混沌の赤い薔薇

猫町氷柱

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第一章 異物殲滅部隊

2.亡命の要塞本部ラグナローム

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 私は青いマントを羽織った少年に消されかけ、ギリギリのタイミングで駆けつけたレインのおかげで助かり、今夜も本部のベッドで寝ることが出来る。だが、あのことが脳裏から離れずとても眠る気にはなれない。
  それに私にはもう一つ眠れない要因があった。それはこの本部が常に動いているからだ。
  我らがFEU(異物殲滅部隊)の本部が置かれているラグナロームは動く巨大戦艦。地表を走っているのだ。人類は一度、消滅しかけ地表は荒廃し、荒れ地が広がった。そこには機械兵や悪魔憑きと化した自我を持たない人々が徘徊をし生けるものの住処は遠くに追いやられていった。
  だが、人々は諦めずに終の廃村、ドレーナ二ベルで対抗手段を模索した。悪魔憑きに堕ちなかった優秀な建築家、技術者を集め必死な思いで完成させたのがこのラグナノームである。
  大筒が4つ搭載された巨大な戦艦は今日も荒野を走る。1つ問題なのは私が船酔いに陥りやすい点だ。今日も気持ち悪くなって寝れたものではない。
 少し夜風に当たろうと寝間着の上に黒のパーカーを羽織った。ケトルでお茶を沸かしゆっくりと飲んだ後、戦艦のデッキに向かった。空には満月が浮かび穏やかな風が私の髪を靡かせた。
 外はこんなに穏やかなのに今日起きたこと、私が遭った悲劇を思えば今、起きていることは夢なんじゃないかって思わされる。私の両親を奪ったあの憎い花、ターミナル頂上に咲く一輪の巨大薔薇。あれを焼き尽くすためだったらこの命投げうってでも構わない。その時、デッキに来客がやってきた。
「あらあら、アンナさんごきげんよう。今日は散々な目に遭われたようで」
 扇子を口元に当て嫌らしい目つきで私を威嚇する。私の事を何かと目の敵にして競り合ってくるどこかの令嬢シルビア=アーネスト。ピンクの長い髪に先端にウェーブがかかっている。正直、今は面倒くさいし適当に流して帰ってもらいたいところだ。
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