上 下
3 / 67
第一部 第一章 side:ウェルナート

第三話 RE:START?

しおりを挟む
 目が覚めると学園の寮のベッドの上だった。
 寝汗が凄い。
   状況が掴めないが、取り敢えずシャワーを浴びないと気持ちが悪い。
   さっきまでのあれは何だったのか。
   夢だと思うには生々し過ぎるような…。

   シャワーを浴びる為に着衣を脱いだら下着が汚れていたので、あの光景を俺が見たのは間違いないようだ…夢だとしても。
 一刻も早く置かれている状況を把握したい。
 シャワーを終えると取るものも取らず学校へ急ぐ。

  …さすがに早く来過ぎたようで、殆んど生徒が居ない。
 念のため、とリシェが居そうな場所を探してみた。
 リシェは直ぐに見つかった。
 伊達にリシェとのイベントを何度も迎えたわけではない。

 運動場の片隅で剣の素振りをするリシェ。
 俺を殺すために?とも考えたが、あれが実際あったことだとしたら、今は起き上がることすら出来ないんじゃないかと考え直す。
  一刻も早く現状把握したいのに、拒絶が怖くて声をかけるのを躊躇ってしまう。

 不意に振り返ったリシェが俺に気付くと、弾かれたように恥ずかしそうに赤面して素振りをやめてしまい、すぐに歩み寄って来た。
「おはようございます、ウェルナート様。拙いものを見られて恥ずかしい限りです…。」
   再び赤くなって恥じらってしまうリシェ。
 剣振っていたのを見られたのが恥ずかしかったのか。
 どうやらあれは夢で確定らしい。  

 いや、もしかすると『あったかも知れない世界』というやつじゃないか?
 忘れそうだがここはゲームの世界だ、多分。
 俺の可能性である世界を垣間見たのかもしれない。

 可愛い顔で笑顔を浮かべて瞳が覗き込んで来る。
 あんな夢を見たせいで、汚され泣き叫んでいたリシェの姿が視界に重なって混じる。  
「リシェは努力家だからな。」
 ようやくそれだけを口に出来た。
 どうしたんだろう、リシェが驚いた顔をしている。
「どうかしたか?」
「え、えーと…その、名前…」
「名前?」
「あの…」
 遣り取りしているとようやくリシェが変な顔をした理由に気付く。

 そうだった!
 『リシェ』と呼ぶのはゲームでは『ヒロインが恋愛ルートに入ると親密になり呼んでいた愛称』だ。
 つまり現状ではヒロインだって呼ぶ権利が無い。
   ショッキングなシーンを見た反動でうっかりゲーム呼びしてしまっていた。

「…その……可愛くて、ずっとそう呼びたいと思っていた、心の中で勝手にそう呼んでいたんだ。済まない。嫌ならもう呼ばないから…」
   一度嫌われたせいで、さすがに慎重になってしまう、探り探りだ。
 言い訳にはかなり苦しい。
「嬉しいですよ。その呼び方をしていたのは死んだ両親だけだったので。私は長男なので、兄が出来たような擽ったい感じがします。」
   いつもの迷いのない愛くるしい笑顔が向けられる。
「でも可愛いと言うことは、私はまだ子供なんですね…。背も伸び悩んでいて…。」
 溜め息を吐かせてしまった。
 やはりここは言うべきか?
「俺はリシェの事が好きだ。子供にこんな好意は向けたりしない…」
 胸が苦しくなる。
『俺に夢と同じ事を繰り返させないでくれ!』と。
 夢と同じ様な事しか言えない自分が歯痒くなる。

 そう、きっと答えも同じ…。
「あの……ご免なさい…」
 聞きたくない。
 襲ってしまえと夢が背中を押す。
 リシェに手を伸ばしたら、振り払われた。
 振り払った事に何故か驚いたようなリシェ。

 ほら、もう嫌われている。
 だったら……。 

 素早く右腕を伸ばしなおして後頭部を捕らえる。
 もう片腕で腰を抱き寄せて、驚きで僅かに開いた唇に舌を侵入させるキスをした。
「んっ…!?」
 驚いた表情で固まるリシェ。
 目が合うと赤くなって目を閉じてしまう。
 時間を掛けてねっとりとリシェの口内を味わう。
「んっ……ふぅ…」
 口内で呼気が乱れ始めて、身体が小さく震えている。
 この唇が離れたら侮蔑が、同じ唇で発せられると思うと怖くてなかなか離せないでいた。

 どれぐらいそうしていただろう、意を決して唇を解放する。
 ずっとキスだけでは足りない。

「は…っ…はぁ……」
 リシェは真っ赤な顔で涙をこぼしながら、強めに荒く呼気を繰り返している。
 身体は力無くグッタリと俺に預けられている。
 拒絶の言葉はまだ出ない。



 リシェをお姫様抱っこしてしまい、俺の部屋へ浚う。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あの時ちゃんと断っていればこんなことにはならなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:808

数十年ぶりに再会した神様に執着されて神隠しに遭う話

BL / 連載中 24h.ポイント:392pt お気に入り:292

2階の部屋ではいつも喘ぎ声が聴こえる♡

BL / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:904

両手に野獣

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:22

変態の館

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:161

運命の愛を紡いで

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:745

溶かしてくずして味わって

BL / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:163

処理中です...