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EX3

もう一つの決着

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side:柚希


新しい学校に必要な備品を取りにリシェールと一緒に向かった。
受け取って帰ろうとした時、グラウンドで走っている生徒の集団に目を遣った瞬間…僕は思わず持っていた袋を落としてしまう。
だってそこに居たのは……。
「柚希!どうした、顔色が悪い。」
リシェールが心配して声を掛けてくれるけど。
「だ、大丈夫…。」
何もなかったように振る舞い切れない。
手が震えてしまって、落とした荷物が巧く拾えない。
そんな事をしていたら当然グラウンドの生徒も気付いてしまう。
その人は一瞬驚いたようにこちらを見ると、駆け寄って来てしまった。
「ま、まさか…貴方はリシェール王子様なんですか?」
「リシェールは私だ。」
庇うようにしてリシェールが告げてくれる。
これが間違いなくあの彼ならば、リシェールは少し様変わりしているから、見た目は僕の方が『リシェール』というキャラクターに見えているんだろう。
様子がおかしいと気付いた涼一さんが近付いて来た。
涼一さんは校門外で待っててくれていた。
「柚希?」
「えっ……貴方は、ウェルナート王子様?」
「違うが……成程。」
涼一さんも彼の顔を見て納得する。
彼は僕が異世界で消し去ってしまった『ナザリ』…ゲームの主人公と瓜二つだったから…。
「あ、すみません。僕は『森崎雪弥』と言います。」
森崎君は頭を下げて挨拶してくる。
二人も知った顔が居たら間違い無くゲームの関係者だと確信するだろう。
「成程、ナザリの元データというわけか。」
「あ、はい。そちらは、金髪の御方がリシェール王子様ですよね?」
「僕は、芹澤柚希です。」
「リシェールでいい。」
リシェールからは「関わるな」というオーラが出ている。
「帰ろう、柚希。」
涼一さんがいつの間にか拾ってくれた荷物を手に、僕の肩を抱き寄せて帰路を促す。
「あの、もしかして、鷹宮さんでしょうか?」
涼一さんは敢えて名乗らなかったけど、森崎君はそう言って引き留めた。
嫌な予感がする…。
「何故俺の事を?」
「あ、すみません、メディアで見掛けて覚えていたもので。」
かなり邪険な態度の涼一さんに、気にせず語り掛ける森崎君の頬は赤く染まっていて、眼差しが恋してる気がした。
「帰ろう柚希、涼一、用事は済んだ。」
リシェールが続きそうになる会話をぶった斬ってくれた。
「あ、芹澤君、ちょっと二人だけで話し出来ませんか?すぐ済むので。」
リシェールがムッとして、涼一さんも行く事は無いとばかりに肩を引き寄せてくれる。
「すぐ済むみたいだし、気になるから…。二人に見える所で話すから、ね。」
「…何かありそうになったら即駆け付けるからな。」
心配そうな涼一さんと、不機嫌に森崎君を睨むリシェールに見送られて、少しだけ離れた所で森崎君と向かい合う。
「本当に貴方はリシェール王子様じゃないんですか?」
「間違いなくあっちがリシェールです。」
「ああ、1が出てから年数が経過してるからですか。」
リシェールの変貌には納得してくれたようだった。
「ウェルナート王子様は?」
「り…鷹宮先輩がモデルになっただけです。」
「僕と同じなんですね…。」
親近感を感じさせてしまった気がする。
「御免なさい呼び止めて。僕はいきなりあちらの世界から切り放されて、森崎雪弥として生きることになってしまったので…。」
「あっ…。」
帰る身体を失わせたのは僕だ。
「芹澤君じゃないと雰囲気的に話せそうになかったので…。芹澤君は転校生ですか?」
「はい、四月から2Aに。」
「同じ年齢だったんだ。じゃあため口で。仲良くしてくれたら嬉しいな。」
「あ、はい、よろしく。」
「ところで、鷹宮さんって、もう一度話す事出来ないかな?」
「そ、れは…僕には…。」
「柚希、長い!お腹が空いた、帰ろう!」
リシェールが無理矢理割り込んでくれた。
きっと僕が俯いたから。
リシェールはこんな風に無理矢理割り込むタイプじゃないから。

「柚希…。」
「ううん、何でも無い。」
平気だと二人に笑顔を見せる
「森崎君は、涼一さんと話しがしたいみたい。」
「そう言われたのか?俺の方には用事が無いから放っておけ。また言われたら俺がどうにかする。」
「うん…。」
これだけで終わるといいんだけど…。


