王妃候補は、留守番中

9.

馬車に乗り、王宮への帰り道。
ならず者だと何かの折にバレるかもしれない事と私が思った以上に危険になる心配があるというので、事情を知る執事長とアイリス様付きの執事の1人リックさんが変装して襲撃犯役に決まった。
襲われる方は何も知らない御者とマリーと私の3人。助けには公爵様とオリバーさん、何も知らずに公爵家の使用人が数人になるらしい。
公爵家と王宮の間で狙われそうなポイントは、王宮の裏門の近く一箇所だけ。しかも夕方、警備兵が交替するわずかな時間だけだ。私は襲撃をわかっているのに緊張していた。

「な、何者？」

御者の慌てる声が聞こえ、始まったとわかる。御者が殴られたのか静かになり馬車の扉が開けられるとそこに変装した執事長ではなく5人の知らない男たちが覆面をして立っていた。警備が手薄な貴族の馬車を狙った物盗りか誘拐の襲撃に遭ってしまったよう。

「セ、アイリス様逃げてください。」

マリーが私の前に立ってくれるが、すぐに殴り倒されてしまった。
御者は、馬車の横で気絶しているようで、動かないが生きてはいるようでホッとする。

「金目の物を頂こうかと思ったが、きれいなお姫さまでも売れそうだな。」
「先に味見もいいですよ。兄貴。」

私のシナリオ通りの展開だが、役者が違うのでこの先どうなるかわからない。執事長たちはどうしたのか、気づいて助けを呼びに行ってくれていればいいのだが。
私は時間稼ぎの抵抗したが、1人では何の力もなく、担ぎ上げられ男の馬に乗せられる。マリーも戦利品と思ったのか、気を失ったまま他の男の馬に乗せられいる。
何か手がかりを残さないと…
私はショックで気を失ったフリをしつつ、真珠のネックレスを外し一粒ずつ気づかれないように落とすことに集中した。


男たちのアジトなのか郊外の使われなくなった金持ちの屋敷らしい建物にたどり着いた。真珠はなんとか足りたようでホッとする。まだピンチではあるが、助けを期待できるだけマシだろう。
気絶しているフリをしていると抱き上げられ、２階の部屋に連れて行かれてベッドに下された感覚がする。幸い、すぐに襲われる事はなく、男たちは部屋を出て行ったようだ。
周りを見ると主寝室とおぼしき部屋のベッドに横たえられた私とソファーの上にマリーの2人だけになっている。階下から声がするので、男たちはそちらにいるらしい。

「マリー、大丈夫？」

幸い縛られていないので、ソファーに近づいてマリーをゆり起こす。

「うーん…セリーナ様、申し訳ありません。」
「私こそごめんなさい。マリーを巻き込んでしまったわ。怪我は？」
「殴られた場合は痛いですが、大丈夫です。それより状況は….」
「あまり良くないわね。本当に貞操の危機になるとは思わなかったわ。公爵様が助けてくれるといいけれど。」
「セリーナ様、結構冷静ですね。」
「怖いわよ。でも怖がっているだけじゃ解決しないから。」

窓は開かない。扉の前には多分1人くらい見張りがいるだろう。どうする？マリーと2人ここを抜け出せる？

「とりあえずこの部屋で待っていても何も解決しないから、隠れられる場所を探しましょう。」

金持ちや貴族の屋敷なら使用人が使う通路や部屋が見えないところにあることが多い。マリーに探してもらうと寝室の隣の書斎に通じているドアは鍵が開いていて、のぞくとそちらには使用人用の目立たないドアがある。

2人で使用人用の通路に入り、外開きのドアの前に椅子を置いて開かないようにした。これでこのドアを使ったと気づかれにくいはず。外はもう暗く、逃げ出すのは危険に思えたので隠し3階にある使用人用の部屋に入り、中から鍵をかけた。