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轢いた!と思ったら転生?
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俺は梅木武司、32歳。
運送会社の社長をやっている。
妻も子供も居て、会社もようやく軌道に乗って来たところだ。
人生が充実していて俺は幸せな日々を送っていた。
ある日の夜。
仕事を終えた俺はいつも通り安全運転で帰路に着いていた。
信号が赤になり横断歩道が見えた所でブレーキを踏む。
踏んだ……なのに止まらない!
横断歩道には渡る一人の女性の姿が俺のトラックのライトに照らされる。
身が竦んだのか女性は真ん前で足を止めてしまう。
その表情は驚きのものだった。
ハンドルを切ろうとしたが腕が動かない!
こんなタイミングでトラックが故障なんて事があるだろうか?
その時、謎の光が発生した。
俺のトラックのヘッドライトかと思ったけれど違う。
比較にならないくらい激しい光が……。
ドンっという衝撃で轢いたと理解したが、何故か俺の意識は光に包まれていた。
今俺は説明を受けているところだ。
自称「神様」を名乗る人物が、異世界転生という事象に俺を巻き込んでしまった事を謝っている。
どうやら俺が撥ねる事で、あの時の女性が異世界に転生したらしい。
あの光は転生の魔法陣が発動したものだったのだそうだ。
そして俺はそれに巻き込まれて魂だけが、女性と同じ世界に飛ばされてしまったらしい。
元の世界には帰れないという。
あの幸せな世界に……とは思ったけれど、俺は人を撥ねている。
戻れても地獄だ。
神様はお詫びとして出来る限り希望を叶える身体に転生させてくれると言う。
最愛の妻と幼い息子に会えなくなったのは辛いが、自分の意志では無い交通事故の責任を取らされるのは御免だった為、神様に希望を伝えて転生する事にした。
「イケメン・金持ち・地位・モテる」
男の願望なんてこんなところだろう。
地球ではない世界に俺は転生する事になった。
気が付くと俺は赤子だった。
神様の計らいで、元の世界の記憶を持ったまま。
ローレンス ・ヒュー・シャトラン。
シャトラン王国の第一王子だと、父母である国王と王妃が話していた。
よっしゃ、勝ち組確定だ!
父母は余り子育てをしてくれないが、乳母が若いねーちゃんだったから、おむつ替えや授乳はラッキーだった。
そんなこんなで俺はスクスク育ち、今や十八歳になった。
もうすぐ同じ年のサラと結婚する。
こちらの世界は純潔を重視している為、結婚するまでキスすら禁止されていた。
特にサラは公爵令嬢のため、手すら握らせてくれない。
お高く止まった女だと思った。
美人だが可愛げが無く、立場が上の俺によく注意してくるので、サラとは相性が悪い。
ある日、一人でパーティーに出ているとバルコニーに、月明かりを浴びて佇む美しくナイスバディな女性の姿が。
どこか彼女は元の世界の俺の妻の若い頃に似ていた。
一も二もなく俺は声を掛ける。
「俺はローレンス という。一曲踊ってくれないだろうか?」
「は、はい!私はカレン・ローズと言います!ローズ男爵家の三女です!」
丁寧な言葉で名乗るカレン。
「もしかして、俺を知っているのか?」
「はい!ローレンス王太子様ですよね?女の子はみんな憧れています!」
「それは知らなかった。」
気を良くした俺はカレンとダンスを踊った後も会話を続けて、次に会う約束を取り付けた。
カレンは社交的で、サラと違っていつも俺を立ててくれる。
身体もサラは細くて魅力が無かったけど、カレンは出る所は出てしっかり括れている。
こんな魅力的な女性と交際した事が無かったから、カレンの身体にすぐに溺れた。
カレンから「俺の子供が出来た。」と聞いた時すぐに結婚を考えたが、俺にはサラという婚約者が居る。
俺の方から婚約破棄をすると色々都合が悪い事は、流石に俺でもわかる。
「カレンは…日陰の身でも構いません。ローレンス様との子供を産みたいです!」
こんなにいたいけなカレンと別れるなんて出来ない。
「サラさえ居なければ何もかも上手く行くのに!」
そう口にした俺にカレンが提案する。
「サラ様は、よく私を虐めてきます!あんな意地悪い人が王太子妃なんて相応しくないと思います!」
あの女はそんな事をしていたのか!
