。ノエルが世話になったな」

 そう言って小さな箱を差し出すお父さん。

「なんだい、アタシが勝手に言い始めたことなんだから、そんな気、つかうんじゃないよ」
「んだてめぇ、らねえのか? なら、俺が全部もらっていくわ。ありがとよ」

 ジャックはお父さんから木箱をひょいっと取り上げると、そそくさと出て行ってしまった。

「あっ、こら! 誰も要らないなんて言ってないんだよ!」

 プンプンのアイラも、ジャックの後を追うようにお店から出て行った。

「忙しいやつらだなぁ……」
「なぁー」
「にゃぁー」

 僕が採取した薬草と湧き水の入ったビンはお父さんにプレゼント。
 スライムゼリーは記念に専用の木箱に入れて、寝室に置いた。
 それ以来僕は、暇さえあれば用途の分からないスライムゼリーをぷにぷにして遊ぶようになった。
 そんな僕たちにしのび寄る怪しい気配があることを、この時の僕たちはまだ知らない。



 7話 納品数が足りない?


 ある日の朝。
 いつものようにリオンに道具屋納品分の木箱を持って行ってもらう。
 だが、彼はすぐにエミリアを連れて錬成堂グランキャットへと戻ってきた。

「エミリア、おはよー! あれ、リオン、また来た?」
「おはよう、ノエル君」

 エミリアは優しく微笑む。

「ん? エミリアさん、おはざっす」

 お父さんがカウンターからひょこっと顔を出す。安定のかくれんぼだ。

「ジルさん、おはようございます。すみません、さっき納品していただいたアイテムなのですが、回復薬が、二十個程足りなくて……」

 エミリアは申し訳なさそうにそう言った。

「えっ、二十個!?」

 目をぱちくりとさせるお父さん。僕もびっくりだ。納品数が足りないなんて、僕がここに来て以来初めてのことだった。

「俺もエミリアさんと一緒に何度も確認したんだけど、マジで八十個しかなかったんだよな……」

 と、リオン。
 なんてこった。回復薬は毎日百個納品。毎日売り切れるらしいから、百個用意するのはマストなはずだ。

「すみません、余分に生成していないでしょうか……?」

 あくまでも申し訳なさそうなエミリア。怒っている訳じゃないのは明らかだ。

「すみません、いつもぴったりの生成で余分はありません。今回もいつも通り百個作ったつもりだったのですが、本当にごめんなさい。不足の二十個分、生成でき次第持っていきます」

 お父さんは恐縮きょうしゅくしながら謝った。

「あぁ、こちらこそすみません。ジルさん、開店後はお忙しいでしょうに……」
「いえ、ミスしたのはこちらなので……」
「俺、急いで追加の素材採ってくるわ!」

 リオンはそう言ってお店を飛び出して行った。

「では私もこれで。ご無理なさらない程度で大丈夫ですので」

 と、エミリアもお店を後にした。

「んぁー、百個生成したと思ったんだけどなぁ。おっかしいな……まさか俺、まだ三十五なのにもうボケが始まって……!? はぁ、錬金するか……」

 お父さんはトボトボと錬金部屋へと入っていった。

「パパ……」

 お父さん、大丈夫かな。心配で錬金部屋を見つめていると、くろすけが「ごろにゃ~」と鳴いて擦り寄ってきた。心配するなと言ってくれているようだ。

「くろすけ、いい子、いい子~」

 くろすけの頭を撫で撫ですると、くろすけは目を閉じて幸せそうに僕の手のひらに頭を押し付けてきた。


 ――何はともあれ閉店後。
 お店の合間になんとか追加の納品分と、閉店後に明日の納品分も生成し終えたお父さんは、もうヘトヘトになっていた。
 それでも僕やくろすけのお世話をしてくれて、ベッドに入ると耳栓をしてすぐに死んだように眠りについた。

「パパ、いい子、いい子。お疲れ様」

 お父さんの頭を撫で撫ですると、僕もお父さんのベッドに潜り込んで一緒に眠った。


『ノエル! おい、起きんかノエル! 全く、そろそろ発現してもいい頃じゃろうて。緊急事態じゃ、ノエル! 起きろこのドチビおたんこナス!』

 誰!? 僕の頭の中に直接、雑な悪口を言ってくるのは!?
 ガバッと身体を起こすと、真っ暗な視界の中で黄色いお目目が二つキラーンと光っているのを見つけた。

「くろすけ……?」
『おぉっ、ようやく通じたか……! このタイミングで超能力のスキルが発現したのはデカい!』
「超能力……?」

 なんかくろすけが僕の頭の中に直接意味分かんないことを言ってくる。超能力のスキルが発現? 何を厨二病ちゅうにびょうみたいなことを……。

「ぐるにゃ!」
『そうじゃった、今はそんなことは後じゃ! とにかく一階の店へ急ぐのじゃ!』

 一体何が何やら……。ていうかくろすけ、なんで話し方そんなにジジくさいの……? ちょっと、思ってたのと違ったかも。

『何をボサッとしておるのじゃ! いいから早くついてこんか!』

 くろすけはそう言って「シャーッ」と威嚇いかくした。

「わ、分かったよ……!」

 とにかく緊急事態らしいので、僕は急いでお父さんのお布団からよいしょっと這い出た。その時に、お父さんの腕をちょっと踏んでしまう。

「あっ、パパ、ごめ……」
「うーん……」

 お父さんはうなって寝返りを打つ。大丈夫、起きなかったみたい。

「くろすけ、待ってー!」

 慌ててくろすけの後を追いかけて、慎重しんちょうに足踏みしながら階段を降りる。足をすべらせたら危ないからね。
 ――時刻は午前二時過ぎ。
 僕が一階のお店にたどり着くと、くろすけが一匹の子猿こざるにシャーッと威嚇をしているところだった。

「えっ、なんで猿!?」

 子猿だけではない。お店の床には変な模様もようの魔法陣が妖しく光っていた。
 シャーッと威嚇をしながら飛び掛かるくろすけ。しかし、子猿はぴょんと跳ねてくろすけの攻撃をかわしてしまう。

「ウキキッ、ウキャッ♪」

 あろうことかこっちに向かって、お尻ペンペンをしている。
 そして、子猿はそばに落ちていた巾着きんちゃくを拾って魔法陣の中へと飛び込む。
 すると子猿ごと魔法陣が消えてしまった。


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