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第一部 第一章 side:ウェルナート

第六話 忘れていた頃にヒロイン襲来

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 城に着いて歓待を受けた。
 祝い事だからな。
『連れて来たのが男の子』という点も誰も気にしない。
 元々の世界設定が『男同士で結婚出来る世界』だったし。
 特にリシェの国は豊かだから、縁組みは国内中で喜ばれると思う。
 王妃である母はむしろ『可愛がれる息子』が出来て嬉しそうにリシェを抱き締めている。
 俺がそっけなくてデカイからだ。
 抱き締められているリシェは、照れた笑みで抱擁と歓迎を受け止めていた。
 嫁姑問題も無さそうだ。
 国王である親父が、リシェを抱き締めたそうに見てたのはシカトしてやった。

 今日くらい旅の疲れを癒させてやりたがったが、リシェが国に帰る期日を考えるとギリギリだ。
 一応無理だったらスケジュールを変える意を伝えたが、いつも通りの笑顔で平気だと返された。

 式当日、朝早くからリシェを奪い取られてしまった。
 次に会うのは教会だ。
 風呂に入れられてから着飾るまでを見ていたかったんだが…。

 俺だって複雑な衣装ではあるから、さっさと着替えを済ます。
 俺の衣装は俺の国の色、青を基調とした王子服に、リシェの国の色である白が所々に差し込まれている。
 首元のヒラヒラしたタイと言い、凄く豪華だ。
 胸元のポケットには青い薔薇が刺さっている。

 仕度が済むと急ぎ足で教会に入る。
 早くリシェの姿が見たい。
 教会の扉が開くとリシェの姿はまだ無かった。
 準備に時間が掛かるのは当然だ。

 昨日リシェの衣装を、急遽手に入る物の中から両親と俺で殆ど決めた。
 リシェにはマネキンになってもらった。
 リシェを思う存分着飾らせたかったので、凄く凝った仕上がりになってしまった。
 
 急く気持ちを教会のステンドグラスを眺める事で抑えていると、教会の扉が開いてフワリと白布が舞う。
「お待たせいたしました。」
 リシェは照れ混じりの微笑で、謝罪の言葉を口にする。

 リシェの衣装といえば、頭はティアラのような派手さの無い金の冠が付いた『光のヴェール』と呼ばれる白い透けた布を後ろに垂らしている。
 宝物庫にあった、先祖の宝を拝借させていただいた。
 衣装は白のマントを付けた聖女をイメージして女性っぽさを抜いた衣装に、使用用途のよくわからない長い白布をあくまでも飾りにして、左右に2本ずつ腰から床に着くギリギリの長さで下げている。
 長目のジレみたいな感じで。
 これもマントになるのかな?
    何で用途のわからない物を飾り付けたのかって?
    ファンタジーっぽいからだ。
 勿論リシェの衣装にも俺の国の青が添えられていた。
 衣服のあちこちにはキラキラと宝石を付けさせてもらった。
 胸に咲く薔薇は白。
 想像以上に神々しい!
 国の色が白だからなのだが、ウェディングドレスみたいだ…。

 ゆっくりと教会の奥に居る俺に向けて、歩みを進めて来るリシェ。
 リシェのヒラヒラが歩くたびにたなびいて、天使みたいだ…。
 ……歩きにくそうだが。
 後で土魔法でこの衣装のリシェのフィギュアを作ろう、とか考えている場合じゃない。
 すぐに俺はリシェに駆け寄って、手を差し出しエスコートする。

 リシェを伴って教会の前方中央に備え付けられた台へと移動する。
 国王を待つ。
 20分ほどして国王が到着した。
 それ程長くは感じなかった。
 少々俺が欲望に負けて、リシェに悪戯していたからだ。

 国王が、台の上の婚約誓約書に認める旨のサインをしてから俺達の方に向けた。
 それを合図に国王に向けて口を開く。
「ウェルナート・セイ・ライナックは婚約をここに宣言します。」
「リシェール・ラー・ルキウス、共に婚約を宣言いたします。」
 俺の宣言の後に、緊張した面差しでリシェも宣言。
 二人とも一夜漬けとは思えない完成度だ。
 すぐに先程の宣誓書にフルネームをサインした。
 俺が書き終えるとリシェも。
 記入が終わると宣誓書の文字が光り、書は一瞬で消えた。
 こうする事で不履行が無いらしいが、こんな物無くても信じているのだが…。