これは良い婚約破棄の材料だと、俺はすぐにサラとの婚約破棄をおおっぴらにする事を考えた。
間近に控えた俺とサラの結婚発表のパーティーの場でサラを断罪し、婚約破棄をする。
良い考えだと思った。
そしてパーティー当日、今日でサラとはお別れだから、最初から俺はカレンをエスコートして会場に入る。
周囲がざわつくが、それも少しの間の事だ。
視界の端に立ち尽くすサラを見た時はスッキリした。
国王夫妻がパーティーの場に現れるとすぐに俺は「お話があります。」と陛下に告げて、サラとの結婚の発表をまずは止める。
「これから重大な発表をする。」
俺が言うと、会場の全員が動きを止めて俺に注目する。
気分がいい。
すぐにこの場にサラとカレンを呼んだ。
サラは壇の下、カレンは壇上の俺の隣に居る。
背後の国王は驚かない。
知っていたのかもしれない。
「俺、ローレンス・ヒュー・シャトランは、サラ・リム・マクレイ公爵令嬢との婚約を破棄し、カレン・ローズ男爵令嬢と結婚する!」
再び周囲がざわつき始めた。
「わかりました。それではこれで。」
サラはすぐに言い切った。
やっぱりこの女は元々俺への愛情なんか無かった。
俺も無かったけど、これだけで終わらせるのは腹立たしくなった。
「待て、サラ。俺から言い出したからと言って、俺の方に非は無い事を説明しなければならない。」
「私に非があると?」
サラはぴくりと片眉を上げる。
「良いですわ、聞きましょう。」
サラは表情こそ笑顔だが、明らかに戦意が見える。
本当に可愛くない女だ。
「ここに居る、元婚約者、サラ・リム・マクレイ公爵令嬢は、俺の現婚約者である、カレン・ローズ男爵令嬢に悪質な虐めをしまくっていた。公爵令嬢にあるまじき行為だ。公爵令嬢を名乗る価値すら無い!よって、身分剥奪が相応しいと思う。」
言い終えた俺はサラへ勝ち誇った顔を向けた。
サラは…笑顔のままだった。
「私は身に覚えはありませんし、証拠でもあるのでしょうか?」
ふてぶてしくもそう告げて来た。
「証拠は無いが、カレンが嘘を付いていると言う気か!」
「虐めた証拠が無い。では私にも虐めていない証拠はありません。ですが、潔白を晴らす事は出来ますわよ?晴れた場合、私への名誉毀損として、ローレンス殿下にはそれなりの罪を受けてもらいますが、宜しいのですね?」
サラが強気に言う。
生意気な女だ、絶対にカレンとの愛を勝ち取る!
「まずはカレンさん、私がいつ何処でどのように貴女を虐めたと言うのですか」
「えっと、いつもローレンス様と居る時に、嫌な事ばかり言って来たじゃないですか!」
「あれは貴女の言動が失礼だからと申し上げた筈ですが?それに婚約者が居る相手とベタベタ親しげにも程かあったので、改めるように注意をしただけです。」
カレンが劣勢だった為、俺はカレンに加勢する。
「お前はカレンを噴水に突き落としたり、階段から突き落としたと聞いている!」
「噴水の時はカレンさんが自ら倒れ込んだのを、私の友達も見ていました。階段とは、いつの話ですか?」
「お、一昨日の16時頃です!」
「その時間でしたら……。」
サラが言い淀む。
やはり俺達が正しかった!
勝利を確信した時だった。
「サラの潔白は私が証明しますよ、兄上。」
弟の第二王子、スチュアートだった。
「何故お前が…。」
「サラはその時間私と居たからです。兄上が公然と浮気をしており、相手と子供まで為している裏切りを裁いて貰おうと説得していたのです。でもサラは最後まで兄上を庇っていたというのに…。」
「……潔白は証明出来ましたね。」
サラの言葉を最後に国王が前に出た。
「ローレンスとカレン・ローズを公爵令嬢への偽証罪と名誉毀損罪とし、ローレンスは更に不貞の罪として、地位を剥奪し、二人を北の塔へ死ぬまで幽閉する!」
「そんなっ、父上!悪いのはサラです!」
「まだ言うか馬鹿者め。サラとの婚約解消は希望通りだ、良かったな。」
「カレンは悪くないです!離してっ!」
カレンは取り押さえて来た兵士から逃れようと暴れる。
どうせ逃げられないと兵士が手を離した瞬間転んでしまった。
「あっ…!」
床に座ったカレンから血が流れる。
「ああっ、カレンの赤ちゃんが…!」
カレンは錯乱して兵士に運ばれて行ってしまった。
「俺の子だ!カレンの元に行かせてくれ!」
俺も暴れたが、塔の最上階の幽閉部屋にあっさり連れて行かれた。
