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最終回 悪女は、感謝する
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わたしは、すべてを着替えて解散した後、カロリーヌを探した。……が、むこうから、迎えに来た。カロリーヌとおそらく、証人にするための3人、そして……フレデリク様だった。
「これまで、お待たせしましたわね」
「最近、うまく眠れないんですの」
「まあ……」
睡眠に、支障があるようには、見えないが、人は見ただけでは分からない。
「カロリーヌ様、謝罪しますわ」
カロリーヌのこんなに生き生きとした顔を見たことがあっただろうか。
わたしは、この因縁への終わりの呪文を唱える。
「わたしの言動や存在が」
彼女が、なぜ、わたしにかまうのか、人を引き連れているのか。
自分の振る舞いを評価してくれる人がいたことを通して、分かってしまったのだ。
そして続ける。
「あなたの劣等感を刺激していたことを」
「な、なにをっ……!!!!!!」
カロリーヌは、顔を真っ赤にして、引きつらせて近づいてくる。
「やめ……るんだっ!」
振り上げた手のひらが、振り下げられる瞬間に、フレデリク様が腕をつかんで止めた。
「フレデリク様……!?」
フレデリク様は、顔色を変えて、おろおろとしている。3人組もおろおろとすることしかできない。彼女が暴力に走った以上、もう何もできないだろう。
(……こんなことに頭が回る自分が嫌だ)
そして、わたしは距離をとった。
「怒らせてしまってすいません。でも……」
わたしは、きっと曇りない瞳をしていると思う。
「わたしに、大事なものを思い出させてくれて、ありがとうございます」
「なっ……」
カロリーヌは、まだ、怒りが目に浮かんでいる。
「本当は、わたしは、自分のできることをして、人の役に立って、もっとできるようになりたかったんですの!」
「あなたのおかげですわ」
わたしの敵は、人じゃない。相手に対して、誠意もなく、風見鶏をしていた自分だった。
「……さようなら」
誰に言ったかは分からなかった。
◇◇
その場を後にして、校門に行くと、アリスランが待ってくれていた。
「ティア!?」
「どうかされました?」
「顔が、涙でぐしゃぐしゃになってる」
ハンカチを差し出してくれたが、自分のもので拭いた。
「全然、気付いていませんでしたわ……」
「何があったの?」
どこから話せばいいのか分からず、考え込んでしまった。
「殿下が……手をつないだままでは、他のこともできないと、おっしゃいましたね」
「ああ」
「わたし、婚約してから、誰かとずっと手をつないでいたくて、何もしないで生きてきたんだと思いました」
「うん」
「フレデリク様が、わたしのことをさっき、はっきりとはお話しできませんが、守ってくださったんですの」
「なにか……あったんだね」
「はい……彼が……守ってくださったのは、これまでのわたしが、なにか出来たから……守ってくれたという未来につながったのかなっておもったんですの」
「うん……」
「だから……今もうぐちゃぐちゃでわからないけれど、お互いを大事に思えた時があったっていう事実はきっとあると……そう思えたんですの……」
わたしはまた泣きだした。
「妬いちゃうな」
そう言ってアリスランは、彼のハンカチで拭ってくれた。
「今日は、送っていくだけにさせて」
「ありがとうございます……」
「でも、今度、ちゃんと話させてね」
「もちろん!」
私は笑顔で返した。
ティアが、立派な女性になるのは、また別のお話し。
「これまで、お待たせしましたわね」
「最近、うまく眠れないんですの」
「まあ……」
睡眠に、支障があるようには、見えないが、人は見ただけでは分からない。
「カロリーヌ様、謝罪しますわ」
カロリーヌのこんなに生き生きとした顔を見たことがあっただろうか。
わたしは、この因縁への終わりの呪文を唱える。
「わたしの言動や存在が」
彼女が、なぜ、わたしにかまうのか、人を引き連れているのか。
自分の振る舞いを評価してくれる人がいたことを通して、分かってしまったのだ。
そして続ける。
「あなたの劣等感を刺激していたことを」
「な、なにをっ……!!!!!!」
カロリーヌは、顔を真っ赤にして、引きつらせて近づいてくる。
「やめ……るんだっ!」
振り上げた手のひらが、振り下げられる瞬間に、フレデリク様が腕をつかんで止めた。
「フレデリク様……!?」
フレデリク様は、顔色を変えて、おろおろとしている。3人組もおろおろとすることしかできない。彼女が暴力に走った以上、もう何もできないだろう。
(……こんなことに頭が回る自分が嫌だ)
そして、わたしは距離をとった。
「怒らせてしまってすいません。でも……」
わたしは、きっと曇りない瞳をしていると思う。
「わたしに、大事なものを思い出させてくれて、ありがとうございます」
「なっ……」
カロリーヌは、まだ、怒りが目に浮かんでいる。
「本当は、わたしは、自分のできることをして、人の役に立って、もっとできるようになりたかったんですの!」
「あなたのおかげですわ」
わたしの敵は、人じゃない。相手に対して、誠意もなく、風見鶏をしていた自分だった。
「……さようなら」
誰に言ったかは分からなかった。
◇◇
その場を後にして、校門に行くと、アリスランが待ってくれていた。
「ティア!?」
「どうかされました?」
「顔が、涙でぐしゃぐしゃになってる」
ハンカチを差し出してくれたが、自分のもので拭いた。
「全然、気付いていませんでしたわ……」
「何があったの?」
どこから話せばいいのか分からず、考え込んでしまった。
「殿下が……手をつないだままでは、他のこともできないと、おっしゃいましたね」
「ああ」
「わたし、婚約してから、誰かとずっと手をつないでいたくて、何もしないで生きてきたんだと思いました」
「うん」
「フレデリク様が、わたしのことをさっき、はっきりとはお話しできませんが、守ってくださったんですの」
「なにか……あったんだね」
「はい……彼が……守ってくださったのは、これまでのわたしが、なにか出来たから……守ってくれたという未来につながったのかなっておもったんですの」
「うん……」
「だから……今もうぐちゃぐちゃでわからないけれど、お互いを大事に思えた時があったっていう事実はきっとあると……そう思えたんですの……」
わたしはまた泣きだした。
「妬いちゃうな」
そう言ってアリスランは、彼のハンカチで拭ってくれた。
「今日は、送っていくだけにさせて」
「ありがとうございます……」
「でも、今度、ちゃんと話させてね」
「もちろん!」
私は笑顔で返した。
ティアが、立派な女性になるのは、また別のお話し。
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