「涼一さんとこうしてまったり過ごせるのが僕にとって一番の幸せだなって思うんだ。」
とある日曜日、ベッドで涼一さんに凭れ掛かって甘えてみる。
「…繋がってる時とどっちが幸せだ?」
涼一さんが僕を押し倒しながら聞いてくる。
「…両方とも、どっちも違う幸せを感じるよ。」
顔を赤くしながら言うとすぐに深く口付けられる。
その時、僕のスマホが着信を報せる。
「出ないよな?」
「あっ、この着信音リシェール!」
滅多に無い事なので動揺してしまう。
相手を聞くと涼一さんが出た。
すぐにリシェールが叫んでる声がする。
「落ち着け、柚希はここに居る。」
リシェールからの言葉を聞いてすぐに通話を切る涼一さん。
「急いであっちに行くぞ。」
大事らしかった…。


「リシェ様の身体が乗っ取られた。」
「ど、どうやって?」
「わからないが、乗っ取ったのは『ナザリ』を名乗っている。」
「可能性としては、結界内に入ったのは『森崎』。あいつならば危害を加える判定が結界にされなかっただろう。中にさえ入れればリシェの遺体に行き着ける。二人分の魂で乗っ取ることなら出来るだろう。」
当てずっぽうではなく、僕の探知で、僕の元の身体と森崎君、ナザリの魂を感知したからだ。
「とにかく、盛大に破壊してもいい場所に行くぞ。」
僕とリシェールを連れてアレク様が転移したのは、元闇の帝国があった場所だった。
すぐに作戦を聞かされる。
まずは僕が三人に結界を張る。
そしてアレク様がド派手な魔法を上空に向けて放った。
作戦通り様子を見に、僕の前の身体を乗っ取ったナザリが現れる。
「森崎君どうして、何でナザリと行動してるの?」
「利害が一致したからだよ。雪弥はウェルナート王子様が好きだった。でも君に奪われてしまった。そして僕は鷹宮さんに憧れていた。なのにまたもや相手は君。じゃあ愛されるには、君になるしかないよねぇ?」
そっか、本当のナザリがこの間喋った森崎君で、本当の森崎君が僕が消してしまったナザリなんだ。
「何でもいいからその身体を返せ。」
アレク様は会話する気も無いらしい。
「鷹宮さん、この姿が好きならば、きっと僕の方が満足させます!」
アレク様が苛立つのがわかる。
ナザリは僕に向けて魔力を放って来た。
張っていた結界が砕ける。
続けざまに向かって来る攻撃を魔力で受け止めながら、視線をアレク様にやる。
アレク様が頷いた。
すぐにリシェールが自分の光をアレク様に譲渡する。
僕は防御をアレク様に任せると、長い詠唱を開始した。
その間逃がさないようにリシェールがレイピアでナザリを連続攻撃して、出来るだけ攻撃をさせないようにしてくれている。
リシェールに放たれる魔法はアレク様が光魔法で打ち消す。
ナザリは当然アレク様には攻撃して来ない。

…ごめんね僕の前の身体。
悪用されちゃうから。
本当は既に土に還ってる筈なのに、今まであったのが不自然だったんだから…。

詠唱を終えた僕は……もう一度、ナザリをこの世界から消す為に、今度は自分の意思で消す。
全てを消す裁きの光をナザリに放った。
声もなく、僕の身体ごと消えていくナザリと森崎君。
「御免なさい、アレク様が守ってくれた僕の身体を消しちゃって…。」
「俺の作戦だろう。それに、既に俺の大事なリシェ、柚希は此処に居る。」
涙が止まらない僕を抱き締めてくれながら、アレク様は言う。
「御免ねリシェール。」
「一番辛いのは、その手で消したリシェ様だ。」
リシェールはアレク様に光を返して貰いながら僕の背中を撫でてくれていた。
精神的な疲れと魔力切れで、僕の意識があったのはそこまでだった…。


もう一度用事があって新しい学校に行く。
今度は涼一さんも最初から父兄として中までついてきてくれた。
森崎君の事が気になったのもあると思う。
担任になる先生に聞くと、森崎君は退学したそうで。
理由は『病気』ということだった。

涼一さんが森崎君の状況を調べると、どうやら森崎君とナザリが同時に森崎君の身体に存在して、上手く二人の意識が混ざらず、一人で言い合いになってるような状態らしい。
知らない人から見たら精神を病んでるとしか見えないだろうって。
どうする事が正解だったのかわからないけど、この結果を僕は受け入れた…。

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