数日後サラが訪ねて来た。
鉄格子越しに睨み付ける。
「満足か、浮気されてムカついたのだろう!」
「カレンは死んだわよ、流産のショックで。」
「なっ…?お前のせいだ!お前が殺したようなものだ!」
「そもそも喧嘩売って来たのはあんたの方でしょ?あんたなんか最初から嫌いだったけど、大人しく婚約者してた私を褒めて欲しいわね。」
「何だその口の聞き方は。それが本性か!」
「あんたはもう王太子でも王子でもないの。それに私は今はスチュアート第二王子の…現王太子妃なの。身分も私の方が上。」
「くそっ、俺に何の恨みがあって…。」
「だから喧嘩売って来たのは……。まあいいわ、私の恨みを聞いてもらいましょうか。」
本当に俺への恨みがあったという感じになって、驚いてしまう。
「あんたは夜道で信号無視してトラックで女性を跳ねたでしょう。」
「そ、それはっ、トラックが言うことを効かなくなって……何故お前がそれを!?」
「轢かれたのが私だからよ。」
「お前も転生者か。けど、あれは事故だった!」
「転生する時神様に聞いたの。トラックの整備不良だったって。あんたの会社はケチで有名で、整備してないトラックだらけだったそうね。」
「それでも、あの時は運が悪かっただけだ!」
「私ね、お腹に赤ちゃんが居たの。勿論お腹の子は一緒に死んだわ。」
「それは、済まない事をした。反省する。だから、転生者同士のよしみで、一緒に上手くやって行かないか、な?」
「それともう一つあんたの事を聞いたの。あんた、妻と子供に手を上げてたんだってね。」
「それは…あいつらが逆らうからっ!」
「駄目ね。反省なんてする男じゃないってわかったわ。」
この女を説得する事は無理だとわかった。
サラの目はゴミを見るような目で俺を見ていた。
「私ね、転生する時に願ったのはたった一つの能力だけなの。」
そう言うと俺に何か力を使うサラ。
「不老不死を授ける能力。一度しか使えないからここまで事を運ぶのは大変だったのよ。あんたが思った以上に屑で良かった。死んでしまった子の仕返しが出来た。」
嬉しそうに笑うとサラは出て行ってしまう。
不老不死?
つまり一生ここに閉じ込められている俺は死ぬ事が無い。
永遠以上に……。
「出してくれっ!!頼むっ!!」
俺の転生は神様もグルだったという事に気付いたのは後になってからだった……。
運送会社の社長をやっている。
妻も子供も居て、会社もようやく軌道に乗って来たところだ。
人生が充実していて俺は幸せな日々を送っていた。
ある日の夜。
仕事を終えた俺はいつも通り安全運転で帰路に着いていた。
信号が赤になり横断歩道が見えた所でブレーキを踏む。
踏んだ……なのに止まらない!
横断歩道には渡る一人の女性の姿が俺のトラックのライトに照らされる。
身が竦んだのか女性は真ん前で足を止めてしまう。
その表情は驚きのものだった。
ハンドルを切ろうとしたが腕が動かない!
こんなタイミングでトラックが故障なんて事があるだろうか?
その時、謎の光が発生した。
俺のトラックのヘッドライトかと思ったけれど違う。
比較にならないくらい激しい光が……。
ドンっという衝撃で轢いたと理解したが、何故か俺の意識は光に包まれていた。
今俺は説明を受けているところだ。
自称「神様」を名乗る人物が、異世界転生という事象に俺を巻き込んでしまった事を謝っている。
どうやら俺が撥ねる事で、あの時の女性が異世界に転生したらしい。
あの光は転生の魔法陣が発動したものだったのだそうだ。
そして俺はそれに巻き込まれて魂だけが、女性と同じ世界に飛ばされてしまったらしい。
元の世界には帰れないという。
あの幸せな世界に……とは思ったけれど、俺は人を撥ねている。
戻れても地獄だ。
神様はお詫びとして出来る限り希望を叶える身体に転生させてくれると言う。
最愛の妻と幼い息子に会えなくなったのは辛いが、自分の意志では無い交通事故の責任を取らされるのは御免だった為、神様に希望を伝えて転生する事にした。
「イケメン・金持ち・地位・モテる」
男の願望なんてこんなところだろう。
地球ではない世界に俺は転生する事になった。
気が付くと俺は赤子だった。
神様の計らいで、元の世界の記憶を持ったまま。
ローレンス ・ヒュー・シャトラン。
シャトラン王国の第一王子だと、父母である国王と王妃が話していた。
よっしゃ、勝ち組確定だ!
