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第4話 洗脳疑惑
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「…なあ、違うっていきなり言われても、こっちはわかんないしさ…とりあえず説明してもらえるか?」
まずは落ち着かせて話を聞こう。刺激をしないよう気を付けながら聞き出す。悠里も自身の口調に気付いたのか、いったん深呼吸して気を静めたらしい。
「…ああ、そうだ。行方不明事件と我々転生者は何の関係もない」
「よく言われている、時期についてはどう思う?行方不明事件の多発時期の始まりと、転生者を名乗る書き込みが現れた時期が重なるっていう…」
「そこだ。行方不明事件が騒がれだしたのは去年の九月。転生者の書き込みが見られるようになったのは去年の十月と言われている。だが、二つとも周囲に認知されるようになったのがその月という事だけで、実際にそれらの事例が始まった正確な時期は誰にもわからない。そもそも時期が重ったというだけだけで関連付けらえるなら、世の中には無数の状況証拠で溢れかえる事になる。結論として二つの件は無関係だ」
「なるほど、それは理解できる。…じゃ、さっきの『違う』とは、何が違うんだ?もしよければ聞きたいんだが」
そう言うと、悠里は下を向いたままうつむいてしまった。考え込んでるようにも見える。やはり、何かあるのか…。
「…私達転生者はSNSのコミュニティで繋がっている。そこで情報交換をやり取りしてるんだが、その内の一人が出した仮説が妙に気になってね…」
「仮説?何だそれは?」
「私達がどのような力でこの平行世界移動を成し遂げたのかは、誰も知らない。私たちの根拠とは、私達自身の中にある記憶だけだ。一般的に見れば非常に弱い根拠と言っていいだろう。だからなのか、中には転生者であるにもかかわらず、自分は本当は転生者などではなく、何者かによって洗脳されているのではないか?と考える人たちが現れたのだ」
「どういう事だ…?ちょっとややこしいな。」
「要するに自分は転生者なのに、その事自体を信用できず、実は自分は洗脳され偽の記憶を植え付けられているのではないか…とそう考えてる人々が出始めたのさ」
「自分自身の記憶が信用できないって事か」
「その通りだ。世界を移動してきたとしても、周りからの不信感と同調圧力に流されいつしか自分でも平行世界そのものを否定する。私も同じ立場だから信じてもらえない辛さはわかるが、自分の記憶を否定するのは嫌だ。しかし転生者の中でも周りからの目に耐えられない者は、そういった選択をしてしまうんだろう。だからこの世界の常識になぞらえて、別の次元からやって来たというよりは、謎の組織に拉致られ洗脳…という方がまだ現実味があると思っているんだろう。自身を否定するあまり真実ではなく偽りを信じ込もうとするとは…残念だが一定数そういう人たちは存在する」
「なるほど、わからん話じゃないな。俺的にはそう考えるのもしょうがないと思うが」
「問題はここからだ。拉致られて洗脳が行われるその際に、中には洗脳に失敗してしまう人間もおそらく出てくるだろう。その失敗した人間たちは皆その謎の組織によって始末されている…そしてその始末された人間たちが世間を騒がせている行方不明者である、という仮説を誰かが言い出し、転生者たち一同を騒然とさせた。そしてその仮説を重ねたものに過ぎない推論を信じてしまう転生者が後を絶たなくなった。おかしな話だよ全く!」
悠里は苦々しい顔を崩さないまま、おかわりしたケーキに手を伸ばす。心なしか食べるペースが早くなったように感じる。
「…じゃあ俺が見た掲示板の書き込みはその仮説を信じた人によるものだったのか…確か『最近増えている行方不明者と、自称転生者とは何らかの関係がある』っていうやつだった。その書き込みをした奴は当然周りから『詳しく聞かせろ』『ソースはあるのか?』と詰め寄られたが、その書き込みをした後は何も返信する事なく消えた。まあ、俺も信じたわけじゃなかったが…」