 その時、いきなり教会後方の扉が爆発した。

 状況は理解出来ないが近衛兵は王を護り、俺はリシェを庇うように位置をすぐさま移動する。
 リシェは咄嗟に、腰にぶら下げていた細身の剣を抜いた。
 近衛兵が俺を護らないのは、俺の強さを知っているのもあるが、なにぶん式最中だったので兵の数が少ない。
 本来なら式が終わるまでは扉は、魔力で守られているので開かない。
 だからこそ兵が少ない。
 神聖な式に、余り多く兵が居るのはどうかって話だ。
 だが、力づくで開けられる程強い魔力が放たれたというわけで。


「リシェ――ルッッ!!」
 怒鳴り響く声が自分を呼んだため目を瞠るリシェ。
 爆発の煙が消えていき、犯人の姿が見えて来た。

 ふわりとした癖っ毛ピンク頭の主人公。
 顔は怒りの形相になっている。
 うちの子が何をしたと言う気か…。
「ほぅ、聖属性の神子君か。」
 親父が知った風に呟く。


 …参ったな…聖属性は俺の属性が通じない。
  腐ってもヒロインだから、やはり俺以上のチートっぷりだ。

「ナザリ……どうしてこんな事を?」
  リシェも強襲される謂れが無い様子で、ヒロイン…ナザリをねめつけている。
「せっかくハーレムルートを狙ってたのに!何で誰一人全然引っ掛からないわけ!?」
 ほらやっぱり転生者だ。
 怒りの余り対話が無茶苦茶で、自分が言いたい事を叫んでいる。
「お前が一番ゲームでは僕に媚びていたのにお前は来やしない!!挙げ句の果てに僕の一推しだったウェルナートと結婚!?」
 厳密には婚約な。
 突っ込んでいいタイミングでなかったので、取り敢えず心の中でだけ突っ込んでおく。
 リシェは吠えるヒロインの言葉を、呆然と聞いている。
 多分大半言ってる事がわかっていないだろう。
「リシェールお前転生者だろ!だからウェルナートを僕から寝取ったり出来るんだ!この世界は僕がヒロインなんだから、僕の思い通りにならない世界なんてあり得ないんだから!!」
「転生者は俺の方だ、残念だったな!」
 どうやら俺達の婚約の話を聞いて、キレて乗り込んで来たらしい。
 攻略対象が一人も引っ掛からないのは、本来のヒロインとあからさまに性格が違い過ぎるせいだと思うがな…。
 ヒロインの身勝手な思い込みを聞いていたら、つい口が出てしまった。
 俺の言葉に一瞬だけ場が静まる。
 みんな驚いているに違いない。

 ヒロインの顔が不愉快そうに歪み、すぐに笑い出す。
「そう…最初っからこの世界は違ったんだ……じゃあみんな殺してやり直すしかないよね!!」
 ヒロインが頭上に右腕を高く掲げる。
 掌に恐ろしいサイズの『淀んだ灰色の魔力塊』が形成されていく。
 不味い、聖属性魔法だ。
 …何か汚い気がする。
 聖属性って白色だった筈。
 悠長な事を考えている場合では無い。
 無駄だろうが俺が使える属性全てを展開し、魔力防壁をヒロインとの間に作り出す。
「みんな消してしまえばやり直せるよね?アハハッ!バイバイ!!」
 勝ち誇った笑い声を上げて灰色の巨大魔力塊をヒロインは、俺達に向けて放つ。
 俺の魔力はあっさり消える。

 背後で仄かに何かが黄金色に背後で光る。
 リシェが、手にしていた剣に光属性を付与したようだ。
 次の瞬間俺の前に出て、その剣で魔力塊を受け止めた。
「っ…つ…!」
 剣が魔力塊とぶつかり、拮抗しているように見える。
 だがこの世界のことわり上、光属性は聖属性には勝てない。
「リシェ、無理だよせ!」
 じゃあどうするんだという話だが、俺はリシェだけには助かって欲しい。
 リシェに近付きたいが、風圧の強さで足が一歩すら動かせない。
   リシェは魔法は使えないが、己の身体の中の光属性を気力で剣へと流し続けている。

 その時、リシェの頭に飾り付けられた『光のヴェール』がそれに呼応するように黄金に輝いて、リシェの全身に光を行き渡らせた。
 光の勢いが強くなって力を付けた剣が、ヒロインの淀んだ魔力塊を押し返す。
 ヒロインが驚愕に目を見開く。
 リシェも予測していなかったようで、同じく目を見開いた。
 ヒロインは跳ね返された己の魔力に包まれる。
「ああああ!!何で…っ!?僕はぁ…っ、ヒロイン――…っ!!」
 魔力塊が直撃したヒロインの姿は、跡形も無く消え去った。
 ヴェールはただの布じゃなく、本物のお宝だったことを知った。
 先祖、すまん。