父母は余り子育てをしてくれないが、乳母が若いねーちゃんだったから、おむつ替えや授乳はラッキーだった。
そんなこんなで俺はスクスク育ち、今や十八歳になった。
もうすぐ同じ年のサラと結婚する。
こちらの世界は純潔を重視している為、結婚するまでキスすら禁止されていた。
特にサラは公爵令嬢のため、手すら握らせてくれない。
お高く止まった女だと思った。
美人だが可愛げが無く、立場が上の俺によく注意してくるので、サラとは相性が悪い。
ある日、一人でパーティーに出ているとバルコニーに、月明かりを浴びて佇む美しくナイスバディな女性の姿が。
どこか彼女は元の世界の俺の妻の若い頃に似ていた。
一も二もなく俺は声を掛ける。
「俺はローレンス という。一曲踊ってくれないだろうか?」
「は、はい!私はカレン・ローズと言います!ローズ男爵家の三女です!」
丁寧な言葉で名乗るカレン。
「もしかして、俺を知っているのか?」
「はい!ローレンス王太子様ですよね?女の子はみんな憧れています!」
「それは知らなかった。」
気を良くした俺はカレンとダンスを踊った後も会話を続けて、次に会う約束を取り付けた。
カレンは社交的で、サラと違っていつも俺を立ててくれる。
身体もサラは細くて魅力が無かったけど、カレンは出る所は出てしっかり括れている。
こんな魅力的な女性と交際した事が無かったから、カレンの身体にすぐに溺れた。
カレンから「俺の子供が出来た。」と聞いた時すぐに結婚を考えたが、俺にはサラという婚約者が居る。
俺の方から婚約破棄をすると色々都合が悪い事は、流石に俺でもわかる。
「カレンは…日陰の身でも構いません。ローレンス様との子供を産みたいです!」
こんなにいたいけなカレンと別れるなんて出来ない。
「サラさえ居なければ何もかも上手く行くのに!」
そう口にした俺にカレンが提案する。
「サラ様は、よく私を虐めてきます!あんな意地悪い人が王太子妃なんて相応しくないと思います!」
あの女はそんな事をしていたのか!
これは良い婚約破棄の材料だと、俺はすぐにサラとの婚約破棄をおおっぴらにする事を考えた。
間近に控えた俺とサラの結婚発表のパーティーの場でサラを断罪し、婚約破棄をする。
良い考えだと思った。
そしてパーティー当日、今日でサラとはお別れだから、最初から俺はカレンをエスコートして会場に入る。
周囲がざわつくが、それも少しの間の事だ。
視界の端に立ち尽くすサラを見た時はスッキリした。
国王夫妻がパーティーの場に現れるとすぐに俺は「お話があります。」と陛下に告げて、サラとの結婚の発表をまずは止める。
「これから重大な発表をする。」
俺が言うと、会場の全員が動きを止めて俺に注目する。
気分がいい。
すぐにこの場にサラとカレンを呼んだ。
サラは壇の下、カレンは壇上の俺の隣に居る。
背後の国王は驚かない。
知っていたのかもしれない。
「俺、ローレンス・ヒュー・シャトランは、サラ・リム・マクレイ公爵令嬢との婚約を破棄し、カレン・ローズ男爵令嬢と結婚する!」
再び周囲がざわつき始めた。
「わかりました。それではこれで。」
サラはすぐに言い切った。
やっぱりこの女は元々俺への愛情なんか無かった。
俺も無かったけど、これだけで終わらせるのは腹立たしくなった。
「待て、サラ。俺から言い出したからと言って、俺の方に非は無い事を説明しなければならない。」
「私に非があると?」
サラはぴくりと片眉を上げる。
「良いですわ、聞きましょう。」
サラは表情こそ笑顔だが、明らかに戦意が見える。
本当に可愛くない女だ。
「ここに居る、元婚約者、サラ・リム・マクレイ公爵令嬢は、俺の現婚約者である、カレン・ローズ男爵令嬢に悪質な虐めをしまくっていた。公爵令嬢にあるまじき行為だ。公爵令嬢を名乗る価値すら無い!よって、身分剥奪が相応しいと思う。」
言い終えた俺はサラへ勝ち誇った顔を向けた。
サラは…笑顔のままだった。
「私は身に覚えはありませんし、証拠でもあるのでしょうか?」
ふてぶてしくもそう告げて来た。
「証拠は無いが、カレンが嘘を付いていると言う気か!」
「虐めた証拠が無い。では私にも虐めていない証拠はありません。ですが、潔白を晴らす事は出来ますわよ?晴れた場合、私への名誉毀損として、ローレンス殿下にはそれなりの罪を受けてもらいますが、宜しいのですね?」
サラが強気に言う。
生意気な女だ、絶対にカレンとの愛を勝ち取る!
「まずはカレンさん、私がいつ何処でどのように貴女を虐めたと言うのですか」
「えっと、いつもローレンス様と居る時に、嫌な事ばかり言って来たじゃないですか!」
「あれは貴女の言動が失礼だからと申し上げた筈ですが?それに婚約者が居る相手とベタベタ親しげにも程かあったので、改めるように注意をしただけです。」
カレンが劣勢だった為、俺はカレンに加勢する。
「お前はカレンを噴水に突き落としたり、階段から突き落としたと聞いている!」
「噴水の時はカレンさんが自ら倒れ込んだのを、私の友達も見ていました。階段とは、いつの話ですか?」
「お、一昨日の16時頃です!」
「その時間でしたら……。」
サラが言い淀む。
やはり俺達が正しかった!
勝利を確信した時だった。
「サラの潔白は私が証明しますよ、兄上。」
弟の第二王子、スチュアートだった。
「何故お前が…。」
「サラはその時間私と居たからです。兄上が公然と浮気をしており、相手と子供まで為している裏切りを裁いて貰おうと説得していたのです。でもサラは最後まで兄上を庇っていたというのに…。」
「……潔白は証明出来ましたね。」
サラの言葉を最後に国王が前に出た。
「ローレンスとカレン・ローズを公爵令嬢への偽証罪と名誉毀損罪とし、ローレンスは更に不貞の罪として、地位を剥奪し、二人を北の塔へ死ぬまで幽閉する!」
「そんなっ、父上!悪いのはサラです!」
「まだ言うか馬鹿者め。サラとの婚約解消は希望通りだ、良かったな。」
「カレンは悪くないです!離してっ!」
カレンは取り押さえて来た兵士から逃れようと暴れる。
どうせ逃げられないと兵士が手を離した瞬間転んでしまった。
「あっ…!」
床に座ったカレンから血が流れる。
「ああっ、カレンの赤ちゃんが…!」
カレンは錯乱して兵士に運ばれて行ってしまった。
「俺の子だ!カレンの元に行かせてくれ!」
俺も暴れたが、塔の最上階の幽閉部屋にあっさり連れて行かれた。
数日後サラが訪ねて来た。
鉄格子越しに睨み付ける。
「満足か、浮気されてムカついたのだろう!」
「カレンは死んだわよ、流産のショックで。」
「なっ…?お前のせいだ!お前が殺したようなものだ!」
「そもそも喧嘩売って来たのはあんたの方でしょ?あんたなんか最初から嫌いだったけど、大人しく婚約者してた私を褒めて欲しいわね。」
「何だその口の聞き方は。それが本性か!」
「あんたはもう王太子でも王子でもないの。それに私は今はスチュアート第二王子の…現王太子妃なの。身分も私の方が上。」
「くそっ、俺に何の恨みがあって…。」
「だから喧嘩売って来たのは……。まあいいわ、私の恨みを聞いてもらいましょうか。」
本当に俺への恨みがあったという感じになって、驚いてしまう。
「あんたは夜道で信号無視してトラックで女性を跳ねたでしょう。」
「そ、それはっ、トラックが言うことを効かなくなって……何故お前がそれを!?」
「轢かれたのが私だからよ。」
「お前も転生者か。けど、あれは事故だった!」
「転生する時神様に聞いたの。トラックの整備不良だったって。あんたの会社はケチで有名で、整備してないトラックだらけだったそうね。」
「それでも、あの時は運が悪かっただけだ!」
「私ね、お腹に赤ちゃんが居たの。勿論お腹の子は一緒に死んだわ。」
「それは、済まない事をした。反省する。だから、転生者同士のよしみで、一緒に上手くやって行かないか、な?」
「それともう一つあんたの事を聞いたの。あんた、妻と子供に手を上げてたんだってね。」
「それは…あいつらが逆らうからっ!」
「駄目ね。反省なんてする男じゃないってわかったわ。」
この女を説得する事は無理だとわかった。
サラの目はゴミを見るような目で俺を見ていた。
「私ね、転生する時に願ったのはたった一つの能力だけなの。」
そう言うと俺に何か力を使うサラ。
「不老不死を授ける能力。一度しか使えないからここまで事を運ぶのは大変だったのよ。あんたが思った以上に屑で良かった。死んでしまった子の仕返しが出来た。」
嬉しそうに笑うとサラは出て行ってしまう。
不老不死?
つまり一生ここに閉じ込められている俺は死ぬ事が無い。
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俺の転生は神様もグルだったという事に気付いたのは後になってからだった……。
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