「この世界で自身を転生者と信じるには、強い精神力が必要だ。残念な話だが、こういった書き込みや仮説はまだまだ出てくるだろうな。枢君には、このような書き込みを信じずにいて欲しい。いたずらに社会に混乱を与える情報から守るリテラシーを普及させるのも、私たちのすべき事なのだろうと思っている」
「…まあ、異世界転生もしくは謎の組織による洗脳。どっちも非現実的だけど、あまり断定せず自分にできる範囲で調べてみるよ」
「私としても世界線移動を立証する術がないのは残念に思う。だが、このまま転生してくる者が増え、多数派になれば世の中変わるかもしれないね」
「おいおい、怖い事言い出すなよ。それじゃまるでこの地球が転生者にのっとられるみたいじゃないか」
俺は半分笑いながらそう言ったが、彼女はそう言ったままコーヒーカップに口を付けうつむき、そのまま返答はなかった。…気づけばいい時間だ、そろそろ帰ろうか。
「今日は話を聞かせてくれてありがとう。また何かあったら頼むよ」
俺はそう言いつつ身支度を整え、席から立ち上がろうとすると悠里が何かを思い出したようにつぶやいた。
「世界線移動に関してはSNSの相互フォロワーで詳しい人が一人いる。今度その人に聞いてみよう。何か面白い事がわかるかもしれないぞ!」
突如彼女は目をキラキラさせながら立ち上がり、俺と目を合わせた。とっさの事で恥ずかしくなり顔をそむけてしまう俺。いや、しょうがないじゃん…。
「今日は私も話せて有意義だった。また色々話そう!」
彼女は笑みを浮かべながらそう言う。まあ、満足してくれたならよかったか…。
その後彼女とファミレス近くで別れ、俺は歩きながら一人考えていた。悠里が持つ転生者コミュニティをこちらもフォローすれば、色々な情報がわかるかもしれない…。無論その界隈なんて陰謀論に満ち溢れた、浮世離れした人たち…そう思っていても、何故かそれについて調べたくなってしまう。いやいや、これはあくまで情報集めだからな!別に信じてるわけじゃないからな!
「俺、なんでこんなの調べてんだろ…」
こんなありえないような中二設定なんか元々半信半疑のくせに、気づいたらどんどん深みにはまっていく自分自身に少々怖さを感じつつも、何か得体のしれない高揚感みたいなものから抜け出せなくなっていった。
まずは落ち着かせて話を聞こう。刺激をしないよう気を付けながら聞き出す。悠里も自身の口調に気付いたのか、いったん深呼吸して気を静めたらしい。
「…ああ、そうだ。行方不明事件と我々転生者は何の関係もない」
「よく言われている、時期についてはどう思う?行方不明事件の多発時期の始まりと、転生者を名乗る書き込みが現れた時期が重なるっていう…」
「そこだ。行方不明事件が騒がれだしたのは去年の九月。転生者の書き込みが見られるようになったのは去年の十月と言われている。だが、二つとも周囲に認知されるようになったのがその月という事だけで、実際にそれらの事例が始まった正確な時期は誰にもわからない。そもそも時期が重ったというだけだけで関連付けらえるなら、世の中には無数の状況証拠で溢れかえる事になる。結論として二つの件は無関係だ」
「なるほど、それは理解できる。…じゃ、さっきの『違う』とは、何が違うんだ?もしよければ聞きたいんだが」
そう言うと、悠里は下を向いたままうつむいてしまった。考え込んでるようにも見える。やはり、何かあるのか…。
「…私達転生者はSNSのコミュニティで繋がっている。そこで情報交換をやり取りしてるんだが、その内の一人が出した仮説が妙に気になってね…」
「仮説?何だそれは?」
「私達がどのような力でこの平行世界移動を成し遂げたのかは、誰も知らない。私たちの根拠とは、私達自身の中にある記憶だけだ。一般的に見れば非常に弱い根拠と言っていいだろう。だからなのか、中には転生者であるにもかかわらず、自分は本当は転生者などではなく、何者かによって洗脳されているのではないか?と考える人たちが現れたのだ」
「どういう事だ…?ちょっとややこしいな。」