 顔色悪く震えているリシェ。
 そうだよな、人を殺してしまったみたいなものだ。
 安心させるようにその身を強く抱き締める。
「リシェのお陰で助かった。今度はリシェがこの国を救ってくれたな。感謝する。」
 強ばってしまっていた身体を解すように、抱き締めたままで顔のあちこちにキスの雨を降らせていく。
 リップ音がするたびに、リシェの緊張が解れる。
 だが自分の手で人が死んでしまった事実を、性格的に引き摺ってしまうんだろうな。

「リシェール王子。ウェルナートの言う通り、此度我が国を救ったのは王子である。英雄として皆に広めたい。今宵のパーティーは二人の婚約披露だったが、英雄であり婚約者として参加してくれぬか?」
 ナイスアシスト!
 この父親は極稀に良い事を言う。
「は、はい。リシェール・ラー・ルキウス、謹んでお受け致します。」 
 驚いた後、すぐに国王に跪き礼をしながら、受諾の返事をするリシェ。
 まるで一枚の絵のようだ。
 ずっと見ていられる…。

  
 その後は国王が二人の婚約を認める宣言をして、式を終えた。
  
 教会の壊れた箇所は、ヒロインの実家に請求が行く。
 親である男爵一族も何らかの処罰を受けるのだろうが、後処理は全部国王に投げた。
 リシェの耳に入れたくないからな。




 夜になり、その後は無事にパーティーを迎えた。
 やはりリシェの支度に時間がかかっているため、俺は迎えに行くのに呼ばれるまでの間、玉座の間で国王と先程の事情聴取中だ。
  この時間に、国王にはいくつか聞きたいことがあった。
「陛下、何故聖属性が光属性に弾かれたのですか?聖属性は全ての属性より上回ると聞いています。」
 魔法チート王国である国王なら詳しいのではと考えていた。
「それは恐らくだが、聖と光は本来同一属性では?という学者の見解もある。あの者の魔力は黒ずんで灰色になっておった…。聖なる属性であるがゆえに心の汚れを反映してしまったのだろう。なればこそ、聖なる属性ではなくなり、リシェール王子が打ち勝ったと私は見た。」
  なるほど、本来白い光が心の汚れで灰色になった色だったのか…。
  さて、もう一つの気掛かりだが…。

「俺が転生者ということを、陛下は知っていたのですか?」
 俺がヒロインに宣言した事を、全く問わないから疑問に思っていた。
「『転生者』という言葉は聞いたことが無いが、時々異世界という所と『入れ替わり』という現象が確認されているというのを耳にしていた。」
「入れ替わり…?」

 まさかの新事実。
 もし俺がそれだとするならば、何かの拍子に元の世界に戻ってしまう?
 それだけは絶対に避けねばならない!
 せっかくリシェとの距離をここまで詰めたのに、冗談ではない。
  
 そういえば、リシェと俺の正体について話していなかったな。
 今はお互い忙しいので、落ち着いてから聞かれたら話そう。

 時間が経ちあれから三時間ぐらい経過したか。
 場をパーティー会場に移したが、まだリシェの姿は無い。
 随分掛かっている気がして、リシェに与えられた賓客室に走る。

  そこには点々と倒されて横たわる近衛兵達の姿が。ルキウス国と俺の国の兵士だ。
 
「リシェっ!」
  部屋の隅々まで確認したがリシェは居ない。
  窓が大きく開いていたため辺りを見回す。
  暗闇の中に動く者が全く居ない。
  つまり眼窩に居る筈の警備兵が、みんなやられているという事。
  この部屋の周囲だけが静かだ。
 他の部屋には異常が無いから、まだ騒ぎになっていない…。

「……やられた…っ!」
 窓枠に拳を叩きつけて唸る。
 恐らくリシェは連れ去られた。
 すぐさま国王と、到着していたルキウス王国第二王子と宰相に報告する。
  
 兵士や騎士達は一人も死人が居なかった。
 賊が相当な手練れだとわかる。
『リシェの部屋の周囲から城門周辺の兵士騎士だけ』を綺麗に昏倒させていたそうだ。
 そんな芸当をやってのけるのは…。

 まさか転生者……入れ替わり?



 一向に居場所を知る方法がわからず、そのまま途方に暮れて動けず立ち尽くしていた……。


  
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