「要するに自分は転生者なのに、その事自体を信用できず、実は自分は洗脳され偽の記憶を植え付けられているのではないか…とそう考えてる人々が出始めたのさ」
「自分自身の記憶が信用できないって事か」
「その通りだ。世界を移動してきたとしても、周りからの不信感と同調圧力に流されいつしか自分でも平行世界そのものを否定する。私も同じ立場だから信じてもらえない辛さはわかるが、自分の記憶を否定するのは嫌だ。しかし転生者の中でも周りからの目に耐えられない者は、そういった選択をしてしまうんだろう。だからこの世界の常識になぞらえて、別の次元からやって来たというよりは、謎の組織に拉致られ洗脳…という方がまだ現実味があると思っているんだろう。自身を否定するあまり真実ではなく偽りを信じ込もうとするとは…残念だが一定数そういう人たちは存在する」
「なるほど、わからん話じゃないな。俺的にはそう考えるのもしょうがないと思うが」
「問題はここからだ。拉致られて洗脳が行われるその際に、中には洗脳に失敗してしまう人間もおそらく出てくるだろう。その失敗した人間たちは皆その謎の組織によって始末されている…そしてその始末された人間たちが世間を騒がせている行方不明者である、という仮説を誰かが言い出し、転生者たち一同を騒然とさせた。そしてその仮説を重ねたものに過ぎない推論を信じてしまう転生者が後を絶たなくなった。おかしな話だよ全く!」
悠里は苦々しい顔を崩さないまま、おかわりしたケーキに手を伸ばす。心なしか食べるペースが早くなったように感じる。
「…じゃあ俺が見た掲示板の書き込みはその仮説を信じた人によるものだったのか…確か『最近増えている行方不明者と、自称転生者とは何らかの関係がある』っていうやつだった。その書き込みをした奴は当然周りから『詳しく聞かせろ』『ソースはあるのか?』と詰め寄られたが、その書き込みをした後は何も返信する事なく消えた。まあ、俺も信じたわけじゃなかったが…」
「この世界で自身を転生者と信じるには、強い精神力が必要だ。残念な話だが、こういった書き込みや仮説はまだまだ出てくるだろうな。枢君には、このような書き込みを信じずにいて欲しい。いたずらに社会に混乱を与える情報から守るリテラシーを普及させるのも、私たちのすべき事なのだろうと思っている」
「…まあ、異世界転生もしくは謎の組織による洗脳。どっちも非現実的だけど、あまり断定せず自分にできる範囲で調べてみるよ」
「私としても世界線移動を立証する術がないのは残念に思う。だが、このまま転生してくる者が増え、多数派になれば世の中変わるかもしれないね」
「おいおい、怖い事言い出すなよ。それじゃまるでこの地球が転生者にのっとられるみたいじゃないか」
俺は半分笑いながらそう言ったが、彼女はそう言ったままコーヒーカップに口を付けうつむき、そのまま返答はなかった。…気づけばいい時間だ、そろそろ帰ろうか。
「今日は話を聞かせてくれてありがとう。また何かあったら頼むよ」
俺はそう言いつつ身支度を整え、席から立ち上がろうとすると悠里が何かを思い出したようにつぶやいた。
「世界線移動に関してはSNSの相互フォロワーで詳しい人が一人いる。今度その人に聞いてみよう。何か面白い事がわかるかもしれないぞ!」
突如彼女は目をキラキラさせながら立ち上がり、俺と目を合わせた。とっさの事で恥ずかしくなり顔をそむけてしまう俺。いや、しょうがないじゃん…。
「今日は私も話せて有意義だった。また色々話そう!」
彼女は笑みを浮かべながらそう言う。まあ、満足してくれたならよかったか…。
その後彼女とファミレス近くで別れ、俺は歩きながら一人考えていた。悠里が持つ転生者コミュニティをこちらもフォローすれば、色々な情報がわかるかもしれない…。無論その界隈なんて陰謀論に満ち溢れた、浮世離れした人たち…そう思っていても、何故かそれについて調べたくなってしまう。いやいや、これはあくまで情報集めだからな!別に信じてるわけじゃないからな!
「俺、なんでこんなの調べてんだろ